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僕と私が交わる果てに  作者: 紅羽夜


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第21話「白剣」

 和やかな女子会が開かれている最中、警察は再び騒動が起きていた。


「総監、家電量販店連続爆発の容疑者確保だそうです」

「なんだと!」

「あらら?千導院が確保したようですが、最初は紅い家のメンバーがきっかけからの確保だそうです」

「紅い家か……」

「はい。これです」


 沢田は榊原に端末を渡す。


「な」


 報告書をなめるようににらめつける。


「まさか総監が幼女趣味とは存じ上げませんでした」

「死にたいようだな?」

「な訳ないじゃないですかー。でも普段そんな顔しないじゃないですか」

「……」 



 榊原は黙っている方が後々面倒だと判断した。


「この『異能者』白剣はくぎ刹那に覚えはあるか?」

「……いえ、初耳ですね」

「だろうな。だったら白剣正吉はくぎ まさよしこの名は?」

「……聞いたことないですね。有名人ですか?」


 沢田は首を傾げる。


「白剣正吉は白剣刹那の父親だ。そして、白剣正吉は元警察の人間だ」

「なるほど」


 沢田は得心が行った。


「知り合いの娘さんだから気にかけていると」

「贔屓するつもりはないがな。白剣正吉は事故死した。それの影響で彼女は異能を発現させたそうだ」

「上司だったんですか?」

「いや俺は剣道の指導をしてもらった」

「ああ、そっちですか。でも事件が公表されてないのはどうしてです?」

「事件ではない事故だ」


 白剣家の事故は榊原、警察にとっても苦い記憶だ。


「白剣家は由緒正しい家柄だった」


 榊原は続ける。


「白剣家の歴史を遡ると僧だったらしい」 

「待ってください?それってもしかして数百年前の話ですか?」

「そうだ、軽く千年以上前になるな」

「千導院みたいですね」

「ああ。僧が武装するように剣に変わり受け継いできたらしい。時代が変わり日本刀などから木刀や竹刀に、殺すための剣術から剣道になった。そっちの業界では古参として有名だそうだ」

「ずぶずぶじゃないですか」


 事故が報道されない理由に十二分になる。


「否定はせん。話を戻すが俺が行く」


 件の容疑者の取り調べにだ。


「総監自らは少々派手なのでは?」


 総監はそもそも気軽に現場に赴く地位ではない。


「必要だ。というか俺以外がする意味がない」 

「確かに犯人の動機次第で有効なんでしょうけど、……本当にあなたはそれでいいんですね?」


 榊原が政府に働きかけてきた『異能者』への罰則規定の法案が恐らく通るだろう。

 これにより、異能犯罪の捜査がもっと早い段階から行える。被害拡大を抑えることもできる。

 その反面、『異能者』がさらに迫害される恐れもある。


「あぁ。今更聞くのか?何度でも言おう。このために今までずっとやってきた。政治家ではなく警察に入り、総監にまでなった。ようやくこれで実現に一歩近づくんだ。是が非でもやるぞ」


 榊原はそう宣告した。


「好きな部署を言えばそこに送ってやる。多少無茶でもお前なら可能だろう」


 無理に榊原に付き従う必要はない。


「いいえ。私が警察を去る時は……お互いここにはもういない時ですから」

「……そうか。だったら聞かなくても分るだろ?お前ならな」


 護送されるとすぐに即刻取調べが始まった。

 現場も緊張していた。


「この取り調べは全て録画、録音される。あなたには黙秘権がある。では取り調べを行う」


 これは裁判以上に、法案可決のための重要な材料になる。

 榊原も沢田相手とは異なり別人のような言葉使いだった。


「では、あなたは寺憲一。三十七歳、職業は……」

「無職だよ悪いか!」

「悪くはないな。仕事なんぞ大半が生活費を稼ぐために行ってる人種が大半だろう。金さえ困らなければ働かない選択をする人間の方が多いと思う。私は職種や経歴だけで人間を判断はしない。しかし、今回あなたの行為は完全にアウトだ。この意味はわかるな?」

「……」

「異能の発現時期はいつだ?」

「……」

「刑事ドラマの見すぎか?確かにあなたには黙秘権があるが今回は現行犯だ。あなたの顔と事件の起きた店や周囲の防犯カメラを調べればまずあなたが映っているだろう。即検察に送れるレベルの証拠が揃っている」

「……」


 頑なに無言を貫く。


「素直に話したほうが身のためだ。最悪専用の監獄行きだぞ?」


 『異能者』専用の施設だ。

 普通の施設なら異能を使えば脱獄は容易いだめだ。

 榊原の威圧に負け素直に喋りだす。


「つまり、ストレス発散であなたはやったんだね?」

「はい」

「確かに最初爆発は意図しないところでの発現で仕方ないかもしれない。が、その後犯行を重ねたことは事実で、重罪だ」


 うなだれ沈黙する。


「あなたはストレス発散という極めて個人的、身勝手な理由で多くの人が傷つけた。それだけは忘れてはならない」


 自供したため、榊原の役目は終わり退室した。


「なんだ?」


 沢田が榊原を茶化すような目で見ていた。


「言葉使いはお上品にしてても威圧で自白させるとはさすが鬼総監」

「思想や目的なんてない。動機も稚拙かつ悪質。確実に法案通せる材料になる、感謝しなくてはな」

「総監知ってます?法案賛成派の政治家の複数名が個別で『異能者』組織とコンタクトをとっているらしいですよ」

「夜道の背後は気をつけないといけないからな」


 都合のいい話だ。

 『異能者』の報復を恐れるものの、同じ『異能者』を護衛として雇おうというのだから。

「総監もいい機会ですし、護衛つけたらどうです?」

「いらん。ただの盾役など不要だ」

「そうですか。そういえば、総監個人宛に手紙がという古めかしいもの預かってますが、見ます?」

「手紙だと?」

「差出人はローマ字一文字だけです」

「渡せ」

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