【 2011年11月11日11時11分 】その1
破序急で言えば破の部分。物事のはじまり。変る世界。
の予定でしたが、四部構成に変更しました。
起承転結でいきます。今回は起。
1の重なる日には何かが起こる…
「本当に起こるのかな。何か…」
怪奇現象が起こると言われる公園。
公園を一望するジャングルジムに登って、美子は自販機で買ったホットの缶コーヒーをあけた。
晴れてはいるが、吹きすさぶ風は冬の使者であるかのように冷気をまとっており、美子のダウンジャケットの隙間から入りこむ。
すっかり寒くなった公園は、春から秋口までは遊びにくる子供やその親が少しはいるが今日は無人だ。
寒さをしのぐため、温かいコーヒーをひとくち含む。
中央にある時計は11時を僅かに過ぎたところだ。
今日は2011年11月11日。
1の数字が横並びする日と時間。
この日には何かが起こると言われている。
前に不思議な現象が起こったのは2001年の1月1日1時1分だったとか。
不思議な現象には諸説ある。
人が消えたとか。死んだはずの人が現れたとか。
一面が畑だった30年前の風景が僅かの間、この場所から見えたとか。
誰が見たかは判らないが、美子の耳に入る時に知り合いの友人の兄とか姉になっているところを見ると、嘘のようなホントのような話し。
この微妙な信憑性が実に都市伝説らしいと思う。
半ば冗談で美子はその日起こる何かを目撃しようと公園へ来た。
美子の他には都市伝説の真偽を確認しようと思っているような酔狂な人は誰もいないようだ。
高橋美子は美術大学生油絵科の四年生だ。
実家暮らしで、就職活動中。
内定はまだもらっていない。
本当は卒業課題に本腰を入れたいけれど、これからの事を考えると頭がいっぱいになって手が進まない。
このまま提出せずに卒業出来ないってことになったら、もう一年大学に残れるかなって甘いことも考えている。
けど、ウチの経済力では難しそう。
自分の強い希望で、美大に入学して通わせてくれただけでもラッキーと思わないといけないのだけど、学校を出た後も絵にかかわる仕事をしたいと思っている。
でもそれはかなり難しい。
半年前までの時からバイトに入っていたデザイン会社も、不景気の煽りを受け、去年から新卒の正社員は取っていない。
いろいろ考えたら気分が暗くなってきた。
そういう事を考えないためにここに来たというのに…
…絵を描きたいな。
ふと思う。
そう言えば、最後に何かを書いたのは二週間前だ。
落書きすらしていない。
以前は暇さえあれば何かを書いていたのに。
ペンを持っても線の一本も書けない日々が続いている。
…こんなの私じゃない。
…気晴らしでいいから、何か書こう。
思い立ったら、書きたくなった。
ジャングルジムから降りる。
足を地面につけた時、何処からか声が聞えてきた。
『 我の呼びかけに応えし者、異国の絵師よ我が元へ来たれ 』
「何?どこから声がするの」
周囲を見回すと公園の時計が目に入った。
時計の針は11時11分を示している。
…もしかして、これが…
美子の意識がハッキリしていたのはここまでだった。
突然、足が何かに吸い込まれていく。
落下する感覚。
まるで、地面の底が抜けたかのようだ。
それと共に目の前が真っ暗になり、意識は遠くなっていく。
…落ちる。
美子は暗闇の中で目を瞑った。