表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/24

第三節 金太郎編:鉞を抱いた子供

 金太郎の目の前に広がっていたのは、静かな山の景色だった。

 木漏れ日が降り注ぎ、小川がさらさらと音を立てる――彼が幼き日々を過ごした、懐かしい山。

 「ここは……あの山か」

 手には、使い慣れた鉞があった。

 だが、その重みはかつてのそれとは違った。ただの武器ではない。何か、大切なものを守るための“記憶”のような感覚。

 そのとき、小さな声が背後から聞こえた。

 「ねえ、きんちゃん。あたしのこと、覚えてる?」

 振り返ると、そこにいたのは――かつて山で一緒に遊んだ、小さな女の子だった。

 彼女の名は「ふゆ」。村が鬼に襲われたとき、金太郎が守りきれなかった子。

 「……ふゆ……」

 少女は笑っていた。あの日と変わらない、無邪気な笑みで。

 「怒ってる? 守れなかったのに、あたし、まだきんちゃんが好きだよ」

 胸が締めつけられるようだった。

 「お前を……あの村の皆を、守るって誓ったのに……俺は何もできなかった……っ!」

 鉞を地面に叩きつけた。地面が揺れ、鳥たちが飛び立つ。

 「“強さ”があれば、守れると思ってた。誰よりも早く走って、誰よりも大きくなって、誰よりも鉞を振り回して……でも、結局……!」

 ふゆは金太郎に近づき、そっとその手に触れた。

 「強さって、そういうことじゃないんだよ。大きい声を出すことでも、力で誰かを倒すことでもない。“誰かの痛みを受け止めて、それでも前を向くこと”……あたし、それをきんちゃんに教えてもらったの」

 金太郎は、ゆっくりと顔を上げた。

 「……そうか。お前は、俺が勝手に背負い込んでただけだったんだな。守れなかった後悔の中で、お前の声を聞こうとしなかった」

 ふゆは微笑んだ。

 「わたしは、ちゃんと“生きた”。きんちゃんがくれた時間の中で、いっぱい笑って、走って、泣いて……だから、きんちゃんも生きて。ちゃんと、今を」

 ふゆの姿が、柔らかな光となって霧のように溶けていく。

 金太郎はその場所で、しっかりと鉞を握り直した。

 「俺は――もう逃げない。強くなる。後悔じゃなく、“願い”のために」

 その鉞は、かつてよりも静かに、優しく彼の背を支えていた。

 山の光が差し込み、彼の進むべき道を照らす。

 そこに、仲間たちの姿が見えた。仲間たちは、皆、それぞれの痛みを抱きながらも、前に進もうとしている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ