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最終章 ―約束の門―(前編)

 夜空に浮かぶ四つの月が、ゆっくりと中心へと寄り集まっていく。

 ねじれる光、揺らぐ空、空間に生じる深い歪み。

 それは、ただの現象ではなかった。

 四人――桃太郎、浦島太郎、金太郎、かぐや姫だけが感じていた。

 これは“呼び声”だ。はるか昔に交わした約束が、再び彼らを試そうとしているのだと。

「これは……門だ」

 浦島太郎がつぶやいた。

 門は生きているかのように呼吸し、揺れ、白い霧を立ち昇らせていた。

 「行こう」

 桃太郎が踏み出す。

 鉞を背に金太郎がうなずく。

 四人は並んで“約束の門”をくぐった。

 光の渦に吸い込まれる瞬間、空間がほどけ、風も音もすべてが消えた。


 次に彼らが目を開けた時、そこは“何もない世界”だった。

 空も大地もない。ただ、広がる白い床と、空間に浮かぶ四つの光球。

 それぞれの光球には、彼らがこれまで歩んできた記憶が映し出されていた。

 村を焼かれ、鬼と戦った桃太郎。

 乙姫と別れ、玉手箱を開いた浦島太郎。

 山を下り、人と交わった金太郎。

 月に生まれ、地上に降りたかぐや姫。

 四つの光は交差し、重なり合い、そして一つの問いを突きつけてきた。


「お前たちは、何のために旅をした?」

 それは優しく透き通った声、心に直接届く声だった。

 外からではなく、内から突き上げる“原初の問い”だった。

 「力を求めたのか、名声か、復讐か。それとも、赦しを?」

 “彼女”の声は問い続けた。

 四人は互いの顔を見る。誰もすぐには答えを出せなかった。

 だが、歩いてきた道のりが、それぞれの中で一つの輪となってつながっていく。


「俺は、もう力のために剣を振るわない」

 桃太郎が言った。

 「守るために戦う。失わせないために、今度こそ」

「俺は、時に流される者じゃない。選ぶ者でありたい」

 浦島太郎が続ける。

 「自分の意思で、忘れずに生きる」

「山も人も、俺の場所だ。だから両方守る。両方信じる」

 金太郎が笑う。

「私はもう戻らない。命の光の中に生きたい」

 かぐや姫の目は静かに光を湛えていた。

 「月に背を向けても、私は“私”としてここにいる」


 四つの光球は静かに融合し、一つの輝く結晶へと変わった。

 空間にゆっくりと“門の奥”が開き、次なる道が姿を現す。

 それはかつて誰も辿り着かなかった、記憶と意志が重なる地――

 「月の交差点」

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