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【 2011年11月11日11時11分 】最終回

最終回、遅くなってスミマセン!

やっぱり土日は時間取れないと反省しました。

ちょっと長いですが読んで頂ければ嬉しいです。

 

 今日で多分予定していた作業が終る。

 ライナーは朝から少し元気がない。そして美子も。

 願い事を考えていてあまり眠れなかった。 

 寝不足だ。

 でも作業を始めたらいつもよりも時間がかかったけれど、支障なく進んでいく。

 おそらく今日中に予定の枚数は終わるだろう。

 これが終ったら、美子は元の世界に帰ることになる。願い事は決めていない。

 この世界とお別れで、せっかく仲良くなれたライナーとも会えなくなると思うと、なんとなく寂しくて胸が痛んだ。

 願い事を考えようと思っていたけど、決まらなかった。

「あと一枚…」

 最後の一枚に手をかける。

 その時。

 荒々しいノックの音が部屋中に響いた。

「まさか…」

 ライナーは呟くと、私が魔法陣を書いた羊皮紙の束を抱えて部屋の中央へ行った。

「どうしたの?」

 美子の疑問にも答えず、ライナーは中心に羊皮紙を置くと魔法陣を描く。

 書いた事があるデザインだから判る、これは他の場所へ物を移動する術。

「何処かへ移動?」

「そうです。取り合えず、追っ手の届かない場所へ移動しましょう」

 美子の頭の中で反政府組織や革命という文字が踊った。美子はこの国の事を知らないが、もしかしたら命の危険もありえるのかと考え、眩暈がしてきた。

「追ってって…もしかして、政府とか?」

 こわごわ言うとライナーは苦笑した。

「そんな事はありません。法律に違反することはしていませんよ。でも魔道書を作ることを快く思っていない団体もあります。既得権益って判ります?」

「元々、あった権利や利益でしょう」

「そう。それです。魔法で商売をしていた人たちには、民衆が魔法が出来るようになるのを快く思わない人達がいます。その人達が邪魔をするのですよ。色々と言いがかりをつけて…」

「じゃあ。邪魔しに来るのは確かなのね」

「そうです。もう一枚で終りだというのに…ここまできて、また最初からなんて。折角ミコ様に沢山魔法陣を描いていただいたのに…」

 命の危険が無いと知って、ホッとした。

 ライナーは床から物が消えると、魔法陣を消して、新しい魔法陣を書き始めた。

 新しい魔法を発動させようとしている。

 その時。

 大きな音を立てて何かが崩れる音がした。

 そして複数の荒々しい足音が近づいてくる。

「美子様こちらへ来て下さい」

 ライナーが叫ぶと同時に人影が美子の後ろに迫っていた。腕を掴まれ、羽交い絞めにされた。

「ライナー!」

「美子様」

 美子はバタバタと暴れたが、押さえつけられ逃れられない。

 ライナーは美子の後ろをチラリと見ると、辛そうな顔をした。何かを諦めた顔をし、小さく口を動かす。

 美子の脇から若い男性が二人飛び出し、部屋の中央へと走った。

 男達が中央に到達する前に、ライナーの足元がユラユラゆれる。

 その映像はライナー全身へと広がり…

 男達がライナーの居た場所へと到達した時に彼の姿は消えていた。

 ライナーは他の場所へ移動したのだ。美子をこの場に残して。置いてきぼりにあって、美子は呆然とした。

 中央から戻ってきた見知らぬ男は、憤怒の形相で美子の目の前に立ち、何かを言った。

 だが、何と言っているのか判らない。

 聞いたことのない発音と言葉。

 理解が出来ない。

「私どうなってしまうの…」

 情けない声を出すと、目の前の男が悔しそうな顔をした。

 


 呼び出した者としか話せない。ライナーはそう言っていた。

 だから重要な情報を美子が持っていても漏れることはない。

 美子は男に手に縄をかけられて、引っぱられた。どこかに連れていこうというのだろう。

 抵抗することは出来ず、美子はなすがままに従った。

…後一枚、魔法陣を書けば帰れたのに。

…変な感傷に捕らわれず書いていたら、今頃とっくに帰れたのに。

 後悔しても時間は元に戻れない。

 このままライナーが迎えに来ない可能性もあったが、そんな事をする彼ではないと一緒に暮らして判っている。

…多分。私を迎えに来る。

 でもそれが危ないと思うのだ。

 この場所で待たず他の場所に移動するということは、相応の準備の出来ている場所だということになる。

 美子は自分のことよりもライナーの事が気がかりだった。



 連れて行かれた場所は豪華な屋敷の客間だった。

 美子がこの世界で泊まっていた部屋の三倍は広い部屋。

 客人をもてなすのは慣れているのか、美子を捕らえた男は不機嫌な顔のまま、生活に必要な物の置き場や場所を身振りで教えた。

 乱暴なことは、捕らえられた時と手に縄をかけられた時だけで、丁重に扱われているのが判る。

 ライナーたちを邪魔する暴挙に出ているのに、意外と紳士だった。

 



 捕らわれて三日経つ。

 美子は部屋で過ごすことが強制されたが、それ以外はほぼ自由だ。

 部屋のカーテンや絨毯の文様が珍しくて、デッサンを取りたかったけど、筆記用具を望んだが硬い顔で断られた。

 やることがないので、日がな一日ベッドでゴロゴロして過ごす。

 暇で退屈でつらい。

 初めての感覚を美子は新鮮に感じた。

 今まで時間に追われることはあっても、時間が余ってしょうがないということはなかった。

 描けないと思うと、描きたくなってくる。

 この異世界で経験したことを描きたい。

 ライナーを描きたい。

 強い。

 強すぎる欲求。

 こんなに純粋に描きたいと望んだことはなかった。

 どうにか筆記用具を手に入れたい。

 方法はないだろうか。

 考えながらベッドの上でゴロリと寝返りを打つ。

 うつ伏せから仰向け。

 天井を向いた時、見慣れた男性の顔が目に入った。

「きゃ……」

 叫び声を上げそうになったところ。口を塞がれる。

 目の前の男性は…ライナーだった。笑顔を浮かべている。

「美子様。助けに来ました」

「ライナー。どうやってここに?」

「最初から場所は判っていたのです。入る方法と邪魔されない細工に時間がかかっただけで…さぁ、最後の一枚を描いて下さい。これで貴方は元の世界に帰れることが出来ますよ」

 言いながらライナーは文字で書かれたライナーの魔道書と羊皮紙とペンを床に広げた。

 最後の魔法陣を書きながら気になることを聞いた。

「ライナー達は大丈夫なの?」

「ええ。もうほとんどの複製は出来てます。もし私が捕らわれても作業は中断されません。それに作業はこれで終りですからね。発行してしまえば私達の手からは離れてしまう。誰にも邪魔されません」

「これからどうするの」

「どうと言われても…変らないと思いますよ。今日よりも明日の生活が穏やかで健やかに過ごせればいい。私は自由であるべきものが狭い範囲に限定されていることに不満があったそれだけです。自分の気持ちを通しただけ。それで他の人も笑顔になるなら、こんなに嬉しいことはありません」

 この素朴さがライナーだ。

 そんな彼だから描きたいと思った。

 最後の一枚は邪魔されることなく、すぐに描きあがった。

「終わりましたね」

「そうね。終っちゃった」

「ありがとうございました。契約成就です。願い事は決めましたか?」

 今まで決めて無かった。捕らわれてから、そんな事は全く考えなかった。

「早く言って下さい。私達からのお礼、受け取って下さい」

「それは…」

 悩んでいたら、体が内側から振動しはじめた。

 何かが自分を呼んでいる。

「体が内側から揺れている」

「貴方の体が元の世界に戻りはじめている証拠です。帰ってから願っても叶わない訳じゃありませんが、魔法の使えるこの世界で魔法をかけた方が確実です」

 帰りたくない。咄嗟に思う。

 それだけこの世界が好きになっている。

 でも、ちょっとした旅行と思って滞在するのと、一生家族にも友達にも会えないのは違う。

「一番したいことを願ってください」

 世界が揺れる。

 目の前のライナーが笑顔で話すがその像も揺れている。

 声も大きくなり小さくなりで聞き辛い。

 深く考える余裕は無かったが、「一番したいこと」という言葉に美子は無意識に答えていた。

「ライナー。私は貴方を描きたいわ」

 言葉を言い切った直後。

 目の前が真っ暗になった。



 カラーンッ。

 金属の落ちる音で目が開いた。

 足元には缶コーヒーの空き缶が転がっている。

 顔を上げると、公園の時計が目に入る。

 時計の針は11時11分…いや。

 目の前で12分になった。

 僅か一分の間の出来事。

 はじめに美子が思ったのは『描きたい』という事だ。何を優先しても絵を描きたい。

 美子は公園を足早に出ると絵筆を取るために家路へと急いだ。




 

 それから、三年。

 美子は結局、就職活動を止めた。

 夢中になって絵を描き続け、大学は無事卒業できたが就職浪人しかけた。

 だが、就職が決まってない事を同期の誰かから聞いたのか、以前バイトをしたデザイン会社からパートの仕事をして欲しいと持ちかけられた。

 経営が上向けば社員の道も考えられると説明された。

 その言葉を信じたわけではないけれど、自分に出来ることをやるだけだと思うと気が楽になった。

 そして今年。会社の業績がほんの少し持ち直し、ようやく契約社員になった。




 全てが寝静まる丑三つ時。

 美子はまだ眠らずにいた。明日は休みだ。夜どれくらい起きていてもいい。

 最近では美大同期の友人と趣味で定期的に展覧会をしたり、よく出来た作品は大きな作品展に出したりしている。

 賞は良くて入賞止まりだけど、止められない。

 描きたいものが次々と浮かんできて、作品として消化するのが精一杯だ。

 何かために描くのではなくて。

 描く事を純粋に楽しんでいる。

「動かないで。ライナー」

「こうですか?」

「そうよ。そうそう…」

 椅子に座ったライナーは片手で魔道書を持って、片手を挙げポーズを取らされていた。

「こんな不自然な姿勢でジッとしているなんて」

「あ…手動かさないで。そのまま」

「魔法で私の姿を写したのじゃダメですか」

「だめに決まってるじゃない」

「いつまで。この姿勢でいなけらばならないのですか」

「私がいいと言うまで」

「そんな…」

 そうあれから、時折向こうの世界への通路が開くようになった。

 美子が描きたいと強く望んむと一週間も立つころに通路が開く。

 美子とライナーの時間の都合がついた時に自然と開く。

 時間はおおよそ三時間程度。

 はじめて通路が通ってライナーと再会した時は、ライナーも驚いたのか大事な魔道書を自分の足へ落とす失態をした。

 美子の願い事はこんな形で叶ったのだ。


【 2011年11月11日11時11分 】


 この不思議な魔法は確かにあった。






短編【 2011年11月11日11時11分 】は、これで終りです。

読んで下さった方々ありがとうございました。

(この題名が目を惹いたのか、11月11日の訪問者が在り得ない数でビビリました。今となってはいい思い出ですw)


内容は軽く書くつもりが、思ったよりもディープになったような…そんな気がしますが、気のせいですね。きっぱり。


さて、次回は今週中ごろから同じテーマでBLで短編を書こうと思っています。

場所を変えて三回から四回の予定で作ってみます。

BL短編小説が終ったら、来週辺りにまたこの場所で同じテーマの違った話で書きたいです。

とりあえず平日不定期掲載の感じで…


もし気になるようでしたら、また訪問して下さいますと嬉しいです。



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