第11話「待ちぼうけ」
土曜日、約束の時間より少し早く待ち合わせの駅前についた。
とりあえずナツキはベンチに腰をおろす。
「ねえ君高校生?昼奢るから付き合ってくんね?」
恐らく大学生だろうか。
ナツキは時たま声をかけられることがある。
女性の体だと。
こういった類は無視するに限る。
「おい、無視はないんじゃないの?」
「ちょっといいか?」
「んだよ」
いきなり男性が横から入ってきた。
「な、つ、つめて何だお前」
「素直に消えな」
男性がナンパの腕を掴むと、何かが起きたのだろう。
すぐさまナンパは睨んで悪態をつくも退散していった。
「ありがとうございます」
「ううん、君だろ?神崎君っていうのは」
「……まさか郡山さんですか?」
「そう、改めて初めまして郡山です」
「初めまして神崎です」
「本当に女の子だね」
「一応男なんですけどね」
「郡山さんはどんな異能なんですか?」
「たいしたことないけど、ごめんねちょっと触るよ」
郡山はナツキの腕を掴む。
「冷たくなってきた……」
体温が冷たいではありえない冷たさになっていく。
「手の平で触れた物を凍らすって対して役にも立たないけどね」
「すごいですよ、夏困らないじゃないですか」
ナツキは暑いのは苦手なのでうらやましい。
「あんまり有効ではないかな。触れてからじゃないとだめとかいろいろあるし」
「なるほど」
「でも、自分の近くに『異能者』がいたなんて驚きだよ」
「それは僕もです」
ナツキは自身が知る限り、宗藤、刹那が初めて会った『異能者』だった。
「こんな暑い所で立ち話しはなんだ、俺の家近いからどうぞ。ご飯ご馳走するよ」
「ありがとうございます」
ナツキは家に招待された。
ナツキは家の中をきょきょろ見渡す。
初めて年上の男性の部屋に上がる。
それに憧れのある一人暮らし。
「汚くて悪いね。てきとうに座ってくれ」
「あ、はい」
郡山は手際よく料理を作り盛り付けてナツキに渡す。
「まぁ、いうて簡単なパスタなんだけどね」
「十分すごいですよ。いつか一人暮らししたいなーて思ってて」
「あぁ。男の一人暮らしなんてまず料理をしなくなるからね」
「そうなんですか?」
「買った方が早いし楽だからね。これだって安売りのアイスティーだしね」
「そうなんで……す……ね」
ナツキは口数が少なくなり、しまいには眠りについた。
「神崎君、おーい、神崎君起きて」
郡山はナツキを揺さぶる。しかし、ナツキは一向に起きる気配がない。
「よし、充分。にしてもこの薬は本当に効くの早いよな」
郡山は立ち上がり、ナツキを隣の部屋に運ぶ。
部屋は簡素で、大きなカメラが三脚で固定され立っていた。
郡山はカメラを起動させ音声を吹き込む
「はいはい。今日は史上初の『異能者』のkちゃんです。」
カメラを一旦切る。
「うわ!」
郡山がナツキの服を脱がそうと迫った瞬間ナツキの目蓋が開いた。
「痛た!」
弁明しようと焦る郡山目掛けて置いてあった目覚まし時計を投げつけた。
「何しやがる」
とっさに目覚まし時計を投げ返す。
「は?」
郡山は唐突な現象に硬直する。
確実に投げつけたはずだ。なのに、目覚まし時計はナツキに当たることはなかった。
そもそも、投げつけたはずの目覚まし時計の姿形が消えた。
変なとこに飛んだわけではない、唐突な消滅である。
「な、嘘だ、お前異能が、くそ」
郡山はナツキに飛び掛かり首を絞める。
そして、絞める手の平は冷たさを宿す。
窒息するのが先か。皮膚が凍結するのが先か。
「なんだ、お前、なんなんだよ」
郡山はナツキの顔を見てしまった。
苦痛でも恐怖でもない。ナツキは笑っていた。
ナツキはすっと腕を伸ばし、郡山の腕を掴む。
しかし、首を絞める力は一向に弱らまらない。
「へ?」
郡山は尻もちをついていた。
「え?腕?は?」
確かにナツキの首を絞めている。その腕を郡山も確認できる。
しかし、その腕は、腕だけしか見えないのだ。
「な、ど、どうして」
郡山は自分の手元を見る。
腕が途中から消失していた。
痛みもない。出血もない。だか、腕がないのだ。
否、腕はナツキの首元にある。腕がなぜか切断されていたのだ。
「ひ、ゆ、ゆるし……」
ナツキは立ち上がる。
これはきっと悪い夢なのだろう。
「……ナツキ!大丈夫あんた」
「あれ?……茜?」
ナツキは駅前のベンチに座って爆睡していたようだ。
「あんた待ち合わせしてたんじゃないの?」
「あれ?」
ベンチに腰をおろしてからの記憶がない。
「すっぽかされたの?前島さんにはきっちり説明してもらうから。お昼でも食べに行きましょう」
「そうだね」
近くのファストフード店に入る。
「ごめん、トイレ行ってくる」
女子トイレは二階にあるので、二階に向かう。
「へ?」
ナツキはトレイの直前で自分の体が男になっていることに気づいた。
ナツキは三階でトイレを済まし、席に戻る。
「あんた首んとこアザ?気をつけなさいよ」
「どれ?」
「これよ、これ」
茜は鞄から手鏡を取りだしナツキに首元を見せる。
「なんだろ。まぁ、痛くないし」
「そう。あ、そいえば知ってる?新しくパフェ専門店ができたんだって」
「うそ、どこ?」
夕方まで茜と遊び、帰宅した。




