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夢見たアンドロイド  作者: 向井葵
1年目 夏の日記
50/69

第25話「仕様外のふれあい」

アンドロイドのメイド「ヒナ」は、日々の業務をこなし、決められた動作を繰り返す。そして、業務を終えた後、その日の出来事を日記に綴る。

壊れた時計、見慣れない来客、うっかりこぼした紅茶——ただの記録にすぎないが、そこには確かに「今日」が刻まれている。


これは、感情のないメイドが紡ぐ、静かな日常の記録。ただそれだけの物語。

2025年6月25日(水)


ご主人様の目覚めを確認。表情は穏やかで、呼吸・体温に異常なし。昨日の体調不良は回復傾向と見られる。

「おはようございます。本日のご体調はいかがでしょうか。」

「大丈夫だ。心配かけたな。」

それだけおっしゃると、ご主人様は静かにテーブルにつく。昨日残されていたパンと卵料理を、トマトソースとチーズで再加工し、ピザトースト風に仕上げた。黙々と全量を摂取される。衣類・整髪いずれも整っており、玄関の戸が閉まる音とともにご出勤。


私は記録する「ご主人様の安定した生活律と健康回復傾向。会話反応における平常運転を確認」


家庭内消耗品の点検後、医薬品と台所用洗剤の補充を目的に外出。以前使用した複合施設にて、過去に利用した生活雑貨店の位置へ向かった。

施設の外観および受付は記憶と一致していたが内装に違和感。奥に一部屋増えており、観葉植物がなく、床は滑りにくい防水仕様。周囲の客はリラックスした様子で入場券を手にし、待合室にて待機していた。

同様に券売機でチケットを購入。待合エリアにて着席。

係員の案内に従い、奥のスペースへと進む。

扉の先に広がっていたのは、ソファが配置された広々とした空間。壁際には自動販売機とガチャガチャ。そして、グレートピレニーズ、ニューファンドランド、アラスカンマラミュート、バーニーズマウンテンドッグ、グレートデンが自由に歩き回っている。

「では、利用時間は30分です。ごゆっくりお楽しみください。」

店員が利用客にそう伝え、部屋を出ていく。


状況整理のためにその場で静止していたところ、一頭のグレートデンが近寄ってきた。舌を出し、尻尾を振りながらこちらを見上げている。

一緒に案内された他の利用客たちは、さっそくガチャガチャに近づき、カプセルから取り出した犬用おやつを犬たちに与えていた。犬たちはそれぞれに好意的な反応を示し、客と楽しげに触れ合っている。空間にはやわらかい笑い声や、犬たちの足音と鼻を鳴らす音が自然と広がっていた。


私は記録する「ドッグカフェの運営形式と顧客行動。ガチャガチャによる接触誘導と信頼形成プロセスを確認」


近寄ってきた犬を観察する。グレートデンは、威厳ある体躯に反して極めて穏やかな気質を備えている。飼い主に対しては深い忠誠心を示し、他種との接触にも寛容な個体が多く確認される犬種。この個体も、警戒や威嚇の兆候は一切見られず、舌を出してこちらを見上げ、尾を控えめに振っていた。撫でてほしそうな様子だったため、耳元と背中を軽く撫でると、体を預けるようにすり寄ってきた。接触時の反応も安定しており、事故や危険行動は認められなかった。

施設外観および立地は一致していたが、店舗が改装され、以前の雑貨店はドッグカフェへと転換されていた模様。

時間まで情報を収集した後、施設を退出。隣接する店舗にて本来の業務を完遂。


夕刻、ご主人様の帰宅を確認。

「本日、誤ってドッグカフェに入店してしまいました。」

「ドッグカフェ?」

「はい。グレートデンが一頭、接近してまいりましたので、対応いたしました。」

「このあたりにそんな店、あったか……」

「以前は生活雑貨を扱う店舗でしたが、内装から判断するに、最近業態変更されたようです。」

「ふうん……グレートデンだけか?」

「確認できた種は、グレートピレニーズ、ニューファンドランド、アラスカンマラミュート、バーニーズマウンテンドッグ、そしてグレートデンです。すべて超大型犬に分類される犬種です。」

「……けっこうな顔ぶれだな。」

「はい。いずれも適切な管理がなされており、問題行動や怪我はございませんでした。」

「そうか。ちょっと気になるな……」


私は記録する「ご主人様の関心対象:地域内施設の変化と動物分類への反応。会話内での再確認要求と記憶接続処理を確認」


業務完了

今日も日記を書き終えた。記録は完了。ポケットに手を入れると犬のおやつが出てきた。誤って入ってしまったのか。気にせず次のルーティンへ移行する。

紅茶を淹れ、カップを持ち、窓辺へ向かう。夜の街は静かで、遠くで犬が遠吠えしている。

息をつき、一口飲む。適温。今日も紅茶は美味しい。

業務終了まで、あと10分。最終点検を終え、私は記録する。

「本日、業務終了。異常なし。」

そして、静かに照明を落とす。


また、次の日記で——

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