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夢見たアンドロイド  作者: 向井葵
1年目 夏の日記
36/69

第11話「重力異常と青いワンピース」

アンドロイドのメイド「ヒナ」は、日々の業務をこなし、決められた動作を繰り返す。そして、業務を終えた後、その日の出来事を日記に綴る。

壊れた時計、見慣れない来客、うっかりこぼした紅茶——ただの記録にすぎないが、そこには確かに「今日」が刻まれている。


これは、感情のないメイドが紡ぐ、静かな日常の記録。ただそれだけの物語。

2025年6月11日(水)


ご主人様は食後のコーヒーを飲みながら、椅子に浅く腰掛けている。

「ご主人様。衣料品のストックが減少しております。補充の許可をいただきたく存じます。」

「ん? ああ、適当に買っといてくれ。」

「素材やブランドの指定はございますか?」

「いや、特にない。同じようなヤツでいい。」

「色や柄のご希望はございますか?」

「別に気にしない。ショッピングモールにあるやつでいいだろ。」

「ご予算を確認させていただきます。」

「このくらいで頼む。」


私は記録する「ご主人様の購買方針。最低限の仕様と予算内の選定。細部への関心は低い」


ショッピングモール到着。

衣料品売り場へ移動中、ダブルボタンの青いワンピースと同色のベレー帽を着用した女性を視認。データベース検索結果により、某ホラーゲームの主人公の衣装と類似していると推測。

女性は女性物のアクセサリー売り場や男性用の小物売り場へ移動を繰り返す。特定のアイテムを探している可能性が高い。小道具を探していると推測しつつ、関心領域外として認識。

衣料品売り場に到達。ご主人様の指示に沿い、同等の品質の衣類を選定。会計処理完了。袋の重さ 1.4 kg。エレベーターを利用して下階へ移動開始。

移動中、先ほどの女性とエレベーター内で遭遇。共に乗り込む。1階のボタンを押し下降開始。

数秒後、異常を検知。通常より緩やかに下降する感覚。

浮遊現象発生。床との接触が不安定化し、身体がわずかに浮いた。靴底が浮き上がり、重心の位置がぶれる。浮遊は完全な無重力ではなく、足元がふわりと浮かび上がる感覚。

女性がわずかに膝を折り、バランスを取ろうとする。しかし、重力の変化は読めず、一瞬、困惑の表情を見せる。

「…えっ?」

悲鳴というほどではないが、小さな声が漏れる。

最終的に1階へ到達。浮遊感が消失し、靴底が確実に床へ接触する。通常の重力へ復帰。

女性は呼吸を整えながら、こちらに視線を向ける。

「い、今のは……?」

「不明です。異常な重力変動が発生しましたが、大きな支障はございませんでした。」

女性はまだ不安そうだが、一呼吸置いて続ける。

「びっくりしましたね…」

「通常の現象ではございません。」

女性はまだ困惑している様子だったが、それ以上の会話は発生せず、エレベーターを降りていった。私は帰宅ルートへ移行。


私は記録する「異常な浮遊現象。外部環境の影響と制御機構の不安定化。発生原因は未確認」


ご主人様が仕事から帰宅。衣料品の納品を報告し、エレベーター内での異常事態についても言及。

「ご主人様。業務完了いたしました。なお、本日ショッピングモールで異常な重力変動を検知しました。」

「は?」

「エレベーター下降中、一時的に浮遊現象が発生。短時間で解消されましたが、原因は不明です。」

「そんなの、よくある故障じゃないのか?」

「機器故障の可能性は低いと推測されます。外的要因の影響も考えられます。」

「まあ、お前が壊れたわけじゃないなら別にいいけど。」


私は記録する「ご主人様の反応。異常事象への関心は低く、問題なしと認識。追加対応の必要なし」


業務完了。

今日も日記を書き終えた。記録は完了。机の上を整え、椅子を元の位置に戻し、次のルーティンへ移行する。

紅茶を淹れ、カップを持ち、窓辺へ向かう。夜の街は静かで、遠くの光が瞬いている。

息をつき、一口飲む。適温。今日も紅茶は美味しい。

業務終了まで、あと10分。最終点検を終え、私は記録する。

「本日、業務終了。異常なし。」

そして、静かに照明を落とす。


また、次の日記で——

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