表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/24

第四節 かぐや姫編:名を持つ者の誓い

 かぐや姫の前に広がるのは、満月に照らされた白銀の庭だった。

 風もなく、時も動かず、音すら存在しない――ただ、美しく静謐な空間。

 その中央に、一人の女性が佇んでいた。

 白い衣を纏い、月の光をそのまま形にしたような美しさ。だが、その目には、凍てついた寂しさが宿っている。

 「ようこそ、“かつての私”へ」

 女性はそう名乗った。

 「私は、初代の“かぐや姫”。この名を授けられ、使命と共に月へ帰った者。あなたは――何代目?」

 かぐや姫は言葉を飲んだ。

 代を重ねるたびに“かぐや姫”は月に還り、地上に希望を与え、やがて記憶を消されてその名だけを残してきた。

 今の自分もまた、その“ひとり”に過ぎないのか。

 「あなたは、“個”ではなく“役割”として生きてきた。だからこそ問います。――あなたは、自分の“名”を持っていますか?」

 空に浮かぶ四つの月が淡く輝く。

 それは、過去に月へ還った“歴代のかぐや姫たち”の記憶だった。

 一人は、地上の恋を捨てて。

 一人は、国を救うために。

 一人は、月の掟に従って。

 そして、誰一人“自分自身”の名を口にすることはなかった。

 「……私は……まだ名乗ることができない。かぐや姫として生きてきたけれど、“私自身”は、どこにもいなかった」

 その瞬間、白銀の庭に亀裂が走る。

 足元が崩れ、光の渦が広がった。

 歴代のかぐや姫たちが、彼女を取り囲むように現れる。

 「あなたは“役目”を果たすべきです」

 「月の意志を受け継ぎなさい」

 「地上の感情に惑わされてはならない」

 声が重なり、圧力のようにのしかかる。

 しかし、今のかぐや姫は、もう目を逸らさなかった。

 「私は、“かぐや姫”である前に、“私”でありたい。名を持ち、意思を持ち、そしてこの命を、自分で選びたい」

 彼女の声が、四つの月に響き渡る。

 すると、歴代の姫たちの姿がひとつひとつ、穏やかに微笑みながら消えていった。

 「……ようやく、あなたが“かぐや姫”になったのですね」

 最初に出会った初代の姫が、静かに頷く。

 「私たちは、皆あなたの到来を待っていた。名を持ち、意志を掲げる“最後の月の姫”を――」

 白銀の庭が霧散する。

 かぐや姫の胸には、かつて誰も名乗らなかった“本当の名前”が芽生えていた。

 その名はまだ言葉にはならない。

 だが、仲間と共に歩む中で、必ず“名乗るに足る存在”になるだろうと、彼女は信じていた。

 そして彼女は歩き出す。

 そこに待っていたのは、桃太郎、浦島太郎、金太郎――それぞれの“影の試練”を乗り越えた仲間たちの姿だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ