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夢見たアンドロイド  作者: 向井葵
1年目 春の日記
7/69

第7話「静かに戦う者」

アンドロイドのメイド「ヒナ」は、日々の業務をこなし、決められた動作を繰り返す。そして、業務を終えた後、その日の出来事を日記に綴る。

壊れた時計、見慣れない来客、うっかりこぼした紅茶——ただの記録にすぎないが、そこには確かに「今日」が刻まれている。


これは、感情のないメイドが紡ぐ、静かな日常の記録。ただそれだけの物語。

2025年5月13日(火)


待合所に到着。業務内容:ご主人様に依頼された申請書の提出。

待合所内、私と老人一名のみ。老人は椅子に座り、静かに杖を持つ。室温適温、湿度やや乾燥気味。

私は受付カウンター前、指定位置に待機。


男性が入室。歩行速度やや速め。窓口職員に書類を提出。会話開始。

「これ、今すぐにどうにかしてくれ」

「申し訳ありませんが、手続きにはお時間がかかります」

「ふざけるなよ、こっちは急いでるんだ!」声量、通常値の2.3倍。

男性、感情高揚。職員、困惑

職員、冷静に対応。

「規定に従いまして、順次処理いたします」

男性、さらに声を荒げる。

「だから、今すぐ何とかしろって言ってるだろ!」

老人、静かに立ち上がる。杖をつき、男性の方へゆっくりと歩行。私は状況を監視。

老人、男性の前で停止。

「若いの、少し落ち着きなさい」

「なんだよ、あんたには関係ないだろ」

「困っている人を助けるのが年寄りの役目だ」

男性、右手を振り上げる動作。


私は記録する「暴力行為の兆候、介入準備」。


私は男性と老人の間に移動。

「おやめください。ここは公共の場です」

「邪魔するな、機械のくせに!」

老人、私の横をすり抜ける。杖を水平に構え、軽やかに振る。

杖の先端、男性の手首に正確に接触。「パシッ」という音。

男性、一瞬の困惑。痛がる様子無し。しかし、衝撃により動作停止。

「小手一本。これが武士のたしなみでございます」

職員、驚愕。

「お、おじいさん……」


私は記録する「老人、剣道有段者の可能性高」。


男性、驚愕の表情。職員、安堵の表情。

その瞬間、老人の杖がぐらつく。バランスを崩す。

「おっと……」

老人、体勢を立て直すも、杖が床を滑る。

予測不能な動き。杖、まっすぐ私の足元へ接触。予期せぬ外的衝撃。

結果:私は静かに倒れる。

職員「おじいさん!?メイドさん!?大丈夫ですか!?」

「問題ありません。すぐに復帰いたします」

老人、杖を拾いながら

「あれま、ちょっと力みすぎたかの」

職員、安堵。

「それにしても、メイドさんも倒れるんですね……」

「ええ、人と同じく物理法則は適用されます」

男性、文句を言いながら退出。老人、満足げにお茶を飲む。

私、申請書類を提出。


帰宅後、私はご主人様のもとへ。申請書の提出完了を報告。

「書類は受理されました。」

「そうか」

「加えて、窓口でのトラブルが発生しました。老人が武士のごとく対応しました」

「は?」

「剣道の心得があるようです。男性の攻撃をいなし、小手を決めました」

「なんだそれ……じいさんも危ないやつだな」

「その後、老人のミスで私は転倒しました」

「お前も倒れるのか」

「ええ、人と同じく物理法則は適用されます」

ご主人様、沈黙。書類を机に置き、軽く頭をかく。

「……まあ、なんとも言えんな。怪我はないんだろ?」

「はい、問題ございません」

「なら、いい」


私は記録する「ご主人様、関心薄だが最低限の確認を行う」。


業務完了

今日も日記を書き終えた。記録は完了。机の上を整え、椅子を元の位置に戻し、次のルーティンへ移行する。

紅茶を淹れ、カップを持ち、窓辺へ向かう。夜の街は静かで、遠くの光が瞬いている。

息をつき、一口飲む。適温。今日も紅茶は美味しい。

業務終了まで、あと10分。最終点検を終え、私は記録する。

「本日、業務終了。異常なし。」

そして、静かに照明を落とす。


また、次の日記で——

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