第四章:犬・猿・雉 ―風を継ぐ者たち―(前編)
北の大地は一面の銀世界だった。
雪原に風が走り、氷をまとった木々がかすかに鳴る。桃太郎たちは、吹雪の中を進んでいた。
「ここが“白狼ヶ原”か……」
金太郎が額の雪を拭いながら呟く。
「まるで山ごと眠ってるみたいだな」
「いや、目を凝らせ。風の中に、気配がある」
浦島の声に、桃太郎は頷いた。
「――来るぞ」
風が裂けた。白い影が跳ねる。
地を蹴り、風をまとうように飛び込んできたのは、一頭の白い狼だった。瞳は透き通る琥珀、背には浅い傷跡。
その姿に、桃太郎は剣を収める。
「久しいな、白蓮」
狼――白蓮は首を軽く下げるように頭を傾けた。
それはかつて桃太郎と共に鬼ヶ島を駆けた忠犬・隼の弟子だった。
「桃太郎様、お変わりなく」
その声は、心に響くように力強い声。桃太郎は微笑を返した。
「お前が生きていてくれてよかった」
白蓮は尾を振り、すぐに後ろを振り向いた。
「皆様にお見せしたい者がおります」
雪の丘の上から現れたのは、巨大な猿――漆黒の毛に覆われた老練な獣。その肩には、傷だらけの鋼の籠手。
猿はうねるような動きで跳ね降りてきた。
「おぅおぅ、またえらく冷えるとこに来たもんだなァ!」
その猿の名を「岩丸」。かつての戦友、猿の“豪助”の弟子にして、格闘を極めた荒くれ者の猿だった。
「岩丸、元気そうで何よりだ」
「なに?、桃太郎さん! 私てっきり、また鬼の類が来たのかと……」
岩丸の背後に、翼の音が響く。
風を切って降り立ったのは、緋色の羽を持つ一羽の雉――その名は「紅嶺」。
彼女は、かつて知恵と視野を武器とした雉の“梛”の弟子であり、高空から世界を見通す瞳を持っていた。
「皆、よくぞ来てくれました」
その優雅な動作と同時に、かぐやが前に出た。
「この地にも、時の歪みが広がっています。かつて鬼ヶ島と呼ばれた場所が、異形の“門”と化し、次元の裂け目が現れています」
白蓮が前足を踏みしめた。
「我らは、師の命によりここを守っていました。しかし、力が及ばず……」
「……犬・猿・雉の三者は、今も生きてこの北の地に身を潜めている。ですが、その力を世界の均衡を保つ“封”に用いているため、動くことができない」
かぐやが続ける。
「ゆえに、彼らの弟子であるあなた方の力を借りるしかありません」
桃太郎が剣に手を置き、静かに言った。
「なら、共に行こう。かつての仲間の意志を、今この手に取り戻すために」
風が吹き抜けた。
犬・猿・雉の弟子たちが一斉に頷き、三人の月の子と共に、歪みの中心――鬼ヶ島の残骸へと歩を進めた。




