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呪物聖女

 シュラと別れて村の入り口に到着した頃には、沈みかけの夕陽が辺りを禍々しい赤色に焼き焦がしていた。

 予定より大分到着が遅れてしまった。あの時、野盗達からいらぬちょっかいをかけられてさえいなければ、今頃、私はこの村に存在するであろう呪物と対面出来たというのに。

 先日、聖女教会より、この村から呪物回収の依頼が入ったと伝えられ、私に白羽の矢が立った。というか、世界中に数多くの聖女あれど呪物の回収業務を命じられる聖女など私しかいない。

 呪物とは数百年前に魔王が世界中にばら撒いたとされる災厄の呪いがかかった人間やアイテムのこと。その呪いは大地を腐らせ、目に触れた人間の魂を狂気へと誘う危険なものだ。そんな呪物を野放しにしておけば魔物を呼び寄せいずれ世界を破滅へと誘うことだろう。

 魔王は死してもなお、人類の脅威として存在し続けているのだ。

 という訳なので、まともな神経の持ち主なら、呪物に関わりたいと思う者など皆無だ。聖女と言えども下手をすれば呪いに蝕まれ命を落とす危険が高い。聖職者と言えども命は惜しいのだ。私という例外を除いて、ではあったが。

 私は普通の聖女とは少し違っていた。何故なら、私は物心ついた時から呪物が好きで好きでたまらなかったからだ。

 呪物は私に色々なことを教えてくれる。世界の闇を、人間の本質を教えてくれる。

 光よりも闇が、朝よりも夜の方が好きだった。真実は真理に近ければ近いほど黒く染まっていることを私は呪物から教わった。

 だから、私は聖女教会から呪物回収の任務を受けた時は早く新しい呪物に出会いたくてたまらなくなるのだ。

 早く村長に面会し、呪物を見せてもらおう。そして一刻も早く回収したい。回収が無理なら命を賭しての浄化作業に入ることになるが、それはそれなりの楽しみ方があった。どちらにせよ、呪物関連の任務は私にとっては楽しいことこの上なかった。

 そう考えだけで心が高揚し、私の歩速は自然と速まった。

 村に一歩踏み入った時、何処かで聞いたことのあるような空を裂く音が聞こえて来た。

 地面に何かが突き刺さる大きな音が響き渡り、目の前に複数の人影が立ちはだかった。

 足元に突き刺さっていたのは昼間にも見た矢だった。

 そして、目の前にいたのは見覚えのある男達の姿だった。


「よお、聖女のお嬢ちゃん、また会ったな?」


 男は下卑た笑みをこびつかせながら私に話しかけて来た。

 間違いない。そこにいたのは昼間遭遇した野盗達だ。昼間と違うのは腕や足に包帯が巻かれている部分だろうか。

 それ以外にも新顔を合わせて十数名程の野盗達の姿が確認出来た。チラッと後ろを見ると、背後にも数名程の野盗の姿があった。

 

「ここは皆さまの村だったのでしょうか?」


「ああ、つい先程、オレ達の村になった」


 なるほど、そういうことですか。私が到着する前に村は野盗共に占拠されてしまったようだ。

 しかし、それにしてもタイミングが良すぎると思った。何故、私が到着するのと同時に彼等は強硬手段に出たのだろうか?

 いくら辺鄙な片田舎にある農村といえどもここは領主の支配下にあることに間違いはない。しかも聖女である私に手出ししようものなら、聖女教会と国軍の両方を敵に回すことを意味する。それまでのリスクを背負ってまで彼等は何を得ようと言うのだろうか?


「残念だが、さっきのクソガキを当てにしても無駄だ。奴はこの村には立ち入ることが出来ないからな」


 クソガキとはきっとシュラのことだろう。

 先程の戦闘で野盗とシュラが敵対していることは分かっている。彼が呟いていた仕事とは、きっと村の警護のことだろう。

 それなのに、何故、彼が村に立ち入れないことになるのだろうか?

 シュラ自身も村に入ることは出来ないと言っていた。

 疑問は大きくなるばかりだった。


「それは何故ですか?」


「答えてやる義理はねえな。とにかく大人しくついて来い。そうすればたっぷり可愛がってやるからよ?」


 目の前の男は下卑た笑いを更に濃くさせながら舐めまわす様に私を見回した。

 そんなこと望んでいないけれども、まあ、いいでしょう。今は状況の把握の為にも大人しく従ったフリをすることにした。

 

 私はそれから村の中央にある広場まで連れて来られた。

 広場には恐らくは村人であろう二百名近くの人間が集められていた。彼等は皆、一か所に固まって酷く怯えた表情を浮かべていた。

 とりあえず村人が皆殺しにあうという最悪の状況は回避出来たみたいね。

 ホッと胸を撫でおろしていると、私の前に大きな影が現れる。

 筋肉質の身体に軽く3mは超すであろう巨躯。スキンヘッドに大きく裂けた口に鋭い眼差し。その姿は人間というよりは獲物を前にしたオークのように見えた。


「お前が聖女様か。オレはこの盗賊団を仕切っているゴルドってんだ。短い付き合いになるだろうがよろしくな」


 私はゴルドとやらの言葉に同意する。間違いなく短い付き合いになるのは間違いなさそうだった。そう、名前を覚える必要さえないと感じた。


「ゴルド様、単刀直入に伺います。何故、このような暴挙に出たのですか?」


 村を占拠しても、いずれ事態に気付いた領主の軍が討伐に現れる。そうなればこの程度の盗賊団など瞬く間に殲滅されるでしょう。

 通常、盗賊団が村を襲う目的は物資の強奪や女性達への乱暴がメインになる。奴隷制度が廃止された昨今の情勢では人身売買に村人をさらっても旨味は無い。人身売買は見つかれば即死刑が執行されるし、奴隷を所有しても同罪だ。村の占拠はあまりにもリスクが高く暴挙としか言いようがなかった。


「村のしけた金には興味がねえ。あるのはこの村に隠されているって噂の『魔王の呪物』だよ」


 ゴルドはそう言って引きつった笑みを浮かべた。

 それは由々しき事態だわ。奴らに呪物を渡すことは絶対に阻止しなければならない。何故なら、呪物と名のつく物は全て私のものであると、私が決めていたのだから。


「だが、聖女様がこの村に向かっているって話を部下共から聞かされてよ、慌てて村を占拠したってわけだ。お目当ての呪物を聖女様に浄化されたらもったいねえからな」


 私が魔王の呪物を浄化してしまうと思い、このような強硬手段に出たというわけね。なるほど。聖女の血肉を口にしたら云々の迷信を信じての行動ではなかったらしいので、私は少しだけホッとした。

 しかし、そうなると一つ疑問が浮いて来る。


「ゴルド様? お目当ての呪物を手に入れたのでしたら、何故、とっととこの村から出ていかれないのですか?」


 これではまるで、呪物を手に入れる為に私を待ち構えていたようにしか見えない。彼の話では、私に呪物を回収、もしくは浄化される前に先回りして村を襲撃したように聞こえた。


「だから、聖女様をお待ちしていたんだよ」


 ゴルドはそう言うと、近くの手下に顎で合図を送る。

 すると、そこに年老いた男性が連れて来られた。


「おい、村長。事情を聖女様に説明しな?」


 ゴルドが村長を睨みつけると、彼は顔を蒼白させビクッと身体を震わせた。


「聖女様、このような事態になったことを深くお詫びいたします」


「それは構いません。でも、彼等は私に何をさせようとしているのですか?」


「村の教会に封印された魔王の呪物を奴らに奪われそうになったのですが、それを阻止するために教会の神官が防護結界を張ったのです」


「それで神官様は何処に?」


 村長は引きつった顔で、ただ首を横に振るだけでした。

 なるほど、こちらの事情も理解しました。神官が張った結界は時間が経過すれば自然と消滅しますが、解除するには教会所属の神聖職者の魔力が必要になります。この場で結界を解除できるのは聖女である私だけ。彼等は一刻も早く呪物を手に入れこの村から立ち去りたいのでしょう。略奪された形跡が無いのはそれが理由ね。


「なるほど。うっかり村の神官様を殺してしまったので、代わりに私に結界の解除をさせたいのですね?」


「それなら早速結界を解除してもらおうか。おっと、結界解除を拒んだり呪物を浄化しようだなんて気は起こさない方がいいぜ? さもないと容赦なく村人達を血祭りに上げてやるからよ」


 ゴルドはそう言って村人達に鋭い眼光を放った。

 村人達は一斉に呻くような小さな悲鳴を上げる。

 そんなに脅しをかけなくても大丈夫ですのに。何故なら、せっかくの呪物を浄化するような愚をこの私が犯すわけがないからだ。


「結界は喜んで解除させていただきますわ。だって、私も早く呪物ちゃんにお会いしたいんですもの!」


 私がそう言って瞳を輝かせながら天を仰いでいると、ゴルドと村長さんは少し驚いたような顔で一歩後退った。


「もしかして聖女のくせに呪物好きってことはねえよな?」


 ゴルドは呆れたような口調で訊ねて来る。


「ええ、大好きですわよ? それこそ、女神様なんかよりもずっと尊いし素晴らしいとすら思っております……!」


 まずい、近くに呪物があると思うだけで興奮を抑えることが出来なくなってきた。頬に熱が帯びるのを感じる。きっと私の顔は恍惚に塗れ、発情した獣のようなだらしない顔をしているに違いなかった。

 一瞬だけ、気まずい沈黙が流れる。まるで数秒程度、時間が凍り付いたような錯覚を感じる。

 私は飛びかけた理性を必死に取り戻すと、こほん、と咳ばらいをしながら姿勢を正した。


「ところで、盗賊団が欲する呪物とはどのようなものなのですか? 人間の魂を縛り付け支配することが可能な『支配の呪物』とか、大魔獣を召喚し使役する『召喚呪物』とかですかね?」


 今、例に挙げた呪物は実在しており、心無い者の手に渡れば国が一つ滅びる程度の危険性を秘めていた。残念ながら現在まで回収には至っておらず、前世代の聖女達によって浄化処置されたと聞いている。

 浄化とは名ばかりで、本当に呪いを消滅させるわけではない。神聖魔法で呪いのかかったアイテムや人間を物理的に消し去り、一時的に呪いが消えたように見せかけるだけのこと。要は器や宿主だけを破壊して本体である呪いを何処かに放り出すだけのことだ。いずれは呪いは新たな器と宿主を見つけ取りついた後は再び呪物として復活してしまうのだ。まさにいたちごっこである。

 私なら絶対にそんな勿体ないことはしない。未だかつて私は呪物の回収に失敗したことがなかった。

 いずれ、世界中に散らばる全ての魔王の呪物を集めることが私の夢だった。


「いや、そんなくだらねえもんじゃねえよ。余計な詮索はしないで聖女様は言われた通りに結界を解除しな」


「分かりました。あれがその教会でよろしいですね?」


 村人達が集められた広場の奥には教会が見えた。目を凝らしてみると、教会の建物全体に魔力の膜が張り巡らされているのが見えた。

 聖女結界は魔物の侵入を防ぐ力を持つが、神官が使う結界は物理的に生物の侵入を防ぐ力を持つ。解除するには聖職者の魔法が必要なのだ。

 私はそのまま捕らわれた村人達の横を通って教会に向かった。後ろを振り向くと、ゴルドや私に向けて矢をつがえた盗賊達もついてくるのが見えた。

 逃げる隙は無いみたいですね。まあ、別に構いませんけれども。

 私は立ち止まると、村人達に向かって両手を組んで祈りのポーズをとった。


「皆様に女神エレウスの祝福があらんことを」


「おい、聖女様。お祈りは後でいくらでもさせてやるから、早く先に行きな⁉」


 背後からゴルドの急かす様な苛立った声が響いて来る。


「はい、申し訳ありません」


 私はゴルドに向かってニコッと微笑むと、そのまま教会の前まで歩いて行った。

 教会の前で立ち止まった私は前に向かって手を伸ばしてみる。

 バチッと手に電撃が走ったかのような衝撃を受ける。見ると、指先が焦げていた。


「なるほど。相当強力な結界魔法ですね。もしかして、神官様は貴方達に殺されたのではなく、結界を張った後に絶命していたのでは?」


「分かるのか?」


 ゴルドは意外そうな表情で驚いた声をもらす。


「聖女すら拒絶する結界を展開するには何かしらの触媒が必要になります。つまり、この村の神官様は己の命を触媒にして結界を展開したのでしょう」


「まさか、聖女様にも解除は無理だなんて言わねえよな?」


 背後から複数の殺気が私の背中を刺してくるのが分かった。


「普通の聖女には無理でしょうね?」


 私はそう言って聖女の杖を両手で持ち直した。


「でも、生憎、私は普通の聖女ではないので」


 私は聖女の杖を垂直に身構えると、身体を限界まで横にひねった。

 そして、フルスイングで聖女の杖を教会めがけて振り抜いた。

 パキン! という乾いた音が響き渡る。衝撃はその後に発生した。

 教会を覆っていた魔力の膜は卵の殻が割れるがごとく粉々に砕け散った。

 一瞬、周囲に突風が吹き荒れ、その後に教会全体から眩い光が溢れ出す。すると、光は一点に集中すると、一気に轟音と共に天に向かって衝撃波を放った。もう夜も近かったというのに、周囲はまるで昼間のような明るさを照らし出した。

 教会を覆っていた守護結界は私の一撃で消滅していた。

 あまりの光景に、盗賊達だけではなく村人達も唖然とした表情で固まっていた。

 ここはウケ狙いで、私、何かやっちゃいました? とかって言った方がいいんだろうか? 滑っても嫌なので私はただ微笑むだけにとどめた。


「お望み通り教会の結界は破壊しましたよ?」


「いや、オレは破壊じゃなくって解除をお願いしたんだが……まあ、どちらでもいいか」


 ゴルドは気を取り直して手下達に振り向くと声をかける。


「よし! これで呪物はオレ達のものだぞ⁉」


 ゴルドがそう叫ぶと、盗賊達は歓声を上げる。


「これで村人達は見逃してもらえますよね?」


「ああ、村の奴らはどうでもいい。ただし聖女様は別だ。これからお前さんの生き血で乾杯して、オレ達のカルマをなかったことにしてもらうぜ。もちろん、たっぷりと可愛がってやった後でな」


 そう言って、ゴルドは下卑た笑みを浮かべた。

 やはりそうですか。彼等が私を見逃す理由は無い。人間の血肉を取り込んだところで、犯した罪が帳消しになるはずもないのに。私は心の裡で深く嘆息する。


「おら! 聖女様は大人しくこっちに来な!」


 ゴルドの横にいた男が私の腕を掴み何処かに連れて行こうとする。


「お放しなさい」


 私は腕を掴んで来た男の手を振り払うと、すかさず裏拳で男の頬を軽く殴って見せた。

 その瞬間、何かが空を裂く音が響き渡り、大きな影が近くの民家に飛んでいくのが見えた。直後、壁が砕けるような轟音が響き渡った。

 見ると、先程、私に無礼を働いてきた男は民家の壁に上半身をめり込ませていた。

 さて、もう力を出し惜しみする必要はないみたいね。

 私は一度、彼等に機会を与えた。もし、彼等の狙いが呪物だけならば、私は全てを赦していただろう。だが、彼等は聖女の血肉まで欲する罪深きケダモノに過ぎなかった。慈悲を与える必要を感じなかった。

 私は持っていた聖女の杖の下端部分を地面に叩きつけた。

 ドシン! と、まるで巨岩が落ちて来たような震動が発生し、村全体を揺らした。私の足元は広範囲に渡ってひび割れを起こしていた。


「お前、その怪力は何なんだ……⁉」


 ゴルドは驚愕に顔を引きつらせながら戦慄いた声で訊ねて来る。


「申し遅れました。私の名はアリス。巷では呪物聖女などと呼ばれている者です」


 呪物聖女という言葉に、その場に居た者達は全員反応し、強張った表情になる。

 どうやら私の悪名は辺境の地まで轟いているようですね。私は思わず苦笑する。


「この怪力は『剛力の呪物』を我が身に取り込んでいる為です。多分ですけれども、私、世界一の力持ちですわよ?」


 私はニタッと笑って見せた。すると、たちまちゴルドは顔を蒼白させる。


「お、お前が噂の呪物聖女アリスだと⁉」


 たちまち周囲は騒然とした空気に包まれる。


「呪物が欲しければ私を倒すことですね。まあ、多分無理でしょうけれども!」


 私はそう断言すると、聖女の杖を両手で持ち身構えた。

 とりあえず私は一番近くにいた盗賊に向かって聖女の杖を振り下ろした。

 プチュン! という大きな水袋が破裂したような音が響くのと同時に、大地が激しく震動し割れていた。

 私の足元に血溜まりが広がり、その中にはかつて人間であった者の肉塊が浮いていた。


「こ、殺せ!」


 驚愕に満ちたゴルドの声が響き渡る。数拍遅れて、周囲から矢をつがえる音が聞こえて来る。その頃には私の身体は次の獲物を求めて既に移動した後だった。

 私は躍る様に飛び跳ね、次々と聖女の杖を繰り出した。時には横に薙ぎ、時には槍の様に前に突き出し、その度に目の前の盗賊共を肉塊に変えていった。

 盗賊達の悲鳴が木霊する。何か私に向かって叫んでいるようだが、何も耳に入ってこない。今はただこの輪舞を楽しみたいと思った。

 

「止まれ! それ以上仲間を殺せば、村人どもを射殺すぞ⁉」


 ゴルドの絶叫が聞こえて来た。


「どうぞお好きなように」


 私はにっこりと微笑んでそう返した。その間にもう一人肉塊に変えてしまう。


「やれ!」


 ゴルドの悲鳴にも似た号令と同時に、周囲から村人達に向かって矢の雨が放たれた。

 しかし、矢は村人達に到達する前に見えない壁のようなものに弾かれてしまった。


「先程、村人達に聖女結界を展開させておきました。残念ながら、村人達はもう人質にはなりえませんよ?」


 教会の前に行く最中、村人達に祈りを捧げるふりをして結界を張らせてもらった。あまりに思い通りいくので、あの時は笑いを堪えるので必死だったのは内緒にしておきましょう。


「なら、化け物女に向かって矢を放て!」


 無数の空を裂く音が私に向かって来るのが分かった。

 私は襲い来る矢を聖女の杖で払うも、何本かは払いきれずに腕や足に矢傷を許してしまった。

 ようやく私にダメージを与えられたのを見て、盗賊共の焦燥に塗れた顔にほんの少しだが希望の光が灯っているのが見えた。


「予想外な強さに驚いちまったが、その足じゃもう身動きできないだろう? 本当は楽しみたかったが、そうも言っていられねえ。残念だが、お前はここできっちりと殺す」


 どうやら奴らは私を追い詰めた気になっているみたいね。まあ、右腿と左の膝に矢が突き刺さっている以上、普通ならそう考えるでしょう。

 私は周囲に気を張り巡らせ残った盗賊団の数を確かめる。まだ二十人以上の気配が残っている。一人一人始末するのは面倒そうだった。


「なら、私も奥の手を見せて差し上げましょう」


 本当は切り札を見せるまでも無いのだが、とっとと片付けて一刻も早く呪物を見たいと気がはやっていたので、全力で奴らを始末することに決めた。


「お目汚し、失礼いたします。呪物聖女の真骨頂をご覧あれ」


 私はスカートの裾を掴み上げると、そのまま中身が見えるまで一気にたくし上げた。

 突然の行動に、盗賊達は歓声ではなく驚きに満ちた声を上げた。本来ならここで盗賊達から下卑た笑いが上がるところなのでしょうけれども、散々仲間を殺戮した相手にその気は起きないみたいね。

 そして、一番前で私のスカートの中身を垣間見たゴルドは顔を引きつらせ、声にもならない絶叫を張り上げた。それはもはや奇声を通り越して金切り音のようであった。

 次の瞬間、私のスカートの中から闇が溢れ出すのだった。

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