三夜・深
読書の皆様にこの作品を楽しんでもらえますように...。
「わ〜...結構霊おるなぁ。」
「うん、まあ山代さんがいるからそんなに問題はないと思うけど。」
僕達は、今日は近くのダムに来ている。ダムはまったく来ていなかったし、もしかしたら何か手がかりが見つかるかもしれない。
「うわっ、何これ。」
音羽さんが見ている方を向くと、そこにはネズミの死体が転がっていた。暗いからよく分からなかったけど、辺り一面にネズミの死体が転がっている。
僕は違和感を感じた。このネズミの死体からは、何か霊的なものを感じるような気がしたからだ。
「これは呪い殺されてるな。そんなに強力な霊の気配もせんし、不気味やな。」
「うん、油断はしない方がいいね。」
やっぱり専門家は違うな。冷戦に分析し、霊の危険度をはかる。この二人と来て正解だった。
「護留、何か気付かないか?」
「何かって、僕が気づけると思うのか?」
「そりゃそうやな。音羽さん、ここにおる霊はアカン奴や。さっさと逃げるで。」
「うん、そうし...。」
音羽さんが僕達の方を振り返って固まる。音羽さんの目線は、僕達の後ろの方を向いていた。
「...っ!二人とも走って!!」
音羽さんが僕と直途の手を掴んで走り出す。その瞬間、後ろから強力な霊の気配がした。その気配はどんどん強まっていき、周りの霊の気配が全て消えた。
「音羽さん!?後ろに何が...!」
「護留、振り返るな!」
僕が振り返ると、そこには象のように巨大な黒い犬がいた。この前会ったあの霊よりも、格段にヤバい奴だ。
「あの霊はおそらくさっきまで大量にいた霊の集合体!例えるならグンタイアリだよ!」
「もっと可愛らしい例えが良かったな...。」
しばらく走っていると、ダムの端が見えてきた。おそらく、このダムから出ればこの霊からは逃げ切れる。あと少し、もうちょっと走れば...!
「あっ...!」
その瞬間、音羽さんが転けた。あの犬はすぐそこまで迫っている。二人の反応からしても、あの犬は人を容易に殺せるような存在だ。
僕は頭をフル回転させる。助けに行って、僕が生き残る保証はあるのか?もし、音羽さんを助けれずに僕も無駄死にしたら?そうなれば、あの子に...。
「二人とも、逃げて。」
音羽さんの言葉を聞いた瞬間、僕の頭の中にあの日の記憶の断片が浮かび上がった。あの山の神社で、あの子が暗闇に引き込まれていく。その時、あの子は僕に言った。「逃げて。」と。
そして、気づけば僕は、あの犬の前に立っていた。
「ガオォォォオオオ!!!!」
「護留!逃げろぉ!!」
あの犬が僕に襲いかかる。僕を狙っている隙に、音羽さんは逃げれるだろう。だけど、おそらく僕は死ぬ。心残りしか、無いんだけどな。
『オマエノモノジャナイ。』
どこからが声がして、あの犬が止まった。そして、僕の背後にあるあの山から無数の手が伸びてきて、あの犬を掴む。ミシミシと、グチャグチャと音を立てて、無数の手があの犬を潰す。やがて犬は跡形もなく消え、無数の手は消える。
あれは、何だ。
「...なぁ、二人とも。あれは、何なんだ?」
ダムから離れ、今はあの山を歩いている。あの犬を潰したあの手は、僕からすれば霊という域を超えた何かにしか見えなかった。
僕の問いに、二人は口を開いた。
「多分、山の神。あの龍神を殺したのも、おそらくは...。」
「つまり、護留の霊力は山の神の霊力や。お前、山の神に魅入られとるわ。」
僕は、事の重大さをよく理解してなかったのかもしれない。あれは、人が相対していい存在じゃない。僕でも、それだけは分かる。でも、だからってあの子を諦めるわけには...。
「ん?何だあれ。この前まであんなの落ちて...。」
直途が向いてる方を見た瞬間、僕は走り出した。そして、そこに落ちていた物を拾う。
「やっとだ。やっと...!」
「山代さん?どうしたの?」
「護留、まさかそれって...。」
10年前、あの子とこの山を訪れた時。あの子は、これを着けていた。
「あの子の、勿忘草の髪飾りだ。」
今回のお話、楽しんでいただけたでしょうか?ぜひ、応援よろしくお願いいたします!