一夜
読書の皆様にこの作品を楽しんでもらえますように...。
ここに来ると、あの夏の夜を思い出す。暑くて、それでも楽しくて。君と一緒なら、どこへでも行ける気がした。いや、行けるんだ。だけど、君は消えた。だから、僕はずっとこの町から離れられない。
「お〜い、お前いつまで寝てんだ?」
「あっ、すみません。」
「まったく、授業ぐらいちゃんと受けろよ〜。」
教師に起こされ、僕は目を開ける。クラスメイトはその様子を見て笑っている。
まあ、僕が悪いから仕方ないことだ。
「じゃあ、授業を再開するぞ。」
授業が再開されるが、僕に教師の声は届かない。僕はいつも勉強や趣味なんて物の事は考えず、一つの事を考えている。
君は、どこに居るんだろう?
「お前、隈すげぇじゃん。寝てねぇの?」
「寝てるよ、1時間ぐらい。」
「いやキリンかよw」
僕は「山代 護留」。いつも目の下に隈をつくって、勉強も、運動も平均。趣味も無い、なんの取り柄も無い人間。そんな僕にいちいち構ってくるのが、幼馴染みの「神宮寺 直途」。祖父が神職者で、直途は生まれつき少しの霊感を持ってるらしい。
「あっ、そうそう。お前さ、夜とか外出歩くタイプ?」
「ん?なんかあったのか?」
「いや、俺って霊感あるやん?で、最近は霊の気配をよく感じるんよ。だからさ、一応お前も夜は外出歩くなよ?」
「ふ〜ん。」
霊とか僕は見えないし、本当にいるのかとか分からない。だけど、夜に外を出歩くなというのは無理な話だ。
一日が終わる時間になって、僕は外に出た。僕は毎日、夜に外に出る。あの夏の夜、あの子が消えたあの日からずっと僕は夜に外を出歩いてる。
僕はあの子を忘れられないんだ。ずっと、あの夜から10年経った今もあの子に恋をしている。本当だったら今もあの子と楽しく話していて、直途とあの子と一緒に遊びに行ったりしていたはずなんだ。それなのに、あの子はあの夜、消えたんだ。
「...久しぶりに山にでも行ってみるか。」
この山は、あの子が消えた山。何年も前に探し回ったけど、まったく見当たらなかった。
大きくなった今なら、あの子を見つけれるかもしれない。そんな期待、しても無駄なんだろうけど。
「あれ、こんな道あったっけ?」
僕は周りより一段と暗い細道を見つけた。何年か前に来た時は無かったはずだ。
あれ、でもなんでだろう。あの夜、この道を見た気がする。いや、確実に見た。あの夜、あの子と一緒にこの道を。
「はっ、はっ、はっ...!」
僕はあの道を走っていた。
もしかしたら見つかるかもしれない。あの子に会えるかもしれない。今までとは違う感覚。走らずにはいられないんだ。
「はぁ、はぁ...あれ、ここは前と同じ...。」
僕はとある神社に着いた。この神社はもう一本の道からも行ける。つまり、あの二つの道は繋がっていたんだ。
「は?お前、何でここにおるん?」
聞き覚えのある声が本殿の方から聞こえ、本殿の方を向く。そこには直途がいて、直途は驚いた顔で僕を見ている。
「いや、それは問題やない。お前、どの道歩いて来た?」
「えっ、あの細道だけど。」
その瞬間、直途が僕の手を掴んで走り出した。直途の顔は青ざめていて、汗も大量に出ている。
「あかんあかん!お前が通ったんは霊道や!!」
「は?霊道?」
いや、霊道だとしてもそんなに焦る事じゃないだろ。だって、霊道なんて誰でも一度は通るだろうし。
「お前が通った霊道は特殊なんや!あっこはあの世に繋がる霊道。歴史には載ってへんけど、やばい怨霊がおってそいつが退治されたのがあの道やねん!」
「でも大丈夫だろ?だって僕、霊感無い...し...。」
ふと、何かが視界に入った。
黒くて、髪が長くて、目がイッてて、笑ってて...あれ、身体無くね?
「あかん、霊が出始めとる!早う走れ!爺ちゃんのとこ行くぞ!!」
「お、おう。」
しばらく走って、直途のお爺ちゃんがいる神社に着いた。平安時代からある神社で、直途の家系も平安時代から続いている。相当力のある家系だ。
「爺ちゃん!」
直途が本殿に入ると、そこには直途のお爺ちゃんがいた。直途のお爺ちゃんは僕の方を見て、顔を顰める。
「あんた、どこ行ってきたぁ?」
「爺ちゃん!こいつ、あの山の霊道通ってしもうてん!どうしよう!」
「安心せぇ、霊は憑いとらん。でも、霊力に侵されとるな。一回龍神様のとこ行かんとな。」
そして、僕と直途は直途のお爺ちゃんに連れられてまたあの神社に来た。今度はあの細道じゃない道で。でも、そこに着いた途端に、直途のお爺ちゃんの様子がおかしくなった。
「爺ちゃん?どしたん?」
「あかん、龍神様が亡くなられとる。」
僕はその時、確かに見た。本殿にぶら下がって血を垂らしている、龍の姿を。
今回のお話、楽しんでいただけたでしょうか?ぜひ、応援よろしくお願いいたします!