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僕と私が交わる果てに  作者: 紅羽夜


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第26話「触らないで」

「ささ、神崎君私と一緒に来てくれ」


 ナツキは驚愕した。意思に反して体が勝手に動くのだ。


「ああそうだ。このことは誰も言ってはいけないからね」


『終末宣誓』

 相手に触れ、約束事を強制的に遵守させる異能。

 約束なので、自身も遵守しなくてはならない。

 ナツキの視界は歪む。


「うっ」


 ナツキはふらつく。


「大丈夫かね?」


 よろけるナツキを校長は支える。


「触らないでください。朽平さんにも異能で無理やり操ったんですか?」

「何だと!」


 その名前は忘れることはできない。

 彼は異能とは無関係の人生を歩んできた。

 異能が目覚めたのは十年前だ。

 相手は当時生徒であった朽平。

 明らかにおかしい事実に、自身が『異能者』になったんだと理解した。

 推薦の代わりに、肉体関係を求めた。

 この一件から彼は異能は二度と使わないと決めた。

 懸命な覚悟はすぐに瓦解することになった。

 素行不良を嗅ぎ付けた犯罪組織が彼に接触した。

 そして、なし崩しに異能のこともバレた。

 彼が担っていた役目は生徒の斡旋と口止め。

 斡旋した生徒は違法アダルト映像に出演したりした。

 他には犯罪行為に加担させらりした。

 彼も詳細は知らされてないが。

 この組織だが、最近大量の逮捕者が出て、混乱していた。

 断れば最悪殺される。生命は無事だとしても、今までの行為がバレれたら身の破滅だ。

 珍しい『異能者』の生徒を商品にする。少々強引だが従うしかなかった。


「何故君がその名前を。もういい、早く来なさい」

「嫌です」

「な、なぜ……」


 何故自分に逆らうことができるのか。

 ナツキの異能は把握している。彼の異能を防ぐことなどできない。

 なのになぜ自分に反抗できるのか。

 想定外の展開に焦る。

 そして、さらなる状況変化に思考速度が奪われる。


「神崎君いるか?」


 誰かがドアを叩いたのだ。


「宗藤さん、校長が犯人です!」


 ドアは鍵がかかており開けられない。

 宗藤はドアを破壊するために距離を取る。


「刹那?」


 保健室にいたはずの刹那がやってきた。


「私がやってみる」


『影袖の息吹』

 刹那は影でドアの破壊を試みる。


「……」 


 しかし、影は出てこなかった。


「まぁ、気にするな刹那。訓練したら使いこなせるようになるだろう。でも良いアイデアだ。触るぞ」


 宗藤は刹那の頭を触る。

 影が宗藤を襲う。

 影は向きを変えドアを破壊し、実体をなくす。


「現行犯だな」

「な、何を言ってるんですか宗藤先生。それに、ドアを破壊するとは、一体何事ですか」

「それは一番あんたがご存じじゃないんですか?」


 校長は抵抗する間もなく宗藤の手により拘束された。

 犯人確保も大事だが、ナツキの身体の方が重要なのでひとまず校長は椅子に座らせる。


「神崎君、大丈夫か?今柊を呼んだからそれまでの辛抱だ」

「はい、最初は校長の言うことに従ってたんですけど、途中で平気になって」

「そうか。ひとまず大丈夫そうだな」

「ナツキ!」


 茜がナツキに飛び掛かる。


「痛い、痛い茜」

 不謹慎だが、茜に抱き着かれ、また体女性になっていることに気づいた。


「心配したんだから。バカ」

「ごめんね。でも大丈夫だから」

「もう」

「?」


 宗藤はナツキに集中しており、後ろを向いていたので気づかなかった。


「……!」


 校長は目をはちきれんばかりに開いた。

 机の上に置いてあった端末がメッセージを受信した。

 当然校長は拘束されおり自由に体を動かすことはできないので操作などできない。

 が、メッセージは自動で開封され添付されていた動画が再生される。音声はない。


「!!!」


 それは彼自身も映像で見たことのある背景。場所は知らないが知っている撮影場所だ。

 そして、目隠しされた女性が映像に現れた。

 その女性もよく知っている人物だった。この世で一番自分がその女性を知っている自信がある。

 なにせ、自身の娘なのだから。

 女性が椅子に座らされるところまで動画は終わりのようだった。

 何故何故何故何故。

 結末を知っているからこそ自身の娘の身に何が起きるのか想像できる。

 絶望に脳が焼かれる。

 心が粉々に崩れ落ちる。

 校長は天井を眺める。


「俺はここで見張ってるからすまないが、神崎君を保健室に連れてってくれるかい?」

「わかりました」


 保健室に向かう三人を見て、両手に華だなと思うものの、すんでのところで口を閉ざす。


「二人とも、そんなくっつかなくても大丈夫よ」


 茜と刹那はナツキを守るようにぴったりくっつている。

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