第6話「デート?」
「悪い遅くなったな」
「大丈夫ですけど何かあったんですか?」
「いや、忘れ物して取りに戻っただけだ。それより、ご飯は食べたか?」
まずは腹ごしらえをすることにした。
警察には通報がありばたばたしていた。
『異能者』の事件だからだ。
「総監、『異能者』が三人ほど逮捕されました。傷害で」
「被害者の状態は?」
「無傷じゃないんですか?」
無傷ということは『異能者』同士。片方がいないということは認可組織の『異能者』だろう。
「……どこ所属だ?」
「紅い家だそうです。あーこの人ですか。いつもの人ですね」
「紅い家……」
榊原は報告書のデータを見る。
紅い家から送られてくる報告書にしょっちゅう記載されている名前だ。
「こいつか」
「気に食わないんですか?」
「いいや、犯罪などに走らず善行を行い警察に協力している『異能者』にどうこうはない」
「そうですか、あ総監今日デートしましょう」
「断る」
「何でですか!日ごろのねぎらいを込めて部下に優しさをですね」
「それなら礼儀知らずの部下をきっちり教育しないとな」
「それは嫌ですーこれ見てください。新しくできたお店なんです行きましょうよ」
端末の画面を見せる。地図には記しや書き込みが細々とされていた。
「どうです?確率でいうと三分の一程度ですけど行ってみる価値はありませんか」
「ったく。しょうがないな。あくまでこれは仕事でだ」
「はいはい、てことは経費で落ちますね」
副総監のテンションが上がる。
「職権乱用か」
「何か言いました?」
「何も」
宗藤の紹介でナツキは新しく開店したお店にやってきた。
「知り合いに偵察に行けって言われてな」
「知り合いから?」
「ああ。刹那の弁当を作ってるやつでな。普段やってもらってるから断れなくてな。でも、俺一人で行くにはちょっと勇気が必要でな。神崎君が一緒だと助かる」
ナツキとしては奢りとのことなのでどこでもよい。
「お洒落なカフェですね」
「だな。やっぱ頼んで正解だった」
見る限り客層に中年男性一人はいない。
「遠慮せず頼んでくれ。育ち盛りなんだからな」
「ありがとうございます」
宗藤は知らなかった。そして後悔する。
「……体は女性だが、胃は男のままか?理解はできるがとてつもないな……」
ナツキが胃の中に入った量にだ。
ナツキは見た目からは想像ができないほどの大食漢だ。最低でも二人前は食べる。
「でもこれでも腹八分目ですよ?」
「いつもこれくらいは食べるのか?」
「そうですね。最低一食はがっつり食べないともたないですね」
「意外だ。こんな細いのにな。あ、両方を見ての総意な」
「いつも茜に文句言われます」
その量を食べるくせに太らないからと茜には文句を言われる。
「ははは、年頃の女の子には死活問題だもんな。成長期なんだから数キロなんて誤差に近いのにな」
「茜も別に太ってないしょっちゅういってます。部活で運動してるのに」
「まぁ、男の俺には一生理解できない題材だろうな」
ナツキが食べるのを止めたことにより、カフェの厨房は一時の安寧が訪れた。
開店したてで、忙しいことは分かっていたが今日は食事の注文が尋常じゃない。
見た目に反して食べる女性客のせいで戦場になっていた。
「警戒してる中、しかも制服の警官が入口や店内を巡回している中でやると思うか?」
「さぁ?私は犯人ではないからわかりませんが、もし『異能者』だったら気にしないんじゃないですか?」
爆発物を所持していれば持ち物検査で一発で分かる。なので警察を避けるのは自然の動きだ。
しかし、異能ならば手ぶらで問題ない。手ぶらの人間なら警察も気づきようがない。
「設置や条件を満たすと発動するタイプか」
副総監の考察を聞き、この条件で改めて犯人像を推察する。
「家電量販店ばかりで事件が発生している理由は恐らく家電のどれかを爆発させるなど、爆発させる物の対象が限定されているから。だったら納得できます。けれど、犯行の動機はさっぱりですけどね。あ、このチキン美味いですよ?」
「仮に事件が発生したら『異能者』かどうかはっきりするな」
「起きたらですけどね。あくまで予想で起きないのが一番ですけどね。こっちのスープも野菜がしっかり味ついてて美味しいですよ」
「わかった。少し黙って食ってろ」
「はーい」
ナツキがデザートを堪能している時、カフェから見える家電量販店に客が来店した。
警察はもちろん店員もクレームにならない程度には警戒している。
長時間商品を触っているような客、大型家電付近は特に注意をする。
「すみません、この電池とこの電池同じメーカーなんですけど、何で値段違うんです?」
男性客が店員に話しかける。
電池の違いを説明する。客は納得し片方を棚に戻す。
「歯ブラシの付け替えってどこですかね?」
男性客は端末を見せる。歯ブラシの画像が載っていた。
「あ、それはあちらですね」
客を案内する。
今の所問題はない。
「ごちそうさまでした」
ナツキがデザートを完食したので店を出て駐車場に歩いていた。
「見てるほうが気持ちよくなる食べっぷりだったよ。毎回だと財布が空になるけどな」
「す、すいません」
「いや、健康な証拠だ。若いうちはそれくらいでいいのさ」
『バン!』
何か大きな音がした。
ナツキは何か大きな音だとの認識しかなかったが、宗藤はそれが爆発音であることに気づいた。
そしてすぐ、サイレンの音などが聞こえ始めた。
「混乱で渋滞とかに巻き込まれる前に急ごう」
「え、あはい」
宗藤一人なら特に問題はないが、未成年の学生がいるのだ。現場から離れるのが最善手だ。
「天から美少女が降ってきたので一緒に暮らす」を公開しました。
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