恋人≒友人
「先輩」
「ん、何?」
皮靴を履いてつま先で軽く床を叩いていたら、可愛らしい声に呼び止められた。先輩っていうんだから後輩なんだろうけど、呼び止められるほど親しい後輩っていないし……誰だろ。
「私、先輩の事が好きです……一人の女性として」
「……うん」
いや、うんじゃなくて。目の前の居るのは2年の子でしかも、同性。女の子。そして今私はこの子から告白……された? いや、可愛いよ? 二重でくっきりした眼もととか、脚細いし小柄だし。でも、ねえ?
「私、女だよ?」
「はい」
いや、はいって。
「女の子、好きなの?」
「はい」
あ、即答なんだ。
「……なんで?」
「だって、べたべたしてもいちゃついても平気じゃないですか。じゃれ合ってるとしか思われないし、男相手だと周りの眼とかいろいろ煩わしいじゃないですか」
えーと、つまりは、いちゃついたりべたついたりして平気だから……?
「えと、こういうの?」
コツコツと皮靴の音を立てて後輩さんに近寄って、ふんわりと抱きしめる。小柄だから私の方が少し見下ろす感じになったけど、シャンプーの匂いなのかはともかくなんか甘い匂いがする。
「はい」
こころなしか後輩さんの声が震えてるような……。ふんわりとはいえ、密着してる分には体温とかが伝わってくる……この子、温かい。
「さっきのって、告白……だよね?」
「はい」
背中にまわされてる後輩さんの腕の力が強まって、密着が強くなった。
「……だめ、ですか」
「だめというか、同性だし」
可愛い後輩っていう枠組み以上にはならないかなぁ。
「女同士じゃ、だめですか」
え、あ? なんかすこし声が湿ってきてるような……。
「好きなだけじゃだめなんですか?」
「うぁ……」
そんな、そんな涙ぐんだ状態で上目遣いされても……ごめん、なんか可愛いとしか思えない。
「だめ、なんですか……」
あれぇ? なんかすごい重たい空気になってない?
「だめというかなんというか……んー」
「どうなんですか?」
涙が溜まって零れそうな目をみてるとなんかこう、愛らしいというかなんというか。
「と、とりあえず、涙吹こう?」
確かスカートにハンカチ入ってたはず……あった。
「……だめ、なんですか?」
ああ、吹いたばっかりなのにまた涙が溜まって……。
「……あー、すごい可愛い後輩としか、見れない」
「……付き合ってはくれないんですか」
「……ん」
そう返事を返すと、後輩さんは私の胸に顔をうずめて小さな肩を震えさせた。
「ねえ、私まだ名前聞いてない」
「森野優輝……」
「……優輝は、私の名前知ってるのよね?」
「澤口理緒先輩……」
祐希は嗚咽交じりの声で答えてくれた。
「優輝は、私とどうなりたかったの?」
「先輩と、付き合いたかった……先輩とっ、一緒に……いたかった」
「うん」
「先輩と……っ」
言いかけて、その先は涙で覆い隠された。
「優輝は、やっぱり恋人関係じゃなきゃいや?」
「先輩……?」
ここまで好かれてるのを無碍にするのもね。
「……それは、どういう」
「優輝さえよければ、友達……とか」
今結構ヒドイ事言ってると思う。
「……いいんですか? 私なんかが近くにいても」
「優輝さえ、よければね。振っておいてこんな――」
「いいんですか先輩。本当にいいんですか」
涙でキラキラとした上目遣いで、問いかけてくる。
「いいよ」
優輝はその返事をどう思ったのか、再度私の胸で肩を震えさせた。
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「先輩っ!」
後ろから私を呼びとめる声。
「優輝、そんなに走らなくても置いてかないから」
「だって、歩くの早いんですもん」
二人並んで歩く帰り道。
優輝が望む『恋人』にはなれなかったけど、『友達』として付き合うことはできた。
「駅前においしいクレープ屋があるんですけど、行きません?」
「ん、いこう」
先輩と後輩モノのお話です。
優輝のこの告白、相手が異性ならまた違った展開になってたんじゃないかなーと。
理緒の方は優輝のことを『すごくかわいい後輩』ということでしか見れてません。『友達』宣言のところらへんにそのへんが凝縮できていればいいんですけど。
それではまた次のお話でヾ(゜∪゜★)ノ゛・:*:・