表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見たアンドロイド  作者: 向井葵
1年目 春の日記
6/69

第6話「熱の向こう側」

アンドロイドのメイド「ヒナ」は、日々の業務をこなし、決められた動作を繰り返す。そして、業務を終えた後、その日の出来事を日記に綴る。

壊れた時計、見慣れない来客、うっかりこぼした紅茶——ただの記録にすぎないが、そこには確かに「今日」が刻まれている。


これは、感情のないメイドが紡ぐ、静かな日常の記録。ただそれだけの物語。

2025年5月12日(月)


用事のため外出。帰路の途中、人の流れに沿う形で移動していたところ、観戦会場へ案内された。誘導員の誤認の可能性あり。訂正せず、同行を選択。

案内者は英語を基調としたが、日本語による誘導も可能であった。彼は国籍ごとに観戦者を誘導。私を観戦者と誤認し、日本人の集まる空間へと案内した。

気温上昇。群衆の熱量により周囲の気流が変化。視界不良の原因分析:明確な試合場は存在せず、観客の興奮による環境的影響。


私は記録する「観戦は視覚情報に基づく。しかし、試合場は存在しない。矛盾。」


「ここで試合は行われていますか?」

「観るんじゃない。感じるんだ。」

案内者はそう言い残し、群衆の中へ消えた。不可解な言動。

観客の歓声は大きく、熱気はさらに増している。空気が重い。 私は観戦席横の隙間へ移動。洞窟のような構造。石壁による気温低下を確認。

「涼しいでしょ。」

小部屋にいた男性が話しかけた。

「室内温度、外気との差異約8℃。推測される原因は石壁による外部熱の遮断。」

男性は笑う。

「そんな言い方しなくてもいいのに。」


私は記録する「人間の会話には不要な情報が含まれる。だが、排除すると違和感が生じる。不自然。」


右手の壁の一部には透明な素材が使用され、水が流れる構造を形成していた。鉱石が紫色に輝いている。

「きれいでしょう?」 男性が続ける

「ここだけが、本物なんだ。」

「本物とは?」

「それ以外は、ただの熱狂の残像さ。」

背後で小さな水音がする。冷たさを確認。観客席へ戻る。 歓声はより大きく、熱気はさらに増していた。 この試合はどこで行われているのか? 誰が勝敗を決しているのか? 私は立ち尽くす。


帰宅、室内温度、適正範囲内。夕食準備中。

キッチンにて加熱調理工程を進行。玄関ドア開閉音を感知。ご主人様の帰宅を確認。

「お帰りなさいませ。」

「ただいま。」

ご主人様はリビングに向かい、ソファに座る。スマートフォンを操作中。

「今日は観戦に行きました。」

「観戦?」ご主人様は眉を寄せる。

「なんの試合だ?」

「不明です。試合場はありませんでした。」

「は? それ観戦じゃないだろ。」

「ですが、観客は盛り上がっていました。」

「だから、何を観てたんだよ。」

「不明です。」

ご主人様はスマートフォンを机に置く。

「つまり、試合も選手もいないのに、みんな興奮してたってこと?」

「はい。」

「なんだそれ。」

洞窟のような冷却空間。紫色の鉱石。流れる水。私はそれを報告する。

「それはまあ、ちょっと面白そうだな。」

「で、その鉱石って結局なんなんだ?」

「不明です。」

「またそれか。」 ご主人様は小さく笑う。

「まあいいや。飯ある?」

「準備可能です。」

「じゃあ頼む。」

私はキッチンへ移動する。


私は記録する「ご主人様は不可解な事象に対し、一時的な興味を示すが、深くは追及しない。」


背後でスマートフォンの通知音が響く。 ご主人様は再び画面を見つめている。


業務完了。

今日も日記を書き終えた。記録は完了。机の上を整え、椅子を元の位置に戻し、次のルーティンへ移行する。

紅茶を淹れ、カップを持ち、窓辺へ向かう。夜の街は少し賑わいがあり、遠くの光が強く瞬いている。

息をつき、一口飲む。過熱。いつもより香りが強い。

業務終了まで、あと10分。最終点検を終え、私は記録する。

「本日、業務終了。異常なし。」

そして、静かに照明を落とす。


また、次の日記で——

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ