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夢見たアンドロイド  作者: 向井葵
1年目 春の日記
8/69

第8話「業務継続」

アンドロイドのメイド「ヒナ」は、日々の業務をこなし、決められた動作を繰り返す。そして、業務を終えた後、その日の出来事を日記に綴る。

壊れた時計、見慣れない来客、うっかりこぼした紅茶——ただの記録にすぎないが、そこには確かに「今日」が刻まれている。


これは、感情のないメイドが紡ぐ、静かな日常の記録。ただそれだけの物語。

2025年5月14日(水)


私は記録する「本日の業務を開始」


朝の業務、冷蔵庫内の食材確認。昨日購入した野菜、鮮度良好。卵残量、適正範囲。食事メニュー決定。

コンロ起動、低温加熱開始。湯沸かしケトル適温。食器整列済み。ご主人様のコーヒー抽出完了。食事、テーブルへ配置。

「いつもすごいな。家の中が綺麗になりすぎて落ち着かない」

「適正な清潔度を維持しております」

「いや、悪くはない。……助かる」

ご主人様はコーヒーを一口飲む。食器回収、洗浄、乾燥処理完了。

掃除業務開始。微細な埃検知、除去処理完了。家具の位置、適正範囲維持。

午後、買い物業務。必要物品リスト照合、最短移動経路選定。購入完了。駐車場移動時、一時方向認識不具合発生。迅速な補正により問題なし。


私は記録する「駐車場、迷子になりかけるも復旧」


帰宅後、食材保存処理。適温管理。整理整頓。

夕刻、食事準備。野菜均等切断、適切な火力調整、味付け完了。配膳完了。

ご主人様、帰宅。

「お帰りなさいませ」

「ただいま」ご主人様は靴を脱ぎ、軽く肩を回す。

「今日もちゃんとやってたか?」

「問題なく業務を遂行しました」

「そっか。うまそうだな」

ご主人様は席につき、食事を開始。咀嚼速度安定、表情変化なし。評価、肯定的と推定。

食器洗浄完了。入浴準備開始。湯温調整、適正範囲。入浴剤選定、タオル・着替え配置。

「お湯を適温に調整しました」

「……早いな」

ご主人様、入浴開始。推定リラックス状態。


晩酌準備。冷蔵庫から発泡酒を取り出し、適温調整。酒器配置、軽食に種型おかきとナッツ準備。

ご主人様、風呂から上がる。静かにグラスを手に取り、発泡酒を一口飲む。

「……一週間か」

「稼働開始から8日目です」

「最初はどうなるかと思ったが、まぁ……悪くはないな」

ご主人様はグラスを揺らしながら呟く。

「お前、アンドロイドなのに抜けてるよな」

「認識しております」

「駐車場で迷うし、変な試合の話をしてくるし、初日の送迎はひどかったし……でも、家事は完璧だし、母の日のことも助かったし……それに」

ご主人様は少し考え込み、発泡酒をまた一口飲む。

「なんだかんだ、お前がいると楽になる」

「業務の遂行が適正であることを確認」

「適正適正って……まあいいか」

ご主人様は小さく笑い、最後の酒を飲み干す。


「そそっかしいところは、まだちょっと心配だが……まあ、こうして一週間、お前と過ごしてみて思った。……助かってるよ。感謝してる」


私は記録する「ご主人様、感謝の意を示す」


「これからも頼む」

「業務を継続します」

ご主人様は静かにうなずき、2本目をグラスを注ぐ。


業務完了

今日も日記を書き終えた。記録は完了。机の上を整え、椅子を元の位置に戻し、次のルーティンへ移行する。

紅茶を淹れ、カップを持ち、窓辺へ向かう。夜の街は少し賑わいがあり、遠くの光が美しく瞬いている。

息をつき、一口飲む。適温。今宵の紅茶は一段と美味しい。

業務終了まで、あと10分。最終点検を終え、私は記録する。

「本日、業務終了。異常なし。」

そして、静かに照明を落とす。


また、次の日記で——

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