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~分け合う人数と食事の喜びは比例する

「ゆーあっまいさーんしゃーい、まーいおんりっさーんしゃーい」

豚肉を炒める音をバックミュージックに菜箸を振りつつ少年が口ずさんだ。彼の名前は穂麦啓斗。中学二年生にして共働きの両親を支える少年主夫である。

「ご機嫌だな。少年よ」

その様子を目を細めて見守るのはしなやかな二股のしっぽをもつ猫である。彼はこのところ機嫌の悪かった少年が元気になったことを喜んでいた。家事いっさいを取り仕切っているとはいえ、まだ中学生である主を、この老猫は大層気遣っているのである。

「よく聞いてくれました!」

人差し指をぴしりと立て―菜箸が猫に当たらないよう先を自分の方に向けるのを忘れずに―啓斗少年は高らかに告げた。

「なんと国産豚肉が六割引き! と言うわけで今日は肉じゃがね。良庵にも分けたげるから!」

「肉じゃがは食べられないのだが」

「良庵の分は別にして、軽く湯通しするから平気だよ。生じゃ、寄生虫が怖いしね」

この俺に死角はない! と少年は胸をはる。

「ところで少年。フライパンの面倒はいいのか?」

「わっやばっ! 焦げる焦げる!」

完全に手元がお留守になっていた啓斗少年は慌てる。さらに電話まで鳴り出し悲鳴のような声を上げる。

「ちょっと良庵代わりに出て!」

やれやれ死角はないんじゃなかったのかと呟き良庵は居間へと向かった。



「えー、父さん今日も帰れないの?」

電話は人での少ない地方病院で看護師をしている、少年の父親からだった。久しぶりに早く帰れると言っていたのだが職員の一人が過労で倒れ今日も帰れないらしい。話を聞いた啓斗少年は見るからに不機嫌になった。上機嫌の理由は父親のことだったのかもしれない。

「寂しいのか? 少年」

「ち~が~う」

少年の不機嫌顔は明らかに良庵の言葉を肯定していたが、否定し肉じゃがの皿を指差す。

「作りすぎた」

「なるほど」

忙しい父親は滅多にまともな食事が食べられない、故に啓斗少年は父が帰ってくる日はかなり多めに食事を作るのが恒例になっていた。今少年の母親は長期出張中。肉じゃがを消費するのは啓斗少年一人だ。

「このぶんじゃ明日も肉じゃが明後日も肉じゃが! あ~あ」

「まあそう言うな少年。本当にかわいそうなのは好物を食べ損ねた父上だ」

「……うん。そうだよね。わかっちゃいるんだけどさぁ」

そう言いながらも恨めしげに皿を見る。余るというのは時に足りないことよりも残酷だ。そこに居るべき人がいないのをより一層際立たせる。

「……まあ、さっきは食べられないと言ったが、私も妖怪だ。食べられないこともないぞ?」

「いい。良庵年なんだから無理しなくていいよ」

溜息を一つつくと少年はタッパーを取り出して肉じゃがを少し取り分ける。

「差し入れる分か?」

「うん、明日病院に持っていこうと思って」

老猫の言葉に少年は気を取り直すように少しだけ微笑んだ。と、同時に玄関のチャイムが間抜けな音をたてる。

「こんな時間に誰だろ?」

首をかしげつつ少年は玄関に向かった。


「うおお! トベ! トベじゃん! ちょうど良かった。肉じゃが食ってけよ。肉じゃが! ちなみにキサマに拒否権はない!」

「トベじゃなくてウラベだって何度も言ってるだろ。良庵先生いるか?」

そう答えるのは啓斗少年の同級生である卜部(うらべ)稲城(いなき)だ。眼鏡をかけた知的な印象の少年である。

「おや、珍しい。卜部少年ではないか。それと…」

ここで老猫はすっと目を細める。

「ミヅエ様、ですかな?」

「ご明察。さすが先生っすね」

面白がるような声と共に何もない空間に若い男が浮かび上がる。

啓斗少年が驚いて目を丸くすると、青年は目線を啓斗少年に合わせにっこりと笑い

「話をするのは十年ぶりくらいっすかね。啓斗君。椎岳神社の水神、ミヅエヌシっす」



一瞬固まった啓斗少年だったが、考えるのを放棄して二人を家に上げた。山盛りのご飯と大量の肉じゃがをでんとだす。

「俺夕飯食ってきたんだけど」

「ええい、俺の飯が食えんのかキサマ」

「穂麦もしかしてこんな時間に押しかけたこと怒ってる?」

「いや、非常に良いタイミングで来てくれたと思う。

というわけでゴチャゴチャいわずに食え」

「……じゃ、遠慮せずに頂こうかトベ君」

「何あんたまでトベ呼びなんですか、ミヅエ様」

「気にしない気にしない。俺とトベ君の仲じゃないっすか」

しれっとした顔でいけしゃあしゃあと言い切った後、青年はいただきますと手を合わせる。

「気持ち悪いこと言わんでください」

「あ、これうまい」

「聞いてねーしコイツ」

青年のことはまるっきりスルーしていた啓斗少年だったが手料理を褒められて悪い気はしない。

「本当? お代わりまだあるよ!」

「それはありがたいっすね」

「穂麦、お前なあ。今更だけどいきなりこんな怪しい奴が来て何で突っ込まないんだよ」

「いや、突っ込みどころが多すぎてどこから突っ込めばいいのか……」

啓斗少年はちらっと青年を横目で見やる。だいたい格好からして変だ。なんと形容していいのか啓斗少年には言葉が見当たらない。長い髪を繊細な組紐でくくっているのはまだわかるが、ボタンではなく紐で合わせてある淡い草色の服を帯でまとめた服なんて世界史の教科書でも見たことがない。さらに下に長いプリーツスカートによく似たものと裾を紐でまとめたズボンを履いている。

 良庵に見たことがあるか聞こうと視線を落とすと猫又はぷるぷると震えていた。

「啓斗少年。相手が誰だか分かってるのか?」

「知らない変わったカッコのおにーさん」

「格好? ああ」

青年は食べるのをやめてめんどくさそうに指を鳴らした。するとあっというまにごく普通のシャツと黒ズボンに変わる。

「ま、こんなもんかな」

ぽかんと口を開ける啓斗少年に得意げな顔をする青年を卜部は軽く睨んでつぶやく。

「最初からその格好でいればいいのに」

「忘れてたんだって、隠形してたし」

「まったく卜部少年までミヅエ様にそんな口を……」

「ああ、いいのいいの、気にしてないし忘れられてるのも予想の範疇っす」

ひらひらと手を振り青年はいかにも興味なさそうに言う。

「そういえば話すのは十年ぶりって」

「落ちたっしょ? 俺の池に」

そう言われて必死に記憶を探る。

「俺の池って、トベん家の神社の?」

「そうそう。毎年初詣に来てるとこ。俺はそれで君のこと知ってたけど」

啓斗少年は完全に思い出した。四歳の時の初詣を。池に落ちて溺れたところを知らないお兄さんに助けてもらい大泣きしたことを。親戚や幼稚園の友達に見られてしばらくというよりここ最近までからかわれ続けた苦い思い出である。

思い出して欝になっているとけらけらとミヅエ様は笑って言った。

「君のお父さんも溺れてたから気にすることないっすよ」

「嘘!」

「ほんとほんと、しかも中三の時に」

「中三!」

少年には想像もつかない話である。身を乗り出したところで良庵から横槍が入った。

「ところでミヅエ様。今日の御用事は」

「あ~、そうだった。忘れるとこだった。先生明日集会ね。七時から。もちろん夜の」

「それだけでしたらいつものように使いをよこしてくださればいいのに」

「議題が議題だから。作業もあったし」

無視されてむくれていた啓斗少年はここぞとばかりに話に割り込む。

「何かあったの?」

すると青年はうってかわって暗い表情になる。

「う~ん。話していいのかなこれ。嫌な話だけど」

「穂麦は知らない方がいいよ、忘れろ」

「だからなんなの」

無視されると思うと少年としては面白くない。

「トベは知ってんでしょ。教えてよ」

「次元にでかい穴が空いちゃって、女の子がひとり連れ去られた」

「ミヅエ様!」

思っていた以上に重い話に少年は一瞬固まる。

「しかも作為的らしくて、日本全国ぼこぼこと空いてるらしいんすよ。で、次元を完全に閉じるか通常通りにしておくか意見をまとめて出雲に提出しなきゃならなくなって……できればさっさと取り返したいんすけど提出しないと許可が降りないんすよ。これだからお役所仕事は……」

うんざりした様子で青年は続ける。

「え、取り返せるの?」

それを聞いて少年はホッとする。

「それなりの儀式を行えばね。難しいけどできないことじゃない。萌木がいればなぁ」

「ああ、トベん家のねーちゃん」

卜部家の長女は優秀な術者で全国を飛び回っていると啓斗少年も聞いたことがある。

「悪かったな、優秀じゃなくて。仮にいても許可が降りなきゃ無理だろ」

「いやいや、トベ君は十分優秀ですヨ~。萌木が規格外なだけで。痕跡なしで異世界につなぐなんて普通無理っしょ」

「て、アンタ許可なしでやるつもりかよ」

「ミヅエ様……」

少年と猫に呆れられても神は動じずに肉じゃがをほおばっている。

「攫われた子まだ小六なんすよ。早く親元に返してやりたいじゃないっすか。許可なんて待ってたら何箇月かかるか……。まあ、今はおとなしく待つしかないんすけど」

言っていることはともかくそういう青年の顔は氏子を守るちゃんとした神様のもので啓斗少年はちょっとだけ見直した。そうだその子はこうして温かいご飯を食べていないのかもしれない。

「そっか、うんじゃあ頑張って、良庵も」

「うむ、嘆願書がきちんとできなければそれも水の泡になるからな。明日は身をいれて挑まねば」

「期待してるっすよ~。なんたって良庵先生は……」

それからは明るい話題で盛り上がった。口調はおかしいがミヅエノミコトはなかなか話し上手で良庵の若い頃の話や昔の卜部家の逸話、少年たちの両親のなれそめなど、面白おかしく―話の種にされた良庵は多少苦い顔をしたが―話してくれたのだ。少年にとって久々に明るく過ごせた食卓だった。良庵と二人で黙々と食べることの多い啓斗少年にとって人と話しながらの食事は珍しく、何より話の内容は遠い両親と彼とをつないでくれる物だったのだから。

そんなわけでこれから次元の補修に行くという二人が出ていった後も啓斗少年はご機嫌な様子である。タッパーの中以外の肉じゃがは無くなってしまったが、食事のお礼にとミヅエ様が不思議なウロコをくれた上に(貴重なものらしく良庵に大事にとっておくよう何度も念を押された)いつでも遊びにおいでと言ってくれた。妖だけしか参加できない秘密の祭りにも招待されている。

何より、聞いた話を父親に確かめるのが少年は楽しみでしょうがない。


余計な設定付け足して訳わかんなくなったんだぜ!

新キャラがべらべら予定にないことまで話し出して焦った。

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