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7話 眠れぬ夜

 雨が止むのか不安なのか、ゼアルと同じベッドに入っている緊張なのかはわからなかったが、頭が冴えて寝付けなかった。

 ゼアルを起こさないようにソっと体を動かす。

すると――


 「眠れないのか?」


 背後から声が飛んできて、全身がピクリとはねた。


 「ゼ、ゼアルも……?」


 「ああ」


 「そ、そうなんだ……」


 ゼアルも起きていると意識した瞬間、急に胸がドキドキしてきた。

しかし会話は途切れ、私達の呼吸の音だけが響いている。


 「なぁ、リィス」


 「なに?」


 「……抱きしめてもいいか?」


 「えっ」


 驚いて体を震わせた私を安心させるように、ゼアルはゆっくりと話を続ける。


 「俺、今、とても緊張しててさ……。リィスのこと抱きしめたら、ちょっとは落ち着くかもしれなくて……。もちろん、嫌ならそれでいいんだ」


 これが他の人なら、即刻拒否していただろう。でも、好きな人に、他でもないゼアルにそう言われたら、それぐらい許してもいいのではないかと思った。


 「い、いいよ……。私もなんか、寂しくて……」


 「いいのか……?」


 「ゼアルから言ったんじゃん」


 少しからかうように言うと、ゼアルがフッと笑う。


 「そうだな……。ありがとう、リィス」


 その言葉の直後、布が動く音がして、ゼアルの腕が腰に伸びてきた。

慎重に手を回して、ゆっくりと引き寄せられる。

耳のすぐ後ろで、ゼアルの息遣いが聞こえた。


 思っていたよりも恥ずかしくて、くすぐったくて、言葉が出てこなかった。

するとゼアルが低い声で声をかけてくる。


 「リィス……俺が"普通の人間じゃない"って言ったの覚えてるか?」


 「うん、覚えてるよ」


 告白した時にゼアルが言っていた。でも私は「どんなゼアルでも好きだよ」と答えたのだった。

 私の言葉を聞くと、ゼアルは何かを決意したように深く息を吸い込んだ。


 「俺は……吸血鬼と人間のハーフなんだ。それで、時々血を飲まないといけなくて……」


 「だから、私から血液を取ってたの?」


 ゼアルの衝撃的な告白も、私はスルリと受け入れていた。最初から、変わっていると思っていたせいかもしれない。


 「それもある。でも、リィスの血は特別なんだ……。他の人の血だと満たされないのに、リィスの血だと満たされる……」


 「………………」


 ふと、嫌なことを思い出して体が震えた。ゼアルの言う通り、私の血は変わっている。そのせいで、物心ついた時には両親はおらず、引き取ってくれた養父母にも「気味が悪い」と捨てられた。


 「リィス?大丈夫か……?」


 ゼアルの心配そうな声にハッとして慌てて返事をする。


 「う、うん。大丈夫」


 「話、続けてもいいか?」


 「うん……」


 ゼアルは安心したように息を1つ吐いた。その吐息が耳にかかって思わず体を捩る。


 「それで、リィスが血を提供してくれるようになってからは、少しずつ瓶の血を飲んでたんだ。だけど……今回は……直に飲んでいいか……?」


 「じ、直に!?」


 「ああ。痛くはしないから……」


 返事に迷っていると、ゼアルの腕が震えていることに気づいた。ソっと手を添える。


 「ゼアル……寒いの?」


 「違う……。衝動を、抑えてるんだ……。無理やりにでも抑えておかないと、リィスを、傷つけてしまう……」


 低く、耳元で囁かれた声は苦しそうで、無理をして抑え込んでいるようだった。


 「なら、今からでも飲んで……」


 「……ごめん、リィス……」


 ゼアルは言い終わる前に、私の首にかかっている髪をソっと払いのけて、唇を寄せる。熱い吐息がかかって声が漏れた。

そのまま、柔らかく肌に触れたかと思うと、小さな痛みが走る。


 「あっ……」


 だけど、それ以上の恐怖はなかった。


 ゼアルの手は優しく私の背に回り、まるで壊れ物に触れるような動きで抱き寄せてくる。

 その慎重さに、彼の葛藤と優しさが滲んでいた。


 耳のすぐそばで、彼の呼吸がかすかに乱れているのがわかる。

 血を吸っているのはゼアルのはずなのに、どこか私の方が満たされていくような、温かくて不思議な気持ちだった。 


 痛みはすぐに鈍くなり、代わりに胸の奥がじんわりと熱を帯びていく。


 私の血は特別だと言ったゼアル。

 その特別を、怖がらずに必要としてくれる人がいる。それだけで、救われた気がした。


 やがてゼアルが静かに顔を離すと、吐息が私の首筋にかかった。


 「……ありがとう、リィス」


 その声があまりにも優しくて、私は何も言えなくなってしまった。

でも、腕の震えは止まっている。そんなに満たされたのだろうか。


 「リィス、こっちを向いてくれるか?」


 恥ずかしいとも思ったが、ゼアルの顔を見たかった。

モソモソと体を動かして反対側を向くと、見慣れたゼアルの赤い目が私を見つめている。

 ようやく、鼻先が触れそうなぐらい近いことに気づいて少し離れようとしたが、ゼアルの腕が離してくれなかった。

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