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零-1

 いつからそれが始まったのかは知らない。


 私の中には両親に愛された記憶がないから。


 昔、父方の祖父母が話してくれたことがある。両親が私の誕生を、とても喜んでいたって。私はその言葉を、言葉としては理解したけど、感情では理解できなかった。


 産まれた時は喜ばれた。


 ならいつから両親の気持ちが変わったのか?


 私はいつかそのわけを知ることができるのだろうか。

 ……私はそれを、本当に知りたいのだろうか……


 私が憶えている一番古い記憶は、ただ不思議に思っている自分だった。

 何故私と茜は違う保育園に通っているのか。

 茜は毎朝母親が送り迎えをするのに、何故私は通いの家政婦さんがその役目をしていたのか。

 私はいつも時間いっぱいまで預けられ、たまにその時間を過ぎても誰も迎えに来ない。そんな日は、小学生だったお兄ちゃんが泣きながら迎えにきてくれるのは何故なのか。

 私はきっと、不思議に思う事で深く考えないようにしていたんだろう。


 両親との思い出に、楽しいものは一つもない。

 父親はいつも私のことを見なかった。声をかけられた事もない。

 父親にとって私はいない存在だったのだろう。何かされた事もない代わりに、何もしてはくれなかった。

 母親は私のことを自分の子とは認めていない。そして私のことを憎んでいる。私が何をしても、しなくても、罵ることしかなかった。


 幼い頃、茜は私を親戚の人間と信じていたようだった。

 公園で遊んでいた時に、茜の友達に「茜ちゃん家のイソーロー」とからかわれたことがある。

 すぐ近くのベンチに座りながらこっちを見ていたお兄ちゃんが、その子達のことを叱ると、その子達にそう話したのは茜だと言われた。

 この事を家でお兄ちゃんに叱られた茜は「お兄ちゃんの妹は茜だけでしょう? 何でいつもイソーローのじゃまものを気にするのっ!」と、泣き喚いた。


 『居候』『邪魔者』


 その言葉は、その頃の母親の私に対する口癖だった。

 どうやら母親は、茜に私は親戚の子で、我が家で面倒をみてやっているんだと教えていたらしい。

 私はその事を、夕方買い物から帰ってきた母親と、お兄ちゃんの口論で知った。


 なんで、なんで、なんで、なんで……


 私はあの家にいた時、その言葉がずっと頭の中にあった。


 何で私はおやつを食べたらいけないの?

 何で私のご飯はみんなの半分もないの?

 何で私の入学式にはきてくれないの? 授業参観も、卒業式も……

 何で茜には可愛い洋服を買うのに、私はお兄ちゃんのおさがりなの?


 あの家で私に話しかけてくれるのも、お菓子やご飯をくれるのも、優しくしてくれるのも、味方になってくれるのもお兄ちゃんしかいなかった。

 お兄ちゃんがいたから、私はあの家で生きていけていた。


 私はお兄ちゃんに依存していた。

 その私のせいで、いつも私の味方でいてくれたお兄ちゃんは、大学受験の時、私のために志望校を変えてしまった。

 お兄ちゃんが本当に行きたい大学は、家から通うには遠かったから……

 いろいろあってそれを知った私は、お兄ちゃんの希望を潰してしまった事に後悔した。お兄ちゃんに頼りきりだったことを反省して、お兄ちゃんに行きたいところに行って欲しいと頼んだ。

 お兄ちゃんが大好きだから、これ以上迷惑をかけたくなかったのだ。

 私をあの家に一人で置いていけないというお兄ちゃんに、何かあったら頼るからと必死に説得した。

 私の説得に折れたお兄ちゃんは、無事に行きたかった大学に受かり、家を出ることになる。


 お兄ちゃんがいなくなった中学二年生の春、私の辛い日々が始まった。

 それは7月になり、夏休みに入ったお兄ちゃんが家に帰ってくるまで続いた――

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