二夜
読書の皆様にこの作品を楽しんでもらえますように...。
「なぁ、昨日のは何だったんだ?」
翌日、僕は学校で直途に問い詰める。
あれからもう暗かったし解散したけど、あんなのを見せられて説明も無しじゃ納得出来ない。
「詳細は...爺ちゃんでも分からない。ただ...。」
「ただ?」
直途は少し震えながらも僕の方を見てはっきりと口にする。
「この町は今、危険な状況にある事は確かや。
「...その、あの龍が死んでたからか?」
「ああ、せやな。龍神様は昔っからおるここら辺の守り神やってん。でも、それが何故か亡くなってしまっとる。つまり、この町に存在する霊は自由になったという事や。」
霊がいるという事は僕もはっきりと分かった。例の霊道を通ったせいか、あれから僕は霊がはっきりと見えるようになった。
いい事なのか、悪い事なのか分からない。でも、霊が見えるからといって、僕はあの子を探すのをやめたりはしない。
「お前さ、何であんなとこおったんや?」
「お前に関係ないだろ、ただの肝試しだよ。」
「...もしかして、あいつの事か?」
「...!」
直途は勘がいい。昔から僕の悩み事や隠し事をよく言い当ててくる。だからこそ、僕は直途に勘づかれないように行動していた。
直途は僕にとって大切な友達だ。だから、僕の無謀で頭のおかしいような野望に付き合わせたくない。だって、10年以上も前に行方不明になった人がただの高校生の力で見つかるはずがないだろ?
「図星なんやな。なぁ、悪い事は言わない。もう、やめた方が...。」
「トイレ行ってくる。」
「あっ、おい!」
誰に何と言われようと、僕は絶対に捜索をやめる気は無い。
僕にとってあの子は光そのもので、失ってはいけないものだった。あの夜、僕があの子をちゃんと守っていればよかったんだ。だから、これは僕の罪滅ぼしでもある。絶対に諦めない。
「山の方はやめとこう。今日は林の方に...。」
外に出ようとした足が震える。これは、恐怖だ。昨日から霊が見えるようになった事で、僕は霊に恐怖している。僕は自分の足を三度ほど拳で叩き、玄関の戸を開ける。
「...案外、いつもと変わらないな。よし、さっさと...。」
「わっ!」
「うわっ!?」
僕が家の門から出ようとした瞬間、直途が飛び出して来た。
「なんだ、ビビってんやん!」
「ちっ、うるさいな。お前は慣れてるかもしれないけど、僕は霊を見たのなんか昨日が初めてなんだぞ。」
僕が今日も外に出る事が分かっていたのか、直途は待ち伏せしていた。
なんで直途は僕に構うんだ。こんな馬鹿みたいな事をしている僕なんかに。
「あの日、実は爺ちゃんから聞いたんや。あいつ、神隠しにあったんやないかって。」
直途のお爺ちゃんが何の根拠も無くそんな事を言うとは思えない。それ程、直途のお爺ちゃんは神職者として強力な人だ。
「お前、あいつの顔...思い出せるか?」
「...!?」
僕は今気付いた。僕はあの子の顔...名前すらも思い出せない。毎日一緒に遊んで、恋焦がれていた人なのに。
こんな事、ありえてはいけない。
「多分な、あいつを隠した神様っていうのはここら辺に住み着いてる悪霊なんやと思う。それこそ、本物の神様に近い力を持ってる...。」
「なら、なおさら探さないわけにはいかないな。」
「は?なんでや!お前、俺の話聞いとったんか!相手は人が敵うような奴じゃ...!」
「神隠しなら、あの子が生きている可能性は高いだろ。」
僕は林に向けて歩き出した。
これは僕の単なる偏見だけど、神隠しとは人が攫われるだけで死ぬわけじゃないと思う。そもそも物理的では無く霊的な力なんだから、攫われた人が生きている可能性も十分にあるだろう。
「なら、俺も行くわ。」
「は?」
直途が僕の隣を歩く。
「霊力で溢れとるお前を放っておいたらお前まで神隠しにあいそうやしな。」
「はぁ、勝手にしろ馬鹿野郎。」
「馬鹿はどっちだよ。」
僕は走り出し、それを直途が追いかける。
直途と夜を走っていると、この夜がいつもとは違って少し明るくなったように思える。確かに、直途と一緒の方が心強いな。
今回のお話、楽しんでいただけたでしょうか?ぜひ、応援よろしくお願いいたします!