【 2011年11月11日11時11分 】その2
昨日は三部構成と書きましたが、長くなったので四部構成に変えます。
これ以上は変更ありません。今回は起承転結でいきます。
今回は「承」で。
目が覚めた美子の視界に飛び込んできたのは漆黒の長い髪をし、真紅の瞳の男性だった。
慌てて起き上がる。美子は横になっていたのだ。
起きて判ったことだが、狭い部屋の中ベッドが置かれ、美子はそこに寝かされていた。
年齢は判らないが、自分と同じくらいだろうか。
細い顔に鋭い目、鼻筋は真っ直ぐで、全体に彫りの深い顔をしている。
部屋の中は全体に薄暗く、男性の服も黒っぽい。
マキシ丈のワンピースにバスローブをかけたような服の形だけど、布には不思議な光沢がある。
腰には何処かでみたような文様が掘られた太い革のベルトをしている。
体の線が判らない服を着ているのに、男性だと思うのは、人をデッサンしたたまもの。
見えているラインだけでも男性の骨格だと判る。喉仏を確認するまでもない。
そしてその姿は映画で見るファンタジー世界の魔法使いそのもののだった。
「目覚められましたか。異国の絵師よ」
「何その名前…私には高橋美子って名前があるのよ」
「そうでしたか。大変失礼いたしました。タカハシミコ様。私はライナー。ライナールービン。以後ライナーとお呼び下さい。我が呼びかけに応えて下さりありがとうございました」
「何。その呼びかけって」
「呼びかけは呼びかけでございます。記憶にありませんか」
「無いわね」
「そうですか。でもこの場所に来られたという事は、呼びかけに応えたという事です。私は魔道書編纂に必要な絵を書いて下さる、絵師を求めた。そして表れたのがタカハシミコ様です。絵を書ける人材と御見受けいたしますが如何ですか」
「あ…なるほど。そっか判った」
何をどうすれば人が違う世界に行くのか判らないけど、私が呼びかけに応えたという意味は判った。
「私が絵を描きたいって思った時、あなたが絵を描ける人を求めていたって事ね」
「ええ。そうです」
「でも絵を書ける人なんて他の世界の人じゃなくてもいいんじゃない」
「それが…この世界の者が魔方陣を描くと術が発動してしまうのです。今までは文字で説明した書のみでした。私はそれをもっと判り易く専門家以外の人にも読めるように作りたいのです。そしてそのためにはこの世界の者ではない魔力を帯びない者が、魔法陣を描かなければならない。そうでなければ、色々と不都合が生じるのです」
「どういう事?」
ライナーは少し考えて、胸元から象牙のような薄黄色の、厚い紙のような布のような革のようなものを取り出した。
広げるとベッド脇にある台の上から羽ペンを出し、紙のようなものに二重の円の中と外に変な文字や形をバランスよく配置しながら書き込む。
もう少しで円の全てが埋まるという時にペンを上げた。
「あと一つ呪文を書けばこの魔方陣は完成します。見ていて下さい」
迫力のある顔で言われ私は頷いた。
目の前で文様が書き込まれていく。
端まで全て書き込まれた時、目の前が光に包まれた。
眩い光に目を閉じようとした…その時。
中央から白い鳥が現れた。
その鳥は翼を広げて羽ばたき、私の前をすり抜けたかと思うと開いた窓から部屋の外へと飛び立っていった。
美子はその姿を呆然と見送った。
「あ…出ていった:
「心配ありません。伝書鳩ですから、すぐ戻ってきます。大掛かりな魔方陣だと声による呪文なども必要ですが、単純なものは陣の完成で術が行われます。その中には炎を呼ぶものもありまして…書いたものが消えるだけならまだしも、全てが燃えてしまうと困ってしまいます。未完成のまま図に表して説明で補足することも考えましたが…」
説明が長くなりそうだったから美子は口を挟んだ。
…彼の言うことは判る私にも私の都合がある。
「色々考えた挙句、絵を描いても魔法が発動しない人を呼べばいいって思いついたって訳ね。判ったわ。でも私長居は出来ないの、私の来た世界でも私は他にやらなきゃならない事があって…ごめんね。帰してくれない?」
「それが…言いにくい事ですが。呼びかけに応えた以上、成就するまで帰還は出来ないのです」
帰れないと聞いて困ってしまった。就職活動、今のままじゃヤバイ。
「えー。帰れないってこと!」
「ええ。今は。でもご安心を。この術は呼び出した者の望みが成就すれば、自動的に帰還できる術になっております。即ち」
「仕事が終れば元の世界に戻れるってこと」
「ええ。そうです。それに、ここで過ごした時間は向こう側とは関係ありません。ここでの仕事が終れば、着た時間に戻れます。タカハシミコ様は聡い方ですね」
さっきは就職活動のことしか思い浮かばなかったけど、よく考えたら最悪この世界で一生生きていく可能性もあったわけだ。
そうなったら、就職どころじゃない。
こんな場所でどうやって生きていくってのよ。
だから 元の世界と元の時間に戻れると聞いて、本当にホッとした。
「しょうがないか。それしかないのなら。それで何を書けばいいの」
「話しが早くて良かった。この場所で滞在中のタカハシミコ様の身の安全。衣食住はご心配なく。客人として丁寧に扱うことを誓わせて頂きます」
ライナーは美子の手を取ると、屈んで薬指に唇をつける。
「な…何をするのよ…」
慌てて手を引っ込めると、ライナーは不思議そうな顔をした。
「太陽の加護の指に誓いのくちづけをしただけですよ。誓いをした以上、言葉にしばられます。タカハシミコ様は安心して仕事をして頂きたい」
何だか元いた世界とはルールが違うようだけど、魔法使いというからには言葉に出したことに縛られるみたいだという事が判った。
…しょうがない。腹をくくるか。
…さっき見た魔法陣の図は難しくなさそうだった。
…問題は全体像を知らずにライナーの求める絵を描かないといけないということ。
「ま。なるようになるか」
美子は自分に言い聞かせるように言った。
長くなる癖が抜けない様子。
次はもう少しスリムな文章でいければイイナ。