UnLucky?勘違い
中途半端な終わり方の前回から凄まじい程のサボり期間でしたが、また投稿を再開したいと思います。頑張ります!!
「なーんだ、ほんとにお友達だったのね」
「…はい」
尋常じゃないほどのマスターの圧力を感じ、慌てて希羅は三日前に始めてであったこと、今日も偶然出会い、先日ご馳走したお礼を唐突に申し込まれたこと。コウに対して特別な感情はないということを強調して説明すると、マスターはようかく誤解を解いてくれた。
「私は明里、ここの店長をしてるわ。マスターって呼んでね?明里さんっていうのはコウ君限定だから」
色気たっぷりのウインクをプレゼントされ、希羅は苦笑いした。
「大人気なくてごめんなさいね、私勘違いしちゃって」
マスターは前身を乗り出し、唇を希羅の耳元に近づけ続けた。
「…ライバルかもって」
何を返していいのかわからなかった希羅はとりあえず無難に愛想笑いを返しておいた。
予想通りというかいつもの如く、元凶であるコウは二人のやり取りにも気づかずに暢気にクリームソーダを啜っていた。もちろん、マスターのおごり(という名の餌付け)である。
「美味しー」
残った氷までほお張って満面の笑みを浮かべるコウに、マスターは頬を緩めた。
「ほんとにこの子は小悪魔よねえ、下手な女なんて適わないくらい」
「小悪魔って何?」
きょとんとするコウの頭を撫でて、マスターはおかわりいる?と尋ねた。
「うん、いるっ!」
即答したコウに微笑んで、希羅に「だからうちはいつも経営が危ういのよ」と耳打ちし、マスターは厨房に引っ込んだ。
「ふぅ…満腹」
希羅は空になった皿にスプーンを置き、満足そうに頬杖をついた。ピラフはマスターに対応している間に少し冷たくなってしまっていたが、冷えても美味しかった。彼女の料理の腕は見かけによらず確かなようだ。
コウも空になったグラスを脇にのけ、机につっぷしている。コウのためのソーダをつくり終え、買出しに出かけたマスターに留守番を頼まれてから十分ほど立っていた。
「お腹いっぱいになったら、眠くなっちゃったよお」
不意に顔をあげると、コウは大きな欠伸をした。その後も手を当ててポンポンと叩く。
「うん…そだね」
を、窓から差す光がコウの金髪をちらちらと照らしているのをぼんやりと眺めながら、希羅はどうして 男の癖に自分よりも数百倍は可愛らしいそんな仕草が出来るのだろうと考えていた。
その時、からんからんと心地よいアンティークベルの音が響いた。扉の上部に付けられて来客を知らせる音に二人が揃って扉を振り向くと、店の入り口に怪しげな男が立っていた。
容貌から異様であった。髪はもじゃもじゃ、Tシャツはよれよれで襟元も形を保っておらず、本来の黄色はお情け程度に残っているだけである。ズボンもすっかり裾が保つれ、ダメージジーンズというのには余りにもお粗末なものだった。しかしそんなうらびれた格好以上に、男の身に纏っている雰囲気は異様だった。
店内を包んでいた静寂を破ったのは、彼が発した言葉だった。
「マスターは?」
「うん、買い物に行ったよ」
え、今までの描写は何だったのと悲しくなるような勢いでコウは驚く様子も見せなずに屈託なく答えた。そんなコウの答えを聞き、彼はひょろ長い腕でボサボサの頭を欠いた。白いものが大量に落ちていくような気がしたが、希羅は無視することに決めた。
「ちっ…あいつ逃げたな」
「うん、遅くなるって言ってた」
「…まあいいや、待つか」
男はどすどすと足を踏み鳴らして店に入りこむと、手近な椅子を乱暴に引っ張り腰掛けた。
そして再び店内を静寂が包む。
「ねえ、コウ、知り合い?」
声のトーンを落としても狭い店内の中では男に聞かれる危険は排しきれない。だがどうしても気になって仕方が無く、希羅はコウに尋ねてみた。
だが配慮もへったくれもないコウである。希羅がかもしだした内緒話の雰囲気をまるで無視して答えた。
「ん、えーっと…知り合いっていうか、よく此処に来るよ」
そして希羅の止める間もなくコウは自然の流れの如く男に話題を振った。
「ね、そうだよね?」