41、夜の警護はぬか漬けのために
41、夜の警護はぬか漬けのために
「さぁ、父上、待っててよぉ〜
生娘の血をたぁっぷり吸ってきたからねぇ」
1匹のコウモリが、ダンジョンの中をユラユラパタパタと飛んでいる
「でも、父上も、人間共の血を自分で吸えばいいのに、なんで吸わないのかなぁ
やっぱり、母上のせいかなぁ
おっと!」
ブツブツと呟きながら飛んでいたコウモリだったが、曲がり角を曲がった所で、ストーンゴーレムの背中が見えた為、ヒョイっと、股の下を潜り抜けた
「あと少しで入り口だけど、この辺のヤツらは、デカブツだらけだから天井付近を飛んでるだけではダメだから、気をつけないとね
あの一つ目のヤツは、動きも早いから注意しないとね」
鼻歌混じりで飛んでいるコウモリが、迷うことなくダンジョンを進んでいく
さらに2階ほど、階層を下がったエリアまで来たコウモリが、運良くサイクロプスに出くわさずに目的の部屋に辿り着いた
「よしよし、無事到着ぅ!」
そう言いながら、空中でクルッとバク宙をすると、黒い露出度高めの女性に変化した
「あれ?
無い!
無いじゃない!」
その女性は、急に慌てだし、壁を撫で回しながら、"無いよ!なんで?"などと騒いでいる
「帰れないじゃなぁぁぁぁぁい!」
今度は、壁を叩きながら大声で叫んだが、その声は、虚しくダンジョンに響き渡るだけだった
ズンっ!
ズンっ!
ズンっ!
「あわわわっ、どっ、どうしよう
帰れない!
これじゃ、父上が死んじゃうよぉ」
喚きながら、部屋をウロチョロしていると、その声に引き寄せられた、サイクロプスが、入り口から顔を覗かせた
ンゴォォォオゥオ!
「ひぃぃぃ!
アイツが来ちゃったぁ
他の入り口なんて、聞いてないし!
このままここに居ても仕方ないから、一旦、出るしかないか」
入り口から大きな顔を覗かせて、部屋の中の自分を見つけて、吠えるサイクロプスを見ながらどうするか悩む女性
「うぅぅっ、アタイじゃアンタらは、まだ倒せないけど、これでもくらいな」
「ブラッディアロー!」
女性が前に突き出した手のひらから、赤い細い矢が数本飛び出してサイクロプスに向かって飛んでいく
そのうちの1本が、サイクロプスの目に入る
サイクロプスは、雄叫びを上げながら、顔を手で押さえ、後ずさる
そこを見逃さず、女性が再びコウモリの姿になり通路に躍り出た
刹那、ご太い拳に襲われる!
「きゃっ」
コウモリの状態が幸いしたのか、風圧で飛ばされたのか、なんとか避けれた
「何よぉ〜
何体いるのよぉ〜」
ボヤきながら、クルッと後方回転して人の姿に戻った女性の視界には、数体のサイクロプスが見える
「もう、あったまキタァ
ブラッディレイン」
女性は、両手を頭上に掲げ、手のひらから飛び散る赤い雨を降らせた
「喰らえ!」
女性が両腕を振り下げると、その赤い雨はサイクルブス達に向かって向きを変えた
巨大に似合わず俊敏なサイクロプスでも、横殴りの赤い雨を避けることは出来ない
顔を手で覆いながら、背中を向ける
その隙に女性は、階段の部屋に向かって疾走する、その後ろ姿は、なぜか、少し小さくなったように思われる
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ん?なんか、ほっぺにチュッチュされてる?
いやぁ、ソフィさんダメだよぉ!
ミユちゃんに怒られちゃうって・・・
ん?ペロペロ?
そんな、野生的だなぁ・・・
って、夢かよ!
「おう、ごめんごめんシロ」
げぇぇ、昨日は、レイ達と飲みに行ったんだけど、いやはや、ジョセフさんのランチキぶりには参ったよ
司祭様があんなにはしゃいでいいのかよw
あまりに起きないから、シロが起こしてくれたんだな
ふぅ、昼まで寝ちまうとは、久しぶりにやらかしたw
ひとっ風呂浴びて、遅い朝&昼ご飯をシロとすませた
サーヤとクリスは、すでに仕事に行ってしまってるので、俺はゆっくり段取りをして家を出た
事態が事態なので、夜は、俺の家に、クリスとサーヤの他にミサ、イリナ、リネンで寝泊まりする事にしてもらっている
「よし、みんなの事頼むぞ!」
「ワン!」
うん、シロが居れば、夜の番犬になってくれるだろう
二日酔いのためか、足取り重く、中区の警護隊の詰所に向かうと、俺やタガート達の他にも冒険者が集まっていた
今日は、夜の警護強化の初日とあって、街の代表のレイモンド、冒険者ギルドのギルドマスター、教会の最高司祭のジョセフも来ていた
集まった警護隊員と冒険者の他に、教会の神官戦士?なのか、剣闘士なのかちょっと分からないが、神官服の面々もいるようだ
「いやぁすまない
もう、噂などで聞いているかもしれないが、最近、女性に対する襲撃事件が発生している
いずれも夜に発生している為、冒険者のみんなには、警護隊の応援をしてもらおうと思う
冒険者のみんなは、2人1組になったら、こっちに来てくれ、配属を決めさせてもらう
そしたら、警護隊の指示に従って行動してくれ」
人数が大体揃ったと思われる頃に、レイから簡単な挨拶と説明が会った
しかし、俺達は、タガートとアイトと3人なので、必然的に俺があぶれてしまった
C級冒険者で、1人の人を探そうとキョロキョロしていたら
「ヒロ!すまないが、コレと組んでくれないか?」
と、ギルマスに声を掛けられた
近づくと、どう見ても12〜14歳くらいの少年が、ギルマスに背中を押されてやってきた
「娘のフェンリーだ
フェン、彼と組ませてもらえ」
「初めまして、E級のフェンリーです
よろしくお願いします」
え?娘さん?髪型がショートカットだったので、勝手に男の子と思ってしまった(ごめん)
しかし、チョイチョイ!
どういう事?組み合わせおかしくない?
「ギルマス!俺、まだ、E級じゃなかったっけ?
さっき、レイがC級と組むようにって言ってたよね?」
"そうだっけか?"みたいな顔をしていたギルマスだったが、懐から何かを取り出して
「あぁ、レイモンドからのお達しで、ヒロは今日からD級に特別昇級だとよ
明日の朝、帰る前にギルドに寄って、ギルドカードの更新をしてくれよ」
えっ?そうなの?やったぁ昇級だよ!
「って、それでもダメでしょ!」
「まぁ、あれだ
ヒロは特別枠って事だ!
じゃぁ、フェンリーをよろしくな!」
無理矢理押し付けられた感じもあるが、それにしたって、俺には戦闘能力がないんだけどなぁ
まぁ、警護隊と一緒だから、危なくなったら、警護隊に任せるという事にしよう
「やぁ、フェンリー!
俺は、ヒロ
戦闘は全く自信ないけど、頑張るからよろしく」
「いえいえ、父からは、ヒロさんから離れるな!
と、言われてますので、よろしくお願いします」
一体全体、なんで俺から離れるなってなるのかな?
はっ?!何かあったら、俺を盾にして逃げろって事か?
それなら納得だな
「大体分かれましたかぁ
では、こちらに並んでくださぁい!」
警護隊の中堅クラスの方が、冒険者を並べて振り分けていく
運良く、俺とタガート達は、同じ北の中区と外周区の東地区に配属された
俺とフェンリーは、ちょっと白髪混じりのダンテと言う人と、カリムと言う20代の若者と組む事になった
「やぁ、ヒロさんだね
レイモンドさんから聞いてるよ、よろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
物腰の低いダンテは、丁寧に挨拶してくれた
にしても、レイから何を聞いているのか、あんまり信用できないので、俺は確認するのはよそうと思った
「よし、じゃぁ、このまま、東の大通りを通って、外周区に行って、一巡りしてから詰所に戻ろうか?」
俺達は、ダンテに従い、歩き始める
まだ、日が沈んだばかりだから、街の中は、夕飯の買い出しや、外食のの人達で溢れているが、先頭をダンテとフェンディ、後衛を俺とカリムで、行き交う人々の顔を一応全部見ながら歩いて行く
「ヒロさんは、武器とかは携帯しないのですか?」
おもむろにカリムが訪ねてきたので、一応、腰にミスリルのナイフを下げている事をチラッと見せた
「わっ、その左手の盾といい、かなり高価そうですね」
おっ、気付いちゃったw
この盾はね、いつもはめてる左手の小手に固定できるタイプのミスリルの盾!
いつものは持ち歩くのに大きいから、円形の盾を作っちゃったんだよぉ〜!
「そっそうかい?
知り合いの鍛冶屋に作ってもらったんだ」
自分で作ったなんて言えないから、ここは、パートナーのドムさん作って事にしておこう
「いいですね、知り合いに鍛治屋さんがいるなんて
俺も、給金を貯めて、防具を新調しようかな?」
外周区の中通りに入っても、夕方の喧騒はなかなかのものだが、ダンテとカリムが、通りすがる人達に声を掛けると、みんな気さくに挨拶をしてくれる
多分、ダンテ達は、日頃から、見回りをしていて、顔馴染みなんだろうな
「あらっ、ダンテさんお孫さんいたっけ?」
「なぁに言ってる
まだ、ぞんな年じゃないよ!」
「カリムくん、ごはんちゃんと食べてるかい」
などなど、見ているこっちが心休まる感じだ
中通りを北上して行くと、少し開けた場所に出た
以前、初めて依頼を受けた時に行った、南外周区西地区にあった、洗濯場や洗い場のある集会場みたいな場所と同じ感じだ
夕暮れという事もあり、流石に洗濯している人はいないが、洗い物をしている人はチラホラと見受けられる
「さぁ、ヒロさん、フェンリー
ちょっと、この先は、様子が良くないから、私とカリムが前後で、2人が真ん中で進もうか」
確かに、目線だけで"この先"と表現した通りを示してくれたが、通路の奥は、暗くて良く見えないな
場所的には、街の北東の隅とでも呼べばいいのだろうか
ちょっと古びた建物がびっしり建てられていて、他の外周区と区切られている感じのエリアだ
そして行き来が出来る道はどうやら1つらしい
「では行こう」
と、先頭を歩くダンテが歩を進める
"この先"と、説明された通路に入ると、通路脇に膝を抱えてうずくまっている人が居た
ダンテはその人物の前で立ち止まった
「おや、ダンテの旦那見回りですかい?」
「あぁ、すまんが入らせてもらうよ」
うずくまった人物は、顔を上げる事なくダンテに話しかけた
「いつもより、人数が多いですが、何かあったんですかい?」
「まぁ、言わなくても、"外"で起きてる事くらい知ってるんだろう?
出来れば、見回りついでに、その事もあるんでマリーに会わせてくれないか?」
うつむいていた人物が、壁の雨樋の様な物の蓋を開け、それに向かってゴニョゴニョと何かを話し始めた
今度は、その雨樋に耳を当てて動かなくなった
その間、不思議な事に、1度もこちらに顔を拝ませてくれていない
ある意味正体が分からない
「ダンテさん、お頭が会うそうです
今、案内が来るんで待っててくだせぇ」
言い終わる前に、暗闇から2人の人物が現れた
俺は、本当に戦闘に関しては、全くの素人だけど、分かる、分かっちゃう
この2人から発せられる雰囲気は、怒らせちゃダメな人達だ
「こちらへ」
と、案内されるがままについて行く
フェリーが不安がっているので隣に寄り添い
「なんか怖いね、ダンテさんから離れないようにしような」
と、話しかけたりした
フェンリーは、盾で隠しているが、多分、武器の柄をしっかり握っている事だろう
何度か路地を曲がり、建物に入っては、奥から出て、また、違う建物に入る
ぞんな事を繰り返したあと
「どうぞ」
と、案内人が開けたドアに入るように薦められた
「ダンテさんお久しぶり
まぁ、連れの方達も気にせず座ってくれ」
ダンテ、カリムに続いて部屋に入ったが、そこにあったテーブルの向こうには、長髪を後ろで束ねた、肩を露わに出した綺麗な顔立ちの女性が座っていた・・・
どこかで、見たような・・・イヤイヤ、スラムに知り合いはいない
「いきなり悪いなマリー
ちょっと聞きたい事と、お願いがあってな」
と、ダンテさんは座りながら話し始めた
マリーと呼ばれた女性は、口角が上がって笑っているように見えるが、目がまったく笑っていない
目で相手を射殺すとは、こう言う事なんだろう
俺とフェンリーは、部屋に入った時に一瞥された気がしたが、それからは、1度も目が合っていない
と、いうか、俺とフェンリーは、座れと言われたけど、ある意味存在していないものと思われている感じだ
「なんだいダンテさん
ウチらの知っている事ならなんでも話すよ」
「あぁ、それなんだが、マリーも知っていると思うが、最近、街で女性が襲われるって事件が複数回起きててな
何か、犯人に繋がる情報でもあればと思ってな
それと、代表が、事件の発生している夜間の警護をしばらく強化するって決めたんだ
だから、今後しばらくは、昼夜の見回りを増やすから、事前に伝えておこうと思ってな」
情報を聞くのは当たり前として、見回りをするってわざわざ伝えるって事は、この辺が、物騒だからか?
それとも、立ち入っちゃいけない場所などのかな?
まぁ、俺のいた世界でも、そういった誰かが仕切っているエリアには、警察だっておいそれと入れなかったりしてたんだろうからな
「襲われたって、アレだろ、変質者かなんかが、無理矢理、"魅惑の薬"でも飲ませたんだろ?
ダンテさんも知ってると思うが、ウチは、一才薬には、手を出していないからな!
それと、もし仲間にぞんな奴がいたら、ウチで始末してるよ」
マリーと呼ばれた人は、ちょっと不機嫌に、"うちらを疑うな!"的に語尾を荒くした
「コラコラ、マリー、私はお前が小さい時から知ってるんだぞ
お前が、そんな物に手を出さん事くらいは、百も承知してる
ただな、街に顔の効くお前なら、怪しい奴や、よそ者、それと、他の・・・」
ダンテが、マリーって人を嗜めらるように優しく聞き直した
「悪かったよダンテおじさん
でも、本当にウチには怪しい奴は、今のところいないし、新しく仲間も増えてないよ
他の所か・・・、ちょっと、揉めない程度には、探ってみるよ」
「あぁ、私の聞き方も悪かったな
ホラ、これでも食べて機嫌を直せ
今日、ここに顔を出すと言ったら、カミさんが全部包みやがったわ
しばらく、私はお預けだ」
と、ダンテさんは、懐から小包を出した
「え?おばさんの野菜漬けかい?
嬉しいよ、食べていいかい?
おい、お茶はまだか?」
ん?野菜漬け?って言ったか?もしかして漬物かな?
こりゃ、後でダンテさんに聞くとして、さっき、変質者が、とか、"魅惑の薬"とか言ってだけど、あまり詳しい情報は、知れ渡ってないんだな
的を絞って探した方がいいと思うんだけどな・・・
「あの、すいません
その女性が襲われた事件の件で、補足の情報なんですが・・・」
と、俺が喋り出した途端、カタッ!と、マリーが椅子を少し引いた
「誰が、しゃべっていいと言った?
ダンテさんのツレだから部屋に入れたが、普通なら、この区画に入れもしないんだぞ」
怖い!と、言うか、マリーが捲し立てた瞬間、俺の後ろに人が立っていた
これって、ヤバイ状況じゃないかな・・・
「コラコラ、ローズ、私が、勝手に知らない人を連れてくるわけないだろう
彼は、冒険者のヒロさんだ
代表と、冒険者ギルドのギルマスから、私と組むように指示された人だよ
それと、彼女は、フェンリー、ギルマスの娘さんだ
お前らは、ギルマスにも世話になっとるだろう」
ダンテさんが、またもマリーを嗜めた
「フェンリーの事は、彼女が小さい頃から、知ってるよ
敢えてこれまで知らないふりをしてたんだよ
まぁ、会うのは初めてだよな
フェンリー、マリーだ、よろしくな」
フェンリーが、一瞬ビクッとなった
「はっ、はじめまして
うちの父とお知り合いなんですか?
そんな事、一言も言ってませんでした」
「そりゃ、こんな所に住んでる奴と知り合いだなんてオヤジさんも言えないだろうよ
ウチと姉ちゃんが、世話になりまくっててな
困った事があったら、いつでも入り口の奴に言ってくれて構わないからな」
うわ、これって、任侠物によくある話し?でしょ?そうだよね
マリーさんは本当はいい人なんだよね?ね?
「でも、ダンテさん、そっちのヒロってのは、ウチは、会った事はないよ・・・
いくら代表やギルマスの人選と言われても、何処の馬の骨か分から・・・
ヒロ・・・って、あれ?」
「お前、最近ローズとは会ってないのか?
ローズの店が繁盛してるのもヒロさんのおかげらしいぞ
だからマリーも協力してくれるだろうって、ギルマスが言ってだぞ」
!?!?!?バタンっ!
マリーは、さっき引きかけた椅子を今度は後ろに倒しながら、急に立ち上がった
もの凄い速さ、と言うか、目にも止まらぬ速さで俺の横に来た
と言うか、居た
「さっきは、失礼しました
まさか、姉ちゃんの店をあんなに繁盛させてくれて、しかも、近所の人達にも働き口を世話してくれた恩人に対して
ああぁぁ、どうしよう
もう、ダンテおじさんも人が悪いわぁ
姉ちゃんの恩人を連れてくるなら、前もって言っといてくれよ
もっと、綺麗な服を着たのにさ!」
凄い圧!
ってか、そうだよローズさんに似ていたんだ!
この圧は、ローズさんと瓜二つだよ!
「いやいや、俺は、何も・・・
ちょこっと、飲み物とかの提案をしただけで・・・」
「ヒロさん、先日、ダンテさんと初めてローズさんの店に行ったんだけど、物凄く楽しかったですよ
あの安さなら、今度、後輩連れて行っても懐に優しいですよ」
"なんだとぉ!カリムのくせに姉ちゃんの店に行ったのかぁ!
この野郎、ありがとなぁ!"
と、マリーさんにヘッドロックを決められながら頭を掻きむしられながら喜ぶカリム
ふぅぅ、何はともあれ、マリーさんに気に入られたみたいで安心したよ
マリーさんが、椅子に戻りながら、何かを追い払うように手の平をヒラヒラとしたら、さっき俺の後ろにいた人が消えた
途端に、部屋の空気が変わったように思われる
「改めて、ヒロさん、ローズの妹のマリーです
今後とも、ウチの姉ちゃんの事をよろしくお願いします」
「いえいえ、俺の方が良くしてもらってるんで・・
ところで、さっきの話の続きなんだけど」
俺は、さっきの話の続きを始めた
ダンテさんに何処までの情報が流れてきているか知らないが、警護の焦点を狭める為であり、俺の主観だという事を前置きし
犯人が少女姿で、マリーさんのように俊敏で、被害者は首を噛まれている事を説明した
「なんだ、じゃぁ薬を飲まされたわけじゃないんですかい?
聞いた話では、"魅惑の薬"を飲んだようになっていたという話だったけど・・・」
「うん、その薬の事は知らないけど、被害者を見させてもらった感想は・・・」
フェンリーがいる手前、どうやって説明しようか悩んだが
「凄く気持ちよさそうで、恍惚な、表情を浮かべて、意識が朦朧としていたんだよ」
ちょっと言葉を選びすぎたか、フェンリーは、小首を傾げている
「ふぅーん、イッチャってたんだねぇ
薬を飲まずにそんな風になるって、よっぽど気持ちよかったんだろうな」
「おいマリー、フェンリーの前だぞ」
マリーさんが、ど直球で説明してくれたが、ダンテさんにまたもや嗜められた
「ヒロさん、そんな大事な話を私達にしても良かったので?」
「いや、お二人の会話から、マリーさんとギルマス
そして、ダンテさんがレイから信用されてるのが分かったので、何も問題ないと思いますよ」
ダンテさんに問われ、正直な気持ちを伝えると、一瞬、ダンテさんやマリーさん、カリムらが、目を丸くしていたが、俺はお構いなしに続ける
「そして、もしかしたら、吸血鬼かもしれないと疑ってます
ですから、警護する時もそれなりに警戒した方がいいし
これまでの被害者が、女性ばかりな点も警護や捜索に織り込んだ方がいいと思います」
俺って、存外おしゃべりなのかもしれないな、ついつい全部しゃべっちゃった
「吸血鬼ですか?
そんなおとぎ話のような者が・・・
いや、ヒロさんが、私と組まされた理由がなんとなく分かりました
カリム、1度目の見回りが終わったら、みんなにそれとなく装備を固めるように声掛けを頼む
マリーも、街の監視をしてくれるかい
カミさんには、野菜漬けを多めに頼んでおくから引き受けてくれんか?」
ダンテさんに言われたカリムは、しっかりと頷き、まず、自分の装備を確認した
「任された!
ヒロさん!
姉ちゃんが、心を許す訳が分かった気がするよ
オイ、ダンテさん達に何かあったら、すぐに対応できるようにしとくんだよ!」
"へい"と、お茶を持ってきた人が、返事をした
その後、少しだけ、漬け物の話や、今後の話をして、部屋を出た
部屋を出る際、わざわざ見送ってくれたマリーさんが
「ヒロさん、ウチらに出来ることがあったら、いつでも来てくださいよ」
と、握手しながら伝えられた
その後、俺達は西に向かって歩を進めた
「この北外周区の東側には、民家やお店は多くてね、とにかく路地が多いのが特徴なんだ」
ダンテさんは、さっきまでより、歩く速度を緩め、路地などをランタンで照らし確認しながら教えてくれた
「フェンリーも、これを持つといいよ」
と、マジックバッグから、ランタンを取り出してフェンリーに手渡した
「はい」
と、言いながら、どっちの手で持つか悩んでいたが、持っていた盾(皮を舐めして木の盾に貼ったような、皮の盾?)を背中に背負い、左手で持った
「ヒロさんって、お知り合いが多いんですね
父に、ヒロさんをよく見て学べって言われました」
ええ?俺を見て学べって、何も得る物ないでしょうが!
「俺なんか、駆け出しなのに、なんの参考にもならないかもよ」
「いえ!何かを学んで見せます!」
トホホ、可愛い少女かと思ったら、ガッツリ熱血系だったんですか・・・
気を張りすぎない程度に、ゆっくりと路地を確認しながら進んでいく
中央区から北門に続く大通りに出た所で、丁度北外周区の西地区の警護隊と鉢合わせをして、手を挙げて安全を認識し合う
うんうん、なんか、警護してるって感じだな
「ヨシ、次は、中区と外周区の通りを見回って詰所に戻ろう」
そろそろ、時間でいったら、酒に酔った人達がぶらつく時間帯だ
もしかしたら、酔っ払いの対応も出てくるかもしれないな
しかし、中区と外周区の境の大通りは、やはり富裕層も住んでいるからか、出歩く人もどことなく品があるのは気のせいかな?
警護隊の詰所は、中区と外周区の境の大通りが、東西通りと南北通りのぶつかる外周区側にL字に建てられていた
当直用の仮眠室が少しあり、なんと地下が存在した
俺は、興味本位で、地下へ続く階段を覗いていたら
「ここ何日かは、宿泊者はいないですw
至って平和ですよ」
カリムが、宿泊者と言ったが、多分、収容者の事だろう
「そっ、そうか
何よりだね」
また、詰所には、警護の待機場所があるが、通りからは大窓で丸見えになっている
前を通る人達も気軽に声を掛けてくる
日頃から、警護隊の気さくさが伺える
「なんだい、今日から、人数が増えるって聞いたから、多めに差し入れ持ってきたよ!」
待機場所に俺とフェンリーが案内された時、丁度その窓から、大柄な女性が、バケット一杯のパンなどを他の隊員に渡していた
「おぉ!
カリーナさん、いつもすまないね」
「何言ってんだい、ダンテさん!
うちのカリムは、ちゃんとやってるかね?
言う事聞かなかったら、頭を引っ叩いてくださいよ」
んん?うちのカリム?って事は・・・
「もう、母さん、ホントにダンテさんに叩かれちゃうだろ!」
「おいおい、私は、叩いたりしないぞ!」
聞けば、カリムは、母1人、子1人の2人暮らし、父は、冒険者だったそうだが、カリムが小さい時に帰ってこなくなってしまったらしい
そして、母親のカリーナは、詰所の隣で、父から受け継いだ食堂を営んでいるらしい
「じゃぁ、カリム、カゴを忘れないでおくれよ!」
「分かった、ありがとう母さん!」
うんうん、ちゃんとお礼が言える良い倅さんだ!
っていか、こっちの世界は、結構、孤児や片親が多い気がする
やっぱり、モンスターや盗賊、山賊のせいなんだろうか?
まだまだ、俺は、こっちの世界の事は、何も知らないな
「ところで、ダンテさん、さっき、マリーさんの所で話してた、"野菜漬け"の事だけど・・・」
「あぁ、ありゃぁ、たまに食べる米を炊く前に精米した時に出る粉と塩を使って、野菜を漬けとくんだよ」
ぬか漬けキタコレ!
俺も、最近、漬け始めてるよぉ!
でも、自分でするのは初めてだから、上手くいってるか分からないんだよねぇ
「うちでは、米はたまにしか食べないんでね
粉もそんなに手に入らないんだよ
マリーには、あぁ言ったけど、カミさんには、なんて言おうか困ってしまったよ」
米って、やっぱり貴重なんだな
ならば、米糠もそりゃなかなか手に入らないわな
「ダンテさん、物は相談なんだけど、米の粉は、俺がなんとかするから、奥さんに、その"野菜漬け"の作り方を教えてもらう事は出来るかな?」
俺は、藁をも掴む思いでダンテさんにお願いしてみた
「え?あの粉、手に入るのかい?
助かるよ!
じゃぁ、警護明けにうちに寄ってってくれるかい?」
やったぜ!
俺達、ダンテ組は、どうやら、マリーの仕切るエリアと外周区の担当らしく、その晩は、2回、同じエリアを見回りしたが、特に事件は無かった
まぁ、4〜5人の酔っ払いの介抱はしたけど、俺は、もうぬか漬けの事しか考えてなかったので、全くもって楽チンだった
最後の見回りをして、詰所に帰ってくると、これから、日中の警護に当たる警護兵が集まっていた
ダンテさんを始め、各組のリーダーと、次の組のリーダーが申し送りをしている
警護隊は、24時間勤務して、2日休めるので、勤務明けの警護隊員の方が、色めきだっているように見える
「カリム、今日の朝飯何かな?」
「多分、大猪の肉かな?
昨日、俺が仕込んどいたから、もう味も染み込んでるんじゃないかな?」
とか、
「おぉし!さっさと帰って飲むぞぉ!」
「お前ちの赤ちゃん見させろよぉ〜」
などなど、仕事が終わってみんなアフター5ならぬ、アフターモーニング?をする為にはしゃいでいた
「さぁ、ヒロさん、申し送りは終わりました
うちに寄ってってくれるんだろ?
まずは、カリムの所で朝飯買って行こうか?」
「え?奥さんのお料理は?」
ぬか漬けまで作ってくれる奥さんがいるのに朝飯は、買っていくの?
と、不思議に思いながら、詰所を出て、ダンテに連れられ、フェンリーと共に隣の建物に入った
「はい、みんなお疲れ様!
今日は、大猪だよ!
持って帰る人は、入れ物出しておくれよ!」
年季の入った建物の中は、むふぁーって感じで、店内には焼き肉の香ばしい匂いが立ち込めている
カリムの母親のカリーナさんの元気な声も店内に広がった
「あっ、ヒロさん達は、入れ物無いか?
どうする?食べていくかい?」
ん?持ち帰りも出来るのか、ダンテいに言われると、食べたくなってしまった
悩むな、食べて帰っても良いが、ダンテさんの所にも行きたいし
「フェンリーはどうする?」
流れにまかせて連れてきてしまったフェンリーに確認を取る
「多分帰ったら、ご飯があると思うんですが、この匂いを嗅いでしまったら、食べたくなっちゃいました
ヒロさんに合わせます」
おろろ、そうですが、うーん、ならば
「じゃぁ、俺達も持ち帰りで!
入れ物は、すぐに用意するよ」
「へ?すぐ用意するって・・・」
驚くダンテさんを横目に、一旦、店を出た
ちょっと、路地に入り、マジックバックから、魔鉱石を取り出して・・・
チョチョイのちょいっと!
まぁ、簡単な形状なら、手で捏ねたら作れちゃうんだなぁこれが!
テロレロリーン!
はい、弁当箱ぉ!
ってな感じで、ちょっと大きめの蓋付きの弁当箱(昔の日の丸弁当の入れ物の深いタイプって感じかな?)を2セット作って店内に戻る
「カリーナさん、これに入れてください
2つネ」
「あいよ!
あら、なかなか綺麗な入れ物ネ」
弁当を受け取り、ダンテさんの家に向かう
ダンテさんちは、カリーナのお店の隣の宿屋の裏側にあった
中区にも、外周区にも行きやすい位置にある一軒家だ
ってか、今の宿屋、営業してなかったみたいだけど、あれが、ギルマスが言ってた宿屋かな?
「さぁ、入ってくれ」
ダンテさんに誘われ、お家に上がらせてもらうと、既に奥さんが、朝の支度をしていた
「あら、珍しい
お客さんですか?」
「あぁ、昨夜から一緒に警護してる、ヒロさんとフェンリーだ
マリーの所にもっと野菜漬けを届ける約束をしてしまってね
それと、ヒロさんも野菜漬けに興味があるらしいから、朝飯がてら寄ってもらったんだよ」
"あらまぁ"と、言いながら、奥さんが、お茶を淹れ始めた
「ごめんなさいね、主人が仕事の時の朝は、何も用意してなくて・・・」
と、照れながら、テーブルにお茶を出してくれた
「今日は、大猪らしいぞ
さぁ、温かいうちに食べようか?」
「はい」
ダンテさんに促され、フェンリーと共に席につき、弁当箱を開けた
ん?照り焼き丼?みたいな感じかな?
キュゥゥゥ
タハッ、香ばしい香りが、腹の虫を起こしてしまったらしい
"いただきます"俺は、タレの付いた肉を頬張った!
ん?マジで、照り焼きみたいだ
やべぇ!米、米!
ご飯をほじくり出して、慌てて口に含む
ナイスなコラボだね
こりゃ美味いわ
「美味しい!」
フェンリーも満面の笑顔で喜んでいる
「こりゃ美味いですね
こんな最高の朝飯が楽しめるんなら、ダンテさんは、警護は辞められないですね」
「そうなんだ
3日に1度の楽しみなんでね
コレの為にカミさんに尻を叩かれながら、出勤しているようなもんさ」
"ちょっと、やめてくださいな"
仲のいい夫婦だ
俺も、災害が無かったら、こうなれてたのかなぁ・・・
「そうそう、あなた、マリーちゃんに"野菜漬け"を頼まれたって
あの子が、そんな事言うわけないでしょ
まぁた何か、無理な頼み事でもしたんでしょ?」
ダンテさんがビクッとなって肩をすくめてベロを出す
そんな表情もするんだw
「ちょっと・・・な
立場上、お金で物事を頼めないし・・・
でも、マリーの立場もあるからな、タダでは頼めないだろう・・・」
「まったく・・・
まぁ、マリーちゃんの為なら、沢山作りますか!
でも、沢山作るにも、米の粉と入れ物がねぇ・・・・」
マリーさんとはいい関係なんだな
ここは、1つ俺から切り出そう
「それなら、俺、持ってるんで、食べ終わったら用意しますね
その代わり、作り方を教えてもらいたいです」
「え?あなた、持ってるんですか?
お若いのに珍しいですね」
イヤイヤ、中身は53のオッサンです
ぬか漬けは、主食に近いですよ!
「ひょっと、待っふぇ、ふらはい!」
やっば、口いっぱいに大猪の肉と米を頬張ったまましゃべっちゃった
ガツガツと残りの大猪丼を胃袋に放り込んで、一旦、お茶で落ち着かせ
俺は焦らず、マジックバッグから、これまた大猪の腸で作った袋を取り出した
こいつ、ざんざん洗って、しこたま干したら、匂いは消え、見た目も乾燥させて、ちょっと擦ったら、白く毛羽立って、いい感じになっているんだよ
「このくらいで足りますかね?」
と、袋の口を開けて見せたところ
「こっ、こんなにですか!」
奥さんは、食べるのをやめ、椅子から降りて、俺の用意した米糠に食い入る!
そりゃぁ、どれだけおにぎり作ったと思うんですかぁ、こんな量は、まだまだ序の口の序の口ですよ!
と、言わんばかりに胸を張る
続いて、マジックバッグの間口ギリッギリの魔鉱石の壺(合わせ蓋付き)を3セット取り出す
何かのためにと作っておいて正解だったよ
「ちょっ!あなた!
こちらの方は、どなた様なのですか?
こんなにひょいひょいと・・・」
「あぁ、ローズともお知り合いでな
レイモンドさんやギルマスとも仲間だったかな?
しかし、本当に凄いな」
「あとは・・・
野菜ですかね?
俺、買い置きがあるから・・・」
俺は、マジックバッグから、きゅうりっぽいのやら、大根っぽいの、にんじんっぽいのから、茄子っぽい野菜をどんどん出していった
「足りない食材があったら、食べ終わったら、買ってくるんで、名前と色と形をあとで教えてくださいね」
・・・・・
「ひっ、ヒロさんって何者なんですか?」
ん?声を掛けてきたフェンリーを見たら、目を丸くしていた
「えぇっと、冒険者ギルドと商人ギルドの両方に登録してる
ただのオジサンだよ」
・・・・
「プププっ!
凄いお人だよ
よぉし!これは、やる気が出てきたわ
あなた!食べたら寝る前にちょっと手伝ってくださいな
あなた達は、今夜も警護なんでしょ?
ヒロさんの分は、丹精込めて作らせていただくから、私に任せて、帰って寝てくださいな!
さっさ!あなた!
早く、食べちゃって!」
「ほ?ああ??」
ダンテさんは、奥さんに急かされて、食べる速度が上がったw
本当は、ぬか漬けの作り方をちゃんと教えて欲しかったが、確かに奥さんの言う通り、俺とフェンリーは、今夜も警護だ、帰って寝るとしよう
「じゃぁ、お願いします
ダンテさん、お疲れ様でした」
「あぁ、お疲れ様
2人とも、今夜も頼むな!」
俺は、フェンリーとダンテさんちを後にした
後は、フェンリーを家まで送って帰るだけだ
「街の中で警護の依頼なんて、初めてだったけど、やっぱり緊張するもんだね」
「そうですね
それに、ヒロさんの情報を聞いてから、ちょっと怖くなっちゃって、何も起きないでって思ってました」
そうだよな、もし犯人が本当に吸血鬼だったら・・・と思うと、出会いたくはないな
「でも、ヒロさんは、マリーさんに会った後から、なんか楽しんでませんでした?
どうしたら、そんなに余裕が生まれるんですか?
はっ!まさか、ヒロさんって、凄い強いとか?」
げっ!俺が、ぬか漬けが楽しみで、早く帰りたがっていたのが、そんな風に見えてたのか?
「ちっ、違うよ!
ただ、野菜漬けが楽しみで仕方なかったんだよ」
「またまたぁ、謙遜しないでください
その余裕、学ばせてもらいますぅ!」
いやいや、ギルマスは、一体フェンリーに何を吹き込んでるんだか・・・
そんな話をしていると、冒険者ギルドの前に到着した
よし、ある意味これも警護のうちかもしれないが、無事、フェンリーを送り届けられた
朝飯を食べてから帰ってきたのが幸いしたのか、受付が空いていたので、すぐにグレースが、新しいギルドカードに切り替えてくれた
よし、これで、俺は、1年間、依頼を受けなくても大丈夫になったな
でも、どうせ、今回みたく、強制依頼が入るだろうから、食いっぱぐれはないな
さあ、早く帰って寝るとしよう!
さっきまでは、全然眠く無かったが、フェンリーを送り届けた安心感からか、急に瞼が重くなってきた
ああ、これは、もしかしたら、さっき食べた大猪丼のせいだな
"腹が張ると瞼が緩む"ってやつだ!
「フワァ〜」
と、やっと着いた家の前で、大欠伸をして、家に入ったら
「あら、ヒロも朝帰りなんてするのね」
ん?金髪?
こんな綺麗な髪の女性いたっけか?
って、大工見習いのフィスじゃんか
「急になんだよ!」
「ちょっと、ヒロ、大変かもよ!」
うう、寝かせてくれよぉ〜
いつも読んでいただきありがとうございます、超七玉です
前回から新しいストーリーにしてみたのですが、どのように進めていくか楽しみです
よろしくお願いします




