前日談:月降る夜に
それは、すべての始まりの夜だった。
空には満月が四つ、まるで約束でも交わしたかのように並んでいた。
蒼く、紅く、黄金に、そして銀に輝く四つの月。
誰もその異変に気づかなかった。けれど、確かにその夜、世界は音もなく震えた。
月の光を裂くように、一筋の流星が空を走る。流星は静かに地上へと落ち、竹林の中、しんと冷えた夜の土を揺らす。
地面に衝撃はなかった。ただ、風も時間も止まったような静けさ。
その光の中から、白い衣をまとった一人の少女が姿を現した。
足元に、草露がしっとりと光を帯びていた。
月の国の巫女。名をかぐや。
記憶の断片を抱いたまま、彼女は再び地上に降り立つ。
かぐやは、ふと空を見上げた。四つの月が彼女の瞳に映る。
「……やはり、歪みは始まっているのね」
その声は風よりも細く、しかし確かな意志を含んでいた。
彼女の胸には使命があった。それは、世界の崩壊を防ぐこと。そして、「四つの月の子ら」を探し出し、彼らを導くこと。
「時が満ちた……。この世界は再び、滅びの予兆に包まれようとしている」
風が、竹の葉をかすめる音を運んでゆく。
かぐやの瞳は、はるか西の空を見据えていた。そこに、最初の月の子がいる。鬼を討った剣士、桃太郎。
四つの運命が交わる時、黄泉の門が開かれる。
それが、すべてを終わらせるのか。あるいは、すべての始まりとなるのか――
月はなおも、静かに地上を照らしていた。