表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

6話 初めてのお泊まり

 ゼアルと付き合い始めてから一月が経った。

私は毎日ゼアルの元に通い、定期的な血液提供も続いている。


そんなある日、いつものようにゼアルを訪ねた私は、地下室でくつろいでいた。


 「やっぱりここに来ると落ち着く……」


 「それはいいんだが、飽きないのか?」


 思わず呟くと、机で作業をしているゼアルが声をかけてくる。彼は採取した血液に何やら処理を施しているようだった。


 「飽きない。ゼアルに会えるの、嬉しいし……」


 そう答えると、ゼアルはほんのり頬を赤くして、顔を逸らした。


 「……そんな可愛いこと言わないでくれよ。触れたくなる」


 「私はいいんだけど?」


 「いつからそんなに大胆になったんだ、リィス?」


 指摘されて、改めて考える。

 かつて、誰かに触れられるのが怖かった。拒絶されるのが当たり前だったから。でも、ゼアルになら、触れてほしいとも思い始めている。


 「ゼアルだけだと思う。こんなこと言うの……」


 顔が熱くなってくる。そう言うと、ゼアルの喉がごくりと鳴った。

赤い目に揺らぎが見え始める。


 「…………リィス」


 「な、何?」


 低く、掠れた声で呼ばれて、少し緊張する。無意識に背筋がピンと伸びた。


 「あんまり俺を煽るようなことを言わないでくれ……。止まれなくなるから……」


 「う、うん。わかった。ごめんね……」


 ゼアルの赤い目の奥に、獣のようなものが見えた気がして咄嗟に謝った。

慌てて話題を変える。


 「な、なんか、ちょっと……喉乾いてきたかも。水、もらっていい?」


 「ああ。水道は上にあるからな」


 ゼアルの説明を聞くと、早速一階に上がる。

1階は台所と居間を兼ねた部屋で、台所のすぐ横にトイレがある。


 水をもらって、何気なく窓を見ると、分厚い灰色の雲が大きく広がっていた。


 「雨が降りそう。ここに来た時は晴れてたのに……」


 胸にざわつきを覚えながら、地下室に戻った。



 それからは刻々と時間は過ぎてゆき、帰る時刻になった。

ふと、視線を上げると壁掛けの時計の短針が「ⅵ」を指している。

古びた金の縁のその時計は、機械ではなく魔力で動くものらしく、時間になると針が一瞬だけ淡く光を放った。


 「そろそろ帰ろうかな……」


 「もうそんな時間なのか?」


 ゼアルは意外そうに言ってから、名残惜しそうに目を伏せる。


 「うん。時間が経つの、早いよね。じゃあ、明日も来るから……」


 1階に上がって窓を見ると、外はバケツをひっくり返したような大雨が降っていた。

雨粒が窓に叩きつけられ、滝を作っている。 


 ゼアルに伝えようと再び地下室に戻ると、彼は驚いた顔をしていた。


 「リィス?忘れ物か?」


 「いや。外、大雨が降ってて……」


 「見てくる」


 ゼアルは素早く地下室から出ていって、すぐに戻ってきた。眉をしかめている。


 「思ってたよりも酷いな……」


 「でも、帰らないと」


 「もう少し待ってみるか?」


 「うん。弱くなるかもしれないし……」 


 ところが、大雨は夜になっても止む気配がない。それどころか、ときおり雷鳴が響き、外を白く照らすようになった。

今までも急に雨に降られることはあったが、ここまで強くはなかった。

そのためどうにか帰宅できていたが、今回はかなり苦戦しそうだ。


 「弱まらないね……」

  

 ポツリと呟くと、ゼアルは小さく頷いた。それから、何か言いたげに口を開きかけ、少し迷ってから再び口を開いた。

 

 「……今日は泊まっていきなよ」


 「え、迷惑じゃ……」


 「俺は迷惑なんて思ってない。むしろ、嬉しい……」


 ゼアルはすぐにハッとして顔を赤くしながら、慌てたように話を続ける。


 「そ、それに、この雨の中帰って、リィスに風邪引かれても嫌だからさ……」


 目を泳がせながら言うゼアルを可愛いと思ってしまった。

 異性の家に泊まるのは初めてで少し怖い気もする。でも、それよりもゼアルと一緒に居れる時間を考えたら、恐怖心なんて吹き飛んだ。


 「じゃあ……お世話になります……」


 改めて言った私を見て、ゼアルは安心したように微笑んだ。



 夜も深まって、外は完全に真っ黒になった。しかし雨は勢いを弱めず、屋根や窓を強く叩いている。

 軽い夜食を済ませ、入浴も終えた私は、ブカブカのゼアルのシャツに身を包んで、窓をぼんやりと眺めていた。


 「泊めてもらって正解だったかも……」


 「あー、その、1つ言いづらいことがあるんだが……」


 入浴を済ませたゼアルが、濡れた銀髪をタオルで拭きながら口を開く。


 「何?」


 「ベッド、1つしかないんだ……」


 思わずゼアルを見つめる。彼が言いたいことを理解して、顔が熱くなった。

しかしそれは相手も同じで、気まずそうに目を泳がせている。


 「あ、いや、俺が床で寝るとか、いろいろ方法はあるから……」


 「わ、私は……ゼアルと一緒でも……」


 恥ずかしすぎて最後まで言えなかった。思わずシャツの裾をギュッと握りしめる。

 自分でもこんな言葉が出たことに驚いたが、ゼアルはもっと驚いたらしく、口を開けたまま瞬きを繰り返している。 


 「……リィス、いいのか?」


 「う、うん……」


 「わかった。できるだけ、その、距離は取るから……」


 そこからは何とも言えない微妙なムードになり、会話が長く続かなかった。 

 時間は無情にも過ぎてゆき、日付けが変わるところまで迫ろうとしていた。


 「そろそろ、寝るか?」


 ゼアルはおもむろに立ち上がると、部屋の隅にあるベッドを指差す。


 「そ、そうだね。いつも地下室で寝てるの?」


 「ああ。上だと落ち着かなくて。少し待ってな」


 そう言ってゼアルは先にベッドに潜り込み、シーツ等を整えてから私を呼ぶ。


 「おいで、リィス」


 一瞬、心臓がドクンと跳ねた。普段よりも低く、甘い声に呼ばれて、せっかく冷めた顔がまた熱くなってくる。何気ない言葉なのに、どこかくすぐったい。

 照れ隠しにうつむいたまま、急いでベッドに潜り込むと、ギュッと目を瞑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ