裂け目の声 ―鬼ヶ島の真実―
桃太郎が歩み寄ると、鬼の声が、彼の心に直接届いた。
「桃太郎……お前に、語るべきことがある」
その声は怒りでも怨嗟でもない、
深い悲しみと、遠い祈りのような響きを持っていた。
そして次の瞬間――
桃太郎の胸に、“焼きつけられるような光景”が流れ込んできた。
遥か昔。
鬼ヶ島と呼ばれる前、その島には「人間たち」が住んでいた。
だが、その島は地脈が不安定で、空気や水に奇妙な特性があり、何世代も暮らすうちに、島の人々の身体は少しずつ変化していった。
角が生える者。
皮膚の色が変わる者。
力が異常に強くなる者。
島外の人々は、次第に彼らを「人ではない」と見るようになり、そしてあるときから、「鬼」と呼び始めた。
恐怖は、武装を生んだ。
偏見は、正義を名乗った。
本土の者達が島を襲い、鬼たちは抵抗した。
時に鬼達も復讐のため人々を襲った。
「異形は危険」「鬼は人を喰う」との虚言が広まり、ついにその島は“鬼ヶ島”と呼ばれるようになった。
だが、鬼たちは忘れなかった。
「自分たちは、ただ姿が変わっただけの人間だった」と。
島では、やがて平和を求める若者たちが現れた。
本土との対話の道を探し始めた。
その最中――桃太郎が現れた。
犬・猿・雉を従え“鬼退治”の名の下に剣を振るい火を放ち多くの命を絶った。
女も子も、共存を願った若者も、すべて。
それが、かつての桃太郎の「英雄譚」の裏側だった。
桃太郎の手が、わなわなと震える。
剣を振るったその手。
仲間たちと歌いながら島に上陸したあの日。
見下ろした“焼け落ちた村”の光景。
その全てが、今やっと“意味”を変えた。
「……俺は、“正義”だと信じて、斬った。けど、あれは……」
涙は流れなかった。
だが、桃太郎の顔に、深く刻まれた皺のような影が残った。
「……俺は、鬼を滅ぼした。
それは間違いない。
だが人を、滅ぼしたつもりはなかった。
……その言い訳がどれだけ罪深いかもわかっている。
許されることではない。本当に申し訳なかった。」
鬼は閉じ行く裂け目の中
「我は…我々は決して許すことはない。
しかしもうどうすることもできない。
せめて知ってくれ。
鬼とは、そう呼んだ側が作った名前であると言うことを。
若者たちは歩み寄ろうとしたことを。」
怨念はきえることはなかった。
しかし裂け目はゆっくりと閉じ始めた。
桃太郎は消えゆく裂け目の向こうを見つめ叫んだ。
「その意志、その思い、決して忘れない。絶対に忘れはしない。
すまなかった。本当にすまなかった。」
かぐやは桃太郎の背中に手を当て励ました。あなただけが悪いのではない。過去の出来事から生まれた悲劇だと伝えた。




