第20話「走馬灯」
男は口を閉ざしまたままだ。男は己の人生を走馬灯のように思いだしていた。
寺内憲一。今年で三十七歳。現在無職。
彼は小学生の頃、学校の授業で作ったモーターカーにすごい興味を持ち、そういった専門の道に進もうと決意した。
幸い学力的に問題はなく大学を無事卒業し大手の企業に入社した。
そこから順風満帆な人生を送れると信じていた。
戦後後、衰退、後に停滞していた電子系産業だが彼が就職する頃には回復傾向であった。
技術職は重宝される時代である。かなりの高待遇で入社した。
そして、数年後バイオテクノロジーから生み出す電力の商品化に成功した。
ゴミや老廃物などから電力を生み出すというものだ。
この技術というのは昔から存在はしていた。
しかし、電力供給やコストを考えると実用的ではなく、科学者の実験程度だった。
彼はそれを電池のエネルギーとして使えばと試行した。
そして、商品化に成功した。
「お前は社の宝だ。数年後、俺と同じ席にいるかもな」
と会社の上層部からいたく褒められた。
それがたった数年で、そう今からほんの数ヶ月前事態は大きく変わった。
「君は今日でクビだ」
「何故ですか!」
当然である。
しかも、クビなので退職金やそういったものも全て出ない。
「君の開発した電池だが、他国で流用されているようだ」
それは会社の極秘機密である。つまり、自身に身に覚えはないが流出したことは事実なので責任を負わされたということだ。
会社もあくまで、体裁を保つための処分なので法的責任は黙認した。
つまり、素直にクビを受け入れればいい。
しかし、反抗するなら法的に責任を追及すると脅したのだ。大企業に勝つのには難しいしそれなりの金額だって必要だ。
泣く泣く、クビを受け入れた。
そしてこの時に初めて異能が発現した。
工場で触った電池が爆発したのだ。
「これはまさか……」
幼いころから触れ培った知識がある。
彼はこの異能を復讐という自暴自棄に使い始めた。
最初は露呈しないか怯えていた。
二回、三回と重ね一向に疑われる気配もしないので大胆に、爆発も大規模になっていった。
「なるほど、分かりました。身柄は渡します」
梅姉は男を開放する。満が逃げれないように腕を掴む。
「ほら、観念しいや。事情は何にせよ。あんたは罪を犯したんや。大人しく裁かれる番やで」
京はお辞儀をする。
「協力ありがとうございました」
「ナツキ、ひとまず戻ろうか。警察が来たら面倒だからね」
茜を置き去りにしていたことを思い出した。
「そういえば、刹那ちゃんの異能で電池をたくさん壊したんですけど弁償ですか?」
「いんや、あれは爆発テロの被害なんだ。気にすることはないさ」
梅姉が警察等説明したため、ナツキ達三人は解放された。
元の目的は買い物だったので茜の家に戻ってきた。
「ごめんね、アカネ。驚かして」
「うん、大丈夫。てか、すごいじゃない」
「……え?」
「みんなのことを守ってくれたすごい異能だよ」
「……茜は怖くないの?」
「うん。びっくりはしたけど怖くはないかな」
「そっか……」
「でも、ナツキはひどいよねー」
「へ?」
「だって私を置いてくんだもん」
「あれは説明したじゃん」
「警察に私が何かしたって疑われたんだから」
「それはごめんて」
この日は刹那にとってかけがえのない日になった。
ナツキは刹那を怖がらない。しかし、あくまでナツキは『異能者』なのだ。
けれど、茜は『異能者』ではない。ただの一般人だ。
その茜が怖くない、すごいと嘘偽りなく言ったのだ。
それは刹那にとって初めのことだから。




