ワクドキ!? 魔法少女のこれから!!
ぺこり、お辞儀をするスター。
「こころ、ありがとうスター。バクハーツをやっつけてくれて、そして魔法少女になってくれて」
「いいよいいよ。そんなにかしこまんなくて。わたし、一回嘘ついちゃってるし」
バクハーツを倒し終えた今、こころとスターは一息ついていた。
「あのさ、スター。聞きたいことあるんだけど」
「なにスター?」
「わたしって今から元の世界に戻るじゃん?」
「戻るスター」
「わたし、マジカルフィールドに来る前、あっちの世界でスターと話してたじゃん?」
「話してたスター」
「それって周りの人たちにも見えてたの?」
「見えてたスター」
真顔で見つめ合う。
「……ほんとに?」
「ほんとスター」
こころは首だけでガックリとうなだれる。
「…………ガチかぁ……入学初日なのに、妙ちきりんな生き物と会話してるやばいやつじゃん……」
「し、失礼スター。こころは一度、『失礼』と『配慮』を辞典で調べてみるべきスター。けど、その心配はご無用スター」
「えっ、なんで……?」
スターは腰に手を当て、胸を張って答える。
「なぜなら、魔法がなんとかしてくれるからスター」
「魔法で? わたしがおしゃべりぬいぐるみに話しかける哀れな人と思われない魔法があるの?」
「あるスター。魔法少女という存在につながる——妖精や怪物などは全て、特殊な魔法処理によって、関わった人々の記憶から少しずぅつ消えるか、置き換わるスター」
????
あごに手を添え、小首をかしげる。
「ん? どういうこと?」
「わかりやすく言うと、スターのことを見た人間は、スターのことを15分くらいで忘れちゃうんだスター」
「スターのことだけ忘れたら、わたし独り言がすごい人にならない?」
「そこはスターが別の人物に置き換わるか、そもそもしゃべってなかったことになると思うスター」
「バクハーツが暴れてたのも、おんなじ感じで無かったことになるの?」
「そうスター。バクハーツはきっと、いなかったことになるスター」
「えー、魔法って便利だね。なんにしろ良かったー。変な噂立つ心配がなくなって」
こころは両手を上に伸ばして、ヤッター! というポーズをとる。
「ただ、バクハーツが壊した地面のレンガとかは元に戻らないスター。魔法が変更するのは、あくまで人間の記憶だけスター」
「そうなんだ、都合がいいわけではないんだね。……あれ? でも、わたしはスターのことずっと覚えてるよ?」
「それは魔法少女になったからスター。魔法少女が魔法少女につながる存在を忘れたら怖いスター……」
たしかに わたしだってスターのこと忘れたくないし
「そろそろ戻るスター?」
「うん。だってもう、マジカルフィールドにいる理由はないでしょ?」
コクンと、スターはあごを引く。
「戻るには、「ペアリングガーリー」って言えば魔法が帰してくれるスター……ねぇここ」
「わかった。帰るときはガーリーね。って、ん? スター今なんか言いかけた?」
「い、いや、なにも言ってないスター。それよりも、早く帰っほうがいいスター。こころの友達がこころのこと探してるはずスター」
「あ、そうだった。ゆみたちと合流しないと。そういえば、なんであの三人一緒だったんだろうなぁ」
疑問に思いつつ、こころは宝石のようなモチーフを両手で握る。
「ペアリングガーリー!」
こころの体は、光の粒子に包まれた。
♪♪♪♪♪♪♪♪
狭い路地を抜け、第三体育館と連結してる渡り廊下へと向かう。スターとは、一緒にいると不審な目で見られるという理由から、路地内で別れた。
例の渡り廊下周辺には、人だかりができていた。原因不明の大陥没を一目見ようと、野次馬がたくさん集まってきたらしい。
こころはキョロキョロと首を動かして、そのなかにゆみ達の姿を探す。
すると、背後から声をかけられた。
「おーい、こころぉー、こっちこっちー」
こころが振り向くと、少し離れたところにある木陰にゆみとひさしくん、友山くんが立っていた。
腕を上にかかげて大きく振る三人のほうへ、こころは走って向かう。
「はぁ、はぁ、や、やっと合流できたぁ〜。ごめんねぇ、はぐれちゃって〜」
「いいよぉ、別に。あのあとすぐ自由見学時間になって、男2人と一緒にこころのこと探してたから」
ゆみは親指でひさしくんと友山くんを指す。
「こころが無事で良かったよ」
「う、うん。みんなこそ……」
こころは大陥没地を横目にそう言う。
みんなの記憶にはもうないんだろうけど間一髪だったんだから
後頭部で指を組んでヘッドレストのようにした友山くんが、のんきに話す。
「渡り廊下からこころを探してたらさ、急にレンガがベコッって凹んじゃって……俺めちゃくちゃびっくり。しかも2連続でさ。俺ちょうどその瞬間見ちゃって、うわすっげ、ってなったわ。幸い、誰も怪我しなかったから良かったけど」
「それで、危ないから離れようって下に来たら、こころを見つけた感じかな。いやぁ、それにしても」
言いさして、ゆみはジト目でニヤニヤし出した。
「陥没事件が起こったときに、運良くひさしくんがこころを見つけてくれてさ。遠くに移動しないでおいて良かったよ」
「え、あ、ひさしくん見てたの!??」
こころは赤面しつつ、尋ねるような目を向ける。
ニコッとはにかんで答えるひさしくん。
「うん。みんな大騒ぎしてたから、それにつられて来るかなって思って人混みを探してたんだ。そしたら、1人で走ってきてるのが見えてね」
「そうだったんだ……あ、ありがとう」
「どういたしまして。でも、そのあとすぐどっか行っちゃうから声かけれなくってさ」
「あ、それは……」
そっか スターがいない記憶だとそうなってるんだわたし
「……みんなが見当たらないから、別のとこに行っちゃった」
「渡り廊下までは見ないもんね。それじゃ、こころも合流したことだし、本格的に見て回る?」
「そうしたいけど、もうすぐで時間なんだよね。行けてもあと一箇所か二箇所かな」
「あれ? 自由時間の終わりって何時だっけ?」
そう言って、友山くんとひさしくんの男子組で会話が始まった。
その裏で、ゆみがヒソヒソ、こころに話しかける。
(こころはどこか行きたいところないの?)
(実を言うと、一個だけ……)
(なんだ、じゃあ言わないの? 自分から話しかけるチャンスじゃん)
(そうなんだけど、その……)
(あーはいはい。そういうことね。わたしに任せてよ)
目くばせをしたゆみは、友山くんのほうを向く。
「ねぇねぇ友山くん、ちょっとわたしに着いてきてくれない?」
「ん? どうして?」
「いいからいいから。聞きたいこととか、知りたいことがあるんだよ。友山くんにしか頼めないんだ」
「それは仕方ないな。わりぃ、ひさし、一旦離脱するわ」
頼られて満更でもなさそうな友山くんは、ホイホイ着いていく。ひさしくんのほうは困惑気味に応じる。
「お、おう。早めに戻ってこいよー、ゆみもな」
「いや、無理かな。残りの自由時間ずっと2人でいるつもりだから」
「え? ずっと?」
「ずっと、最後まで。だから、そっちも2人で見て回ってていいよ。それじゃあ」
スタコラサッサと、足早に去っていくゆみに手を引かれて、友山くんもその場を後にした。
2人っきりになって、こころは初めて自分から話を切り出した。
「あ、あのさ、あと一箇所、行くあてなんだけど」
「もしかして、行きたいところある?」
「うん。えっとね、迷子になってる時に偶然見つけた良いところがあってさ、それでその、ここから少し歩くんだけど、良いかな?」
「良いよ。どこに行くのかは、着いてからのお楽しみ?」
ウン、とあごを引いたこころの口元は、はにかんでいた。
「楽しみにしといてよ」
親友を真似してひさしくんの手をつかもうとしたけれど、そこまでの勇気は出なかった。
こころは、ひさしくんと並んで、恋シ浜が一望できる場所まで歩いた。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪
ハートマークが外壁にデザインされた建物の横にある路地に入り、抜けると——
「——すご……恋シ浜ってこんなに綺麗だったんだ……」
空、海、町。それらを前に、ひさしくんは感嘆の声を漏らす。
「なんと言えばいいのか、言葉がつまっちゃうなぁ。例えとして合ってるかわかんないけど、絵画を見てるような気分だ」
瞳をうるうる輝かせて、半笑いになるひさしくん。
その横顔もかっこいい
共有したい景色と気持ちを
一番共有したい人と共有できた
今なら願えばなんでも叶いそうだと思えるほど、幸せで胸がいっぱいだった。
こころはドッキンドッキン言う心臓をなでて、舌で唇を舐める。
「あのさ、ひさしくん」
ひさしくんが振り向く。
まっすぐ、尋ねる瞳で見つめられ、脳内が白紙になりかける。
こころは頬が赤いままで、一つ深呼吸を入れる。
「今度、どこか遊びに行かない?」
言えた……! 言っちゃった……!
反射的に、ぎゅっと目をつむる。
「良いね。どこに行く?」
パッ と、目を見開く。
「メンツは、今日の4人が良いかな? 意外と相性いいしさ」
「あ、う、うん。そうだね」
こころは複雑な心境で、首を縦にふる。
一進一退、こころの恋路はまだまだ続く。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
「えー、2人で行こうって言えなかったの? もったいなぁ」
こころとゆみは、2人だけの帰路に着いて、報告会をしていた。
「うぅ、手伝ってもらったのに面目ない」
「まぁ、でもさ、自分から話しかけて、さらに遊びの約束までしたってのは、かなり勇気出したね」
「うぅ、ゆみぃぃぃ、ありがとうぅぅ」
ひしと、ゆみを腕ごと抱きしめる。
「まぁまぁ。それで、結局、4人で遊ぶことなったの?」
「うん。初めてひさしくんと休みの日に……」
約束を思い出して、思わず口元がゆるんでしまうこころ。
すかさずゆみにツッコまれる。
「あ〜、今妄想したでしょ」
「も、妄想って、違うよ! 少し……想像しただけ……」
「おんなじじゃん」
「ちがわい!」
耳まで真っ赤にして訴える。
「説得力がなぁ〜」
「そんなこと言ったら、……」
こころは目の端に、木の陰からユラユラのぞくネギの上部分を見つけた。並木の一本ではなく、建物に接する四角い植え込みに一本だけ育った樹木、その裏にスターがいるようだった。
「ん? どうしたの?」
樹木のほうを見ようとしたゆみを遮るように、シュバッとこころは移動する。
「ううん、なんでもない! なんでもないけど、先に校門まで行っててくれない?」
「なんか用事できたの?」
ゆみはこころの目を見る。
「まぁ、そんなとこ。あはは……」
こころの苦笑いに対して、ゆみは理解をしめすように微笑を浮かべる。
「じゃあ、待ってるから。早く済ませてきてね」
ゆみが校門まで歩いて行ったのを確認して、こころは樹木や花などが植っている植え込みまで駆け足に寄っていく。
周囲をキョロキョロ、首を振って隅々まで確認する。誰もいないことを念入りに確かめてから、こころは、そっと声をかける。
「ね、スター」
しっぽの毛が、びっくりしてトゲトゲに逆立つ。
(バレちゃうスターよ?)
ひそひそ声が返ってきた。
「大丈夫だよ。今は周りに誰もいないから」
「なんだぁ、なら良いスター」
安心により、肩を下げたスターが出てきた。
「それで、どうしたの? またバクハーツが現れたの?」
「い、いや。そうじゃないスター……」
目を逸らして、後ろ暗いような表情をするスター。
言いにくいことでもあるのだろうかと、こころは思う。
「……それなら、言いそびれたことがあったとか?」
「それは無いスター……ただ…………ただ、こころは、これからも魔法少女を続けてくれるスター?」
ぱちくり こころは呆然とする。
「もし、スターといることとか魔法少女をやることが、嫌々だったとしたら、その、申し訳ないスター。迷惑をかけてたなら、スターは別の子を探すスター」
頭を下げて、思いを言葉にするスター。
こころは、あっけらかんと答えた。
「いや、やめるとか考えてないけど……?」
「え……でも、スターといるの嫌がってたスター。それに、魔法少女だってみんなにバレることがないと分かって安心してたスター」
「それはだって、魔法少女がいたら大騒ぎになるし、そもそも普通に考えて、頭のおかしい子だと思われたくないじゃん?」
「あたっ……!! そんなことないスター。むしろ誇らしいスター!!」
「そんなことあるよ! 妖精の国と人間の世界じゃ常識が違うの! とにかく、わたしは辞めるつもりないからね。そもそも魔法少女って辞めれるとは思ってなかったし」
「悪徳な詐欺契約じゃないからいつでも辞めれるスター。ちゃんとノーリスクで辞めれるスター。でも……そうスターか、続けてくれるなら良かったスター」
「当たり前でしょ。魔法少女なんて女の子の憧れだよ。辞めるわけないじゃん」
腰に手を当てて胸を張るこころ。
くるりと回って、スターはマントとマイクの姿に着替える。
ふよふよ こころの目線まで浮いてきて。
「こころ、これからもよろしくスター!!」
「うん、こちらこそ。よろしくね、スター!!」
こころは、ワクワクとした笑顔で応える。
恋する魔法少女の日常が、今日から始まった————
始まりましたが、お話は終わりです。
お付き合いくださりありがとうございました。
各話のあとがきでキャラの設定とか挟みたかったんですけど、そんなものは作ってなかったです(??)。無いものは載せれないので、せめてあるものを一番最後に置いておきます。マジカルフィールドから帰ってきた時の、路地内でのシーンです。
それでは、ここまでお読みありがとうございました。
何かしらあれば何かしらお願いいたします。
(♪♪♪♪♪♪♪♪)
人目につかない、狭い路地で起きたこころは、とりあえず自らの頬をつねってみる。
「うーん、やっぱり痛くないな」
「ゆ、夢だと思われてたスター!?」
ガーンッ という驚き顔で隣にちょこんと立っているスター。今のスターには、マントもマイクも付いていなかった。
「あれ? スターってずっとあの状態なんじゃないの?」
「違うスター。あれはラブパワーが充分あるときだけで、今はラブパワー切れを起こしてるから不可能なんだスター。ちなみに、魔法少女が変身したときのみラブパワーが同期されて、無条件でスターも変身できるスター」
「スターのあれも変身なんだ」
狭い路地を抜けようとして、こころは足を引っ込める。
「あ、あのさ、スターのことをみんな15分で忘れるって言ってたけど、その15分間は周りの人も普通にスターのこと見えてるの?」
「普通に見えてるスター。こころとのおしゃべりも丸見えで筒抜けスター」
「うっ……じゃあ、改めて再発見されたらどうなるの? 忘れたままいない存在として扱われる? それともまた15分かけて忘れ直すの?」
「15分かけて忘れ直すスター」
「てことは、ほんとうに記憶に残らないんだね」
うーんと頭を悩ませて、それからこころはアイディアが湧いてきたように手を打つ。
「よしっ。スターにはぬいぐるみになってもらおう」
!? びっくりして固まるスター。
「ス、スターはもっと生きたいスター!」
「違うよ! ぬいぐるみのフリをして、鞄とかに入っててもらうの。アニメだとよくあるでしょ?」
「そ、そんな窮屈な思いしたくないスター! 別に常時一緒にいる必要はないスターから、とっとと友達に会ってくるスター!!」
「あ、そうなの? じゃあ、行ってくるよ。バイバイ、スター」
「あ……バイバイスター」
こころは軽く手を振り、スターは小さく手を振った。