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7.陰惨たる男達の宴

 パーシーは結局、メアリーとは一切関わらないという書類にサインを行って出所した。


 そして、その足で公証人の元に行き自分の相続権はどうなってるのかと聞いた。

「あぁ、その件ですか。こちらはもう放棄の手続きが完了されていますよ」

 そう言って書類を見せてもらうと、こちらはちゃんと放棄した事になっており、ますます彼の頭の中は混乱した。


 ……一体どうしてだ? でも、これがあるという事はエリザベスは確かにいるはずなんだ。娼館に行こう……


 夕刻。

 娼館の営業開始時刻ぴったりにパーシーは到着すると、いつもの古い扉を開けた。

 

 だが、しかし……


 いつもギョロギョロとした目の男が確認するホールは明かりが灯されておらず、薄暗いままとなっている。

 まだ早かったのだろうか? そう思いながらも、パーシーは小さな扉を叩いたが、しんと静まって一向に反応することはなかった。

 そのため、彼は念のため中央の扉に触れてみた。

 すると扉が少し動き、鍵がかかっていないのは明らかだったので彼は勢いよくそれを開いた。


 しかし目の前に現れたのはーーー


 いつもの淫靡なピンクの光を放った空間ではなく、夕日の明かりだけが頼りの薄暗い空間だった。

 しかも、ただ照明がついていないという訳ではなく、とてもカビ臭く、蜘蛛の巣もところどころ張っている。

 床は腐り穴が開いている部分があり、天井や壁は一部が崩れており、光もそこから差し込んでいた。

 中央のホールに置かれたテーブルも乱雑になっており、割れた酒瓶などが転がっている。しかもよく見れば、虫がたかっているようだった。

 もちろん人なんて誰一人いやしない。


「なんだよ……ここ」

 思わずそう呟いたが、ここは明らかに廃墟でしかない。

 パーシーはエリザベスの部屋に通うのに使っていた階段の方へと向かってみても、階段がまるまる抜け落ちており、登ることはとてもではないが不可能だった。

 

 そんな。

 ちょっと前まで、自分はここでエリザベスと愛を交わしていたと言うのに。

 エリザベスはどこだ?

 彼女はどこだ?!

 そう彼が叫ぼうとした瞬間

「もう利用価値がないお前にはこの舞台がぴったりだ」

と、背後から聞き慣れた声がした。

 

 彼が振り返ると、想像した通りそこには銀髪の男が立っていた。

 だが、いつもとは様子が違う。


 なぜか今日は目元に黒いマスクをして、さらに、同色の手袋をはめた手にはしならせた乗馬鞭を携えていた。

「しかも金を持たずにここに来たんだろう? 悪い子だ」

 銀髪の男は静かにそう言ってパーシーに近づいた瞬間、彼の尻に向かって思い切り鞭を振り下ろした。


 鋭い痛みが走る。

 その痛みでパーシーはその場に膝を着くと、男に向かって何をするんだ! と言って叫んだ。

 だが、銀髪の男は構わず二発目の鞭を入れた。またしても痛みが走り、彼はバランスを崩して床に両手をついた。


 さらに、銀髪の男は四つん這いになっている彼の背中を容赦なくブーツの踵で踏みつけ、冷たい視線を投げた。

「わざわざ金を払ってでも、私の鞭に叩かれたいという男もいるんだ。タダで叩いてやってるんだから有り難く思え。痛みに身を委ね、もがき狂い舞うがいい」

 と言って、もう一発、二発……と銀髪の男は鞭での打擲を悶絶しているパーシーに与え、その度に彼は声を上げ、苦痛に顔を歪ませた。


「……金がないお前には少しでも稼いでもらわないとな。これも私が鞭で叩いてる姿を見てみたいという客からの要望だ」

 男がそう言っている間、気がつけばランプを手に持った黒いマスクの男たちが、パーシーの周りを取り囲んでいた。


 銀髪の男は踏みつけていた足をおろし、パーシーの襟首を掴んで無理やり立たせると、取り囲んでいる男達に向かって突き飛ばした。

 すると男達はゲラゲラ笑いながら一斉にパーシーの事を担ぎ上げると、ホールから持ってきたテーブルの上に抵抗する彼を置き、口には布を当てがい、広げさせた手と足には鎖で繋がれた枷を嵌めてそこから動けないようにした。


「よく聞け。お前には衣装代のツケがあると言っただろう。でも、今すぐ払えないのなら体で返してもらうしかない」

 囚われたパーシーの耳元で、銀髪の男はそう話した。


 体で返す? どういうことだ?! パーシーは喋れないながらも、男に向かってそう叫んだ。

「ああ。失礼。伝えるのを忘れていたか。うちのルールは女は殺してはいけない、壊してはいけないと決まっているのだが。男に関しては生憎それはないのだ」

 余計にどういう意味だ? と言いた気に、パーシーは目を落ち着きなく動かした。


 男は彼の上半身に手を置くと、愛撫するかのように指を上下に滑らせ始めた。

「一応は聞いてみた。お前の体に興味はあるか、抱いてみたいという客はいるのかと。だが、残念ながら立候補した客は全くいなかった」

 もし、いたとしたならば……と男は続ける。

「見られながらするのが好きなんだろう? エリザベスに行ったように、無理やり服を引き裂かれ、他の男たちの目の前で犯されることも出来たのに。残念だったな。彼女は未遂だったようだが」

 

 どうしてあの日の事を?! まさかエリザベスが喋ったのか?! 

 パーシーはなぜ知っているんだという顔をし、そして彼の目には、周囲を取り囲み自身のことをせせら笑っている男たちの姿が映った。


 普段は女を舐めるように見つめ、品評し、はぁはぁと歓喜の声をあげ、自身の欲望をぶつけて恍惚の表情を浮かべている。

 改めて欲に塗れている彼らを見ると、なんと醜悪なことか。

 そんな彼らに、もし自分の体を蹂躙されたのなら……と、一瞬想像したパーシーは顔色を青くしながら首を横に振り、銀髪の男の方へ視線を送った。 


「私? 誰も抱いてくれないなら私はどうだって? ああ、それはごめん被る。言っただろう、私にだって好みはある」

 ハッと、小馬鹿にしたような笑い声を出した後、銀髪の男は指の動きを止めた。


「ところで、知っているか? 人体から血液が1/3以上流れ出ると死亡するそうだ。でも、それは本当だろうか?」

 銀髪の男は、止めていた指を彼の左胸に乗せて軽く叩いた。


「確かに本にはそう書かれているかもしれない。だが、実感してみないとわからないこともある」

 お前はそれを知っていたか? と彼は尋ねた。

「そして今日、ここに集まった客たちは、本当にそれが正しいのか実際に自分の目でぜひ確かめてみたいと言ってるんだ」


 銀髪の男が指差した先には、ニヤニヤと笑い、シャキシャキと音を鳴らしながらスイカですら切れそうな大きなハサミを持った男と、逞しい腕にそれに見合った斧を持ち振り回している男がいた。

 さらに、別の男が笑い声を上げながら古ぼけた人形を彼らに向かって放り投げると、ハサミの男が人形の頭部を切り離し、斧の男は人形の原型がわからなくなるほどめちゃくちゃに切り刻んだ。


 何をされるかと悟った彼は、布を噛まされているのにもかかわらず、顔を真っ赤にしながら辞めろ! と声にならない叫びをあげた。

「まあ、そう興奮するな。夜はまだ始まったばかりだというのに、あれではすぐ終わってしまう。芸がない」

 だが、その代わりといったように、銀髪の男は綺麗に輝いている細いナイフをどこからか取り出した。

「新しいナイフだ。よく切れそうだろう?」


 パーシーはふーっ、ふーっと、叫んだが銀髪の男はナイフを彼の目の前まで持っていき、ほらと言って光り輝くそれを彼に見せつけた。

「ああ。でも流石に切るところを見せつけるのはかわいそうだ」

 薄ら笑いを浮かべながら男は、首を横に振り手を片手を腰に当てた。


「だから、あとはご想像にお任せするとしよう」

 甘く囁くようにそう言いながら、男はいつの間にか手に持っていた布を怯えているパーシーの目に当て頭に巻きつけて、彼から視界を奪った。


 嫌だ、嫌だ

 辞めてくれ!!

 俺が何したって言うんだ!

 そう言葉には出来ずとも叫び続けているパーシーの事をお構いなしに、銀髪の男は彼の右手をテーブルに押さえつけようとした。


 彼は手を何とか動かして男から逃れようとしている。

 だが、ナイフの柄で手の甲の中央を強く打ち付けられると、あまりの激痛に叫び手を動かす事が出来なくなった。

 そして、とうとう彼の手は男に押さえつけられてしまい、冷たい金属の感覚がしたと思うと、一瞬焼けるような痛みが彼の手に走った。

 続いてポタポタと金盥か何かに自身の血液が滴り落ちる音がし始め、彼の周りにいた男達は大きな歓声をあげた。


「さあ、終幕へのカウントダウンが始まった。どのくらい時間がかかるのはわからないが。暫く経ったらまた様子を見にくるとしよう」

 それまで、せいぜい頑張れと銀髪の男は耳元で囁くと、笑っている男達を引き連れてパーシーだけを廃墟に残し去っていった。


 ギィィィ……ガシャン


 彼だけが残されたホールに、扉と鍵の閉まる音が大きく響き渡る。

 彼は泣きながら必死に、誰か、誰か助けてくれと口に布を噛まされながらも大きく叫んだ。

 しかし、その声は誰にも届かないーーー


 静寂の中で唯一返事が返ってくるのは、傷口から感じる痛みと、ピチャンピチャンと血溜まりに滴り落ちる自分の血液の音だけだった。

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