第27話「虚空」
保健室に戻るとすぐさまノックが聞こえた。
「私は異能認可組織の『紅い家』の医師の柊だ。正式な医師免許を持っている」
保健室には柊がやってきた。
「ふむ、お騒がせしてすまないね」
柊は茜に頭を軽く下げる。
「ナツキをお願いします」
「知り合いかね?」
「はい、茜は僕の幼馴染でいろいろ知ってます」
「ふむ。ならいいか。えっと茜君?今から見聞きすることは神崎君のことと同様に秘密で頼む」
「もちろんです」
柊は眼鏡を外す。
「ええ!?」
茜は驚愕の声を上げる。
初見なら当然の反応だ。
柊の髪の毛がナツキの腕に絡みつく。
「……身体的な不調はなさそうだな。これから、いくつか質問するので答えくれ」
「分かりました」
「君は異能により自身の意思に反する行動を取った」
「はい」
「途中で異能が無効になり、自由になった」
「はい」
「何か心当たりはあるかい?まぁ、異能の効果が切れた可能性もあるが」
ナツキは一つだけある可能性を思い浮かべた。
「僕、校長と話してた時最初男だったんでけど、いつか覚えてはないんですけど途中で女になってたみたいで」
「なるほど、それは可能性がありそうだ」
そこで柊の髪の毛が離れる。
「これから容疑者を調べるので詳細は把握できると思われる。現状神崎君は異能の影響下にはないだろう」
「よかったー」
「ひーらぎご苦労」
「ふ、では失礼する。ひとまず君たちは大人が来るまでここで待機していてくれ」
「分かりました」
柊は保健室を後にし校長室に向かう。
「でも校長が犯人だったなんてね。しかも『異能者』だなんて。ナツキなんで知ってたのよ」
「知ってたわけじゃないよ。犯人は分からなかったけど、異能を悪用してるのは分かったからさ。校長が異能使ったから犯人だって分かっただけだよ」
ナツキも今になって思えば、校長が犯人であると推測できたはずと後悔はした。
推薦に関与できる教師などごくわずかだからだ。
「そういえば、毛熊がさ。先輩と付き合ってたのよ」
「ん?え?本当に?」
「びっくりしちゃうわよね。たぶんキスしてた」
「うへー。やめてよ」
ナツキは想像してしまった。
「ごめん、ごめん」
「茜はしないの?」
「はい?」
刹那の意外な投石に茜は飛び跳ねる。
「わ、私は別に相手もいないしね」
刹那は茜の近づき耳元でささやく。
「な、な、何を言ってるのかな?刹那ちゃんは」
「何騒いでるの茜?」
ナツキには刹那の声が聞こえなかったので首をかしげる。
「な、なんでもないわよ」
ナツキは茜と刹那が仲良くなって良かったと内心で喜んだ。
「宗藤どういうことだ?」
柊が校長室に入ると、宗藤は校長の猿轡を外した。
柊は異能を使うが、校長からまとな人間の反応がない。
それぞれのプロが二人もいるのだ。
演技かそうでないか見分けることなど容易だ。
さらに柊の異能を使っているのだ。間違いはほぼない
「何故精神障害になっているのだ」
「分からねー。異能の後遺症の可能性は?」
「さすがに再現しないと判断しかねる。今分かるのは身体的ダメージを負っているわけではないということだ」
「まぁ、権力や地位全て失うわけだからな。喪失感からありえるかもしれんが……」
校長は二人の問いかけに一切答えない。目も虚ろで意思を感じない。
これは演技ではないという判断になった。
「まぁ、お前の依頼は一応果たせたわけだろ?」
「ああ。一番は容疑者の特定だからな。それに現行犯だ、法的にきちんと裁かれる」
「なら気に病む必要はないだろう」
「でもなー。これのまま裁判になったらどうなることやら」
「ふ、物好きめ。理解できるがもう少し身近なところ忘れるなよ」
「ああ。分かってる。分かってるさ」
「ふむ、通報したのか?」
「まだだ。お前の判断出た後してくれって所長から指示が来たからな」
「そうか。ならお前は保健室に戻って子供たちを家に送り届けるんだな、責任を持って」
「いいのか?」
さすがにこの状況なら事情聴取は免れない。
「ああ。説得力なら私の方があるだろうな現場では」
「恩にきる」
ナツキ達は今日のことは判断が出るまでは口外しないよいうに頼まれた。
そして、ナツキは落ちつき、一か月程度したら念ため柊の再検診を受ける。
また、それまでに異変があれば即診断。紅い家でも、一般病院でも費用は全て紅い家が持つなど、説明を受け家に帰った。
そして、ナツキは寝るまで茜と通話していた。




