落下雪
ハラハラ舞い堕ちる雪を見て、アイツを思い出した。
アイツは一昨年死んでしまった。
そう、こんな雪の日に……。
一昨年前の12月上旬…
例年にない寒波が襲ってきたため、気温は氷点下辺りを彷徨ってた。
窓側で最高尾の席だったアイツは、いつも窓を少し開けては『今年はホワイトクリスマス?』と、嬉しそうに微笑んでいた。
子供みたいに頬を赤らめ、白い吐息を漏らし、乾燥した晴れた空を見上げるアイツの瞳が、真夏の太陽の様に見えた。
知らなかった。
アイツか卑劣ないじめにあっていたなんて…。
気付かなかった。
誰よりも傍に居たはずなのに…。
アイツがいつも一人だったのは友達が居なかったから。
忘れ物が多かったのは、物を隠されていたから。
一階で机を運んでいたのは、前日の放課後に窓から投げ捨てられていたから。
自分でいけているといった花は、アイツの机に飾られていたもの。
いつでも、どんなときにでも、アイツは笑っていた。苦笑いとか、引きつった顔とかじゃなく……文字通り屈托の無い、しかも暖かい笑顔だった。
そして、クリスマス・イヴ……。
アイツの最後の言葉は
『明日は雪だよ』
笑って言った。
クリスマス……
アイツの言葉に操られるように、空は灰色に曇っていった。
無数の白い粉が、キリストの誕生を祝うかのように、乱舞しながら地に堕ちてゆく。
それを静かに見ながら、足はアイツの家に向かっていた。
アイツの住むマンションの前に辿り着いた時に、一ひらの雪が目の前を落下していった。
何かも一緒に落下した。
ゆっくり見下ろすと、人が倒れていた。
アイツだった。
冬薔薇の紅色のような血が、白い雪を濡らしていく。その様があまりにも綺麗で、その場を動くことが出来なかった。
早く通報すれば、一命は取り留めたかもしれない。
これはきっと、気付くことが出来なかった自分に与えられた戒めなのだろう。
もうすぐ、クリスマスがやってくる。
今年の気温も低い。
条件は揃っている。
『今年はホワイトクリスマス?』
灰色の空から
アイツの笑顔が見えた気がした。
初短編です。以前の大雪を見ながら考えたもので、その時の私は少し精神不安定状態でした。なので、少々……ってか、かなり暗い内容ですが最後まで読んで下さってありがとうございました。また短編を書こうと計画中です(笑