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3話【本来の第2話】 すれ違いと戸惑い

※話数の順番が誤ってしまいました。

この話は【本来の第2話】となります。



 それからも、定期的に血液提供は続いた。

でもどこか気まずくて、私はゼアルを直視できなかった。ゼアルも私の変化に気づいているのか、片付けの時に早く背を向けたり、帰るように促したりすることが増えた。


 三度、四度と通ううちに、私たちは必要最低限の言葉だけを交わすようになった。

このままでいいのかな、と何度も思ったけれど、どう声をかけていいか分からなかった。



 そして五度目の訪問。

 地下室は、相変わらずひんやりと静かだった。

 私は無言で椅子に座り、ゼアルもまた黙ったまま腕を消毒する。


 「ちょっとチクッとする」


 そう言って、ゼアルは血液を抜きはじめた。

 いつもと同じ手順。いつもと同じ時間。

 でも、お互いの距離だけが、妙に遠く感じる。


 やがて容器がいっぱいになると、彼はそっと針を抜き、私に脱脂綿を渡した。


 「お疲れ。もういいよ」


 いつもなら、これで終わり。そう思っていたのに――

 ゼアルの手が器具に伸びかけたところで、ふと止まった。


 少しだけ俯いたまま、背を向けて言う。


 「……なぁ、この前のこと、覚えてるか?」


 「う、うん……」 


 ゼアルの方から切り出すとは思わなかったので、戸惑った。

私達の距離が離れてしまった原因。でも、いつかは話さないといけないのだろう。


 私の返事を聞くと、ゼアルは振り向いた。そして一歩、距離を詰める。

でも手は出さない。


 「ずっと、聞くか迷ってた。あのとき――友達って、言ったよな」


 「……言ったね」


 「俺、それで自分を納得させようとしてた。でも、やっぱり無理だった。

リィスの血はほしい。だけど、もう研究対象としては見れない」 


 一度、大きく息を吸ってから、私をまっすぐ見つめてくる。


 「俺は、リィスが、欲しい」


 声に嘘はなかった。少しだけ怯えていて、それでも届いてほしいと願っている声。


 私は何も言えずに、ゼアルの顔を見つめた。

あの日から今日まで、気まずかったのは事実。だけど、その間に私にとってゼアルの印象は変わってきていた。


 心臓がうるさい。喉の奥が苦しい。

 それでも、目をそらすことはできなかった。


 「私も……ゼアルのこと、血液取るだけの人なんて、思ってないよ」


 口に出してから、自分で驚く。けれど、それが今の私の“本音”だった。

 ゼアルがゆっくりと目を見開く。


 「リィス……」


 「でも、だからって……まだ、恋とか、そういうのがよく分かってるわけじゃない。 ただ、ゼアルと会うのが楽しみになってる自分に、気づいてはいるの」


 「……あの日から、気まずいの思っていたのは俺だけだったか?」


 ようやくゼアルの口元が緩む。どこか恥ずかしそうに目を細めて、私を見つめてきた。


 「いや、私も気まずかったよ。このままではよくないって思ってはいたんだけど、どう声をかけたらいいのかわからなくて……」


 「そうか……。変な気を遣わせて悪かったな……」


 ゼアルはそう言って椅子を1つ持ってくると、私の横に並べて座る。

 一気に距離が近くなって、また心臓が跳ねた。


 「ゼアル……?」


 「そう身構えなくていい。ただ、隣りにいたいだけだから……」


 その言葉に、胸がまたドクンと鳴る。鼓動が、ゼアルにも聞こえているんじゃないかと思うほど。

 思わず私は膝の上でぎゅっと拳を握った。


 「……私も、隣にいるのは嫌じゃないよ」


 「そうか」


 ゼアルの返事は短くて、静かだったけど、どこか安心しているような響きがあった。

 その言葉を最後に室内が静かになる。

 でも、今は静けさがありがたかった。

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