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第四章:犬・猿・雉 ―風を継ぐ者たち―(中編)

 白銀の地を越え、一行は“鬼ヶ島の残骸”――かつての戦場の名残が眠る大渓谷へと辿り着いた。

 雪に閉ざされた谷底には、いびつに歪んだ岩塊と、焦げついた地面。そして――

 「これは……門?」

 浦島が呟いた。

 谷の中心に口を開けていたのは、まるで裂けた空間のような“黒い渦”。それは風も、雪も、音すらも吸い込んでいた。

 「“時の門”――この世界に空いた、過去と現在を繋ぐ裂け目です」

 かぐやが一歩踏み出し、扇を開く。風に乗せた光が渦の輪郭を照らすと、その中にわずかに見えたのは――燃え盛る鬼ヶ島の幻影。

 「ここは、かつて鬼が最期の叫びを上げた場所。怨念と時の力が混ざり、死者の魂が現実になろうとしています」

 白蓮が鼻を鳴らした。「……中から、出てきます」

 その瞬間、門の奥から現れたのは、異形の者たちだった。

 かつて桃太郎たちが討った鬼の残影。それが、過去から抜け出した亡霊のように姿を現したのだ。

 「桃太郎……また、貴様か……!」

 影の鬼が唸る。

 しかし今回は違う。桃太郎の横には、今、新たな仲間がいた。

 「行くぞ、白蓮!」

 「はい!」

 白蓮が地を蹴る。音もなく駆け、風の刃を纏って影鬼の懐に飛び込む。

 後方からは岩丸が跳躍し、豪腕を振るう。拳が空を震わせ、影の体を吹き飛ばした。

 「こちとら修羅場育ちよ、幻影如きに遅れは取らん!」

 上空からは紅嶺の羽音。鋭い風切羽が、まるで刃のように時の門を切り裂いた。

 「幻がどれほど強くとも、過去に縛られては未来を見られぬ」

 浦島が玉手箱を構える。

 「“時間よ、ひととき眠れ”――!」

 放たれた白光が門を包み、空間を静止させる。その間に金太郎が突進し、渦の核へと鉞を振り下ろす。

 「こいつで黙らせてやるよッ!」

 ――轟音。

 その瞬間、“時の門”は一度閉じかけた。

 だが、なおも抗うように、裂け目の奥から一つの声が響く。

 「桃太郎……お前に、伝えるべきものがある」

 鬼の声だった。しかし、それは怒りでも憎しみでもなく、どこか悲しみに満ちていた。

 「なに?」

 桃太郎の表情がわずかに揺れる。

 「もう我々は死んだ。かつて我らが鬼となった理由、それだけでも知ってほしい。せめて我々の若者たちが踏み出そうとした一歩を。」

 “時の門”がふたたび震える。

 その先には、桃太郎が知らなかった過去――かつての鬼たちの「起源」の真実が待っていた。


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