第五章: ―四つの月の記憶―(前編)
夜が明けた。
白銀の地を朱が照らし、空には四つの月の光がかすかに残っていた。
桃太郎たちは、静かに立ち尽くしていた。全てが終わったように思えた。だが――かぐやはまだ、空を見上げていた。
「かぐや……何を見ている?」
浦島の問いに、かぐやはゆっくりと振り向いた。
その瞳には、決意と寂しさがないまぜになっていた。
「――そろそろ、話さねばなりません。『四つの月』の真実を」
その言葉に、仲間たちは静かに耳を傾けた。
かぐや姫。かつて月よりこの地に降り立ったとされる姫君は、ただの迷子でも、追放された存在でもなかった。
彼女の本当の使命――それは、“世界の分断を防ぐために、自ら分断された存在”だった。
「この世界には、もともと『一つの月』しかなかったのです。しかし、人々の欲望と争いにより、月は四つに分かたれました」
ひとつは力の月。
ひとつは時の月。
ひとつは心の月。
そして最後に――真実の月。
「私は、その四つを均衡に保つ“鍵”としてこの地に降ろされました。ですが、地上の時間はあまりにも速く、私はただ見守るしかできなかった……」
桃太郎がゆっくりと言った。
「だから、かぐやはいつも“月を見ていた”のか」
「はい。四つの月のどれかが歪めば、世界の均衡は崩れ、時の門が開きます。それを防ぐために――“選ばれし子ら”が必要だった」
浦島が目を細めた。「その“選ばれし子”ってのが……俺たちってわけか」
かぐやは黙って頷いた。
「桃太郎、浦島太郎、金太郎――あなたたちは、異なる力を持ちながらも、心に“月”を宿していた。だから私は……あなたたちを導いてきたのです」
金太郎が鼻を鳴らす。「ずいぶんと、回りくどい導きだったな」
「それでも、あなたたちは来てくれました。自分の道を歩みながら」
その瞬間、大地がかすかに震えた。空のひとつの月――“真実の月”が、わずかに色を変え始めた。
かぐやの顔が強張る。
「……間に合わないかもしれません」
「何が?」
「“真実の月”が覚醒し始めています。これは――この世界が、すべての記憶と因果を飲み込み、“終わり”を迎える予兆」
沈黙。
「だから、次は私が旅に出ます。月へ戻るのではなく、月そのものの“中心”へと」
桃太郎が一歩、踏み出した。
「いや――俺たちも行く」
「……でも、これは私の使命です」
「違う。これは、俺たち四人の旅なんだ。犬・猿・雉の仲間も加えてな」
かぐやは一瞬、瞳を見開いた。
そして――小さく、微笑んだ。
「……ありがとう。では、行きましょう。
月の最奥へ。“真実の月”の、その核に触れるために」




