第8話「千導院」
「で、何で佐霧さんがいるんだ?」
「幼馴染なんで」
「神崎君?」
「ち、違いますよ。あのなんていうか……」
ナツキは誤解をとくため説明した。
「なるほどな……あー」
宗藤は悩む。
今ここで茜を排除したところで、解決するまでの間接触をさせないなんてことは不可能だ。
中途半端な情報から変にやる気を出されても困る。
悩んだ結果機密であることを念に説明し、事情を公開する。
「実はな、教師陣の誰かに性犯罪に関与しているやつがいるかもしれなくて」
「……」
「……」
ナツキと茜は口を閉ざす。
まさか、犯罪者がこんなにも身近に潜んでいたとは。
「なら怪しいのは毛熊ですね」
「茜、失礼じゃない?」
「だって絶対怪しいでしょ?ナツキだって好きじゃないでしょ」
「すまん、毛熊とはあだ名か?誰のことだ?」
「三年の数学の毛利って先生です。毛深くて熊みたいで、毛利で毛でしょ?だから毛熊って言われてるらしいです」
「ああ……なるほどな」
対応に困る。
しかし、彼自身は容疑者の一人だ。
「怪しいのは見た目だからか?」
女子からすれば好まれない容姿の男性は不利なのだ。それは十二分に理解してる宗藤だが、印象だけで動くのは不味い。
「噂なんですけど、変態って呼ばれてるらしいです。それに、生徒と個人的に連絡とってその文章がキモイとか」
「そうか。ありがとな。ちなみに誰とやり取りしてるとか分かるかい?」
「それはちょっと分からないんで聞いてみますね」
「ちょっと茜?」
「何よ?」
「また勝手なことして危ないじゃん」
「じゃ、ナツキが三年生にこっそり聞けるの?」
「う、それは厳しいけど」
「大丈夫よ。部活の先輩にそれとなく聞いたりとかするだけだから」
生徒と個人的に連絡を取り合ってるのは確かに怪しい。
宗藤は茜を信じ、任せることにした。
「ちなみに、性犯罪って何したんですか?」
それが分かれば、調べ方も変わる。
「神崎君すまんな、詳細はまだ教えられない。被害者がいるからな……」
「あ、ごめんなさい、そうですよね」
「それはずるいんじゃないですか?」
茜が食ってかかる。
「だってナツキが変態に襲われたらどうするんですか?」
「ちょっと僕は男だよ?」
「男だって注意しないとだめよ。特にナツキは女の子の日だってあるんだから」
「茜怒ってる?」
「怒ってないよ、刹那ちゃん」
ナツキのベッドでくつろいでる刹那が顔を上げて聞く。
宗藤がナツキの家に行くと聞き、刹那自ら一緒に行くと言ったのだ。
「すまない、まだ言えないというか、特定できてないんだ」
どこまで関与しているかが分からない。
茜はひとまず理解したようだ。
宗藤は内心安堵していた。
ナツキには茜というかけがえのない人物がいることに。
「他には体育の関原も怪しいわね」
「でた、それどうせ頭が薄いから言ってるんじゃないの?」
「別にそういうわけじゃないわよ。何?ナツキは私がハゲかどうかで判断してるっていうの?」
「別にそういうわけじゃないけど、薄い人に褒めたことないじゃん」
「関原先生は体育担当だからか?」
「そうなんですよ。前にセクハラ疑惑で飛ばされたとか聞いたことあります」
「えーでも噂でしょ?」
「ナツキは体育しないから知らないだけよ。あいつの女子の見る目はキモイんだから」
「僕もいろいろ調べたんですげど、うちの学校で起きた問題なら、三十年前に生徒が修学旅行中に事故でなくなったのと、十年前に生徒が行方不明になったくらいしか、大きなのはないみたいです」
ナツキは図書室で過去の資料を調べていた。
「十年前か……」
宗藤も死亡事故は調べて知っている情報だが行方不明は知らなかった。
恐らく全国的なニュースではないためだろう。
「詳しいことはあんまり書いてなかったんですけど、生徒が一ヶ月くらい行方不明になったとか。で、誘拐だ家出だで議論になっていて、一ヶ月後にその生徒は元気に戻ってきたそうです」
「お騒がせなプチ家出か?」
「そこまでは載ってなかったです。無事見つかっただけで後はさっぱり」
「そうか。ありがとう。神崎君はこの人物か誰かを調べてえもらえないか?」
「分かりました。図書館に行って調べてみますね」
「さ、勉強でも始めるか」
「えー?せっかくナツキの家来たのに」
「茜かわいそー」
「こら、刹那。学生の本分は勉強なんだからな」
ナツキがなんとか茜を説得し、勉強会が開催された。
「これ状況によっては犯人死亡も許されますかね?」
「そんなことは断じて認め……いや、それは許可できない」
榊原は一呼吸置き却下した。
総監室には珍しく客人が来ていた。
客人の男の名は枯草京。要請した千導院の『異能者』だ。
探索に優れた異能なので、今回派遣された。
『異能者』逮捕は最悪死人が出る場合がある。事件によっては容疑者死亡でも致し方ない場合もある。
しかし、今回は生きたまま、司法で裁かなくてはならない。
「容疑者、複数の可能性もあるが、生きたまま逮捕し社会的にもきっちりと罰を受けてもらわねば市民は安心できない」
「確かにそちらの警察官も負傷したそうで。……犯人が自暴自棄になって自殺した場合のみ積極的介入はしないのでご了承ください」
「あぁ。そこら辺はいつも通りに。任せたぞ」
「はいはい。こっちとしては貰えるもんきちんと貰えればそれで」
京は最新の事件現場に向かった。
警察官に端末を提示し、協力を求める。
「えー話は聞いてると思うんやけど、僕は千導院の者です。これから、犯人特定のために異能を使います。悪いやけど、皆外出て待っててくれます?」
上層部の決定だ。末端の警察官は従うしたかない。それに変に巻き込まれるのも嫌なので、素直に店を出て待機する。
「ここが爆発が激しい場所やね」
京は懐から小さい折り畳みナイフを取り出す。
『後ろの正面だあれ?』
京は自分の手を切り、血を垂らす。
流れ出る血は、京の足元、影に落ちる。
血は床を汚すことなく京の影に吸い込まれる。
「爆発物はどれや?」
影に質問すると、影は動き出し人の形からまるで矢印の形になり、ある一点を指す。
「……電池かい。またやっかいな異能のようで」
京は溜息をもらす。電池は小さい、かつどこにでもある。これが全て爆発物になる危険性がある。むしろ、被害が少ないことに違和感を抱くほどだ。
「しゃーないな。早せんと、まずいもんな」
京は手首を切る。先ほどより多量の血が影に飲み込まれる。
「電池を爆発させた『異能者』はどこや」
影の向きを確認する。
京は外で待ってる警察にもう用が済んだと最低限告げ、その場を立ち去る。
警察から支給された専用の端末から榊原に連絡を取る。
「総監さん?相手さんの異能がわかったので伝えます」
歩きながら、電池であることを告げる。
これから犯人を捜すと告げ電話を切る。