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夢見たアンドロイド  作者: 向井葵
1年目 夏の日記
39/69

第14話「休日の温泉」

アンドロイドのメイド「ヒナ」は、日々の業務をこなし、決められた動作を繰り返す。そして、業務を終えた後、その日の出来事を日記に綴る。

壊れた時計、見慣れない来客、うっかりこぼした紅茶——ただの記録にすぎないが、そこには確かに「今日」が刻まれている。


これは、感情のないメイドが紡ぐ、静かな日常の記録。ただそれだけの物語。

2025年6月14日(土)


昨夜、ご主人様は仕事から帰宅後、普段より疲労の色を濃くしていた。そのため今朝の起床時間は遅れると予測。しかし、定刻通りに起床。行動パターンの修正を検討する必要あり。

「おはようございます。」

「……ああ。」

昨夜の様子とは打って変わり、ご主人様は普段通りの返答。

「ご主人様は昨晩、白米と焼き魚に手を付けませんでした。食材の廃棄を避けるため、本日の朝食として提供いたします。お味噌汁は不足していたため、先ほど作りました。」

「わかった。」

ご主人様は軽く頷き、椅子へ腰を下ろす。


私は記録する「食事の提供と状況適応。廃棄せず最適化した選択」


朝食の準備を終え、食卓へ運ぶ。白米と焼き魚、作りたての味噌汁を添える。

食事中、ご主人様はぽつりと呟いた。

「昨日は悪かったな。」

謝罪の意図が含まれていると判断する。

「問題ございません。」

「俺、たまにああいう態度になるな。」

「承知しております。」

ご主人様は味噌汁をすすりながら、小さく息をついた。

「温泉でも行くか。」

「同行いたします。」

ご主人様は疲労の回復を目的に温泉を提案したと判断。

貸し切り可能な日帰り温泉施設を検索し、予約を確定。

「温泉の貸し切り部屋を手配しました。ご確認ください。」

「貸し切りか。」

温泉施設のサイトを見てご主人様は満足した様子で食事を続けた。


出発時間まで通常業務を開始。

食事を終えたご主人様は、有料動画サイトを開き視聴動画を選定。

昨晩視聴した刑事ドラマの履歴を確認。

「俺、こんなの見てたか?」

「私が視聴しました。」

「は?」

「ご主人様の嗜好分析のためです。」

「お前、俺より俺の趣味に詳しくなったりしないよな?」

「可能性はございます。」

「それはそれでどうなんだ……」


私は記録する「嗜好分析の結果。対象の理解は深まるが、興味は一定以上広がらず」


ご主人様は画面を確認し、一瞬考える素振りを見せたが、すぐにそのドラマの1話を再生した。

「ネタバレするなよ。内容うろ覚えなんだ。」

「心得ております。」


予約時間が近づき、支度を済ませ、車で出発。

助手席にて、ご主人様はスマホでドラマの続きを視聴。

目的地へ到着。予約した部屋へ通される。

浴室はこじんまりとした半露天のヒノキ風呂。テラス戸で仕切られた湯上がりスペースは6畳ほど。

「悪くないな。」

「温泉の質も良好のようです。」

「まあ、入ってみないと分からん。」

ご主人様はゆっくりと湯に浸かる。

その間、道中で購入したビールと枝豆を湯上がりスペースへ配置。

風呂上がりのご主人様に提供すると、すぐに缶を開け、枝豆を摘まんだ。


帰路、ご主人様は助手席で居眠り。

自宅に到着すると、すぐにドラマの続きを再生。

「誰にも邪魔されない休日も久々だな。」

そう言いながら、余っていたビールの缶を開ける。


私は記録する「休息の確保と満足度。対象の気分は安定傾向」


業務完了。

今日も日記を書き終えた。記録は完了。机の上を整え、椅子を元の位置に戻し、次のルーティンへ移行する。

グラスに赤ワインを満たす。窓辺へ歩を進め、夜の街を見渡す。遠くの灯りは穏やかに瞬き、静寂の中で揺らめいている。

業務終了まで、あと10分。最終点検を終え、私は記録する。

「本日、業務終了。異常なし。」

グラスを静かに傾ける。柔らかな渋みと深い果実の余韻が広がる。


また、次の日記で——

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