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桜の木が枯れるまで  作者: 月岡
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片鱗

「え、ほたるって1人で暮らしてるの?寂しくない?」


 ほたるは目を丸くした。てっきり羨ましがられると思っていたからだ。それともう1つ意外だったことがある。


「寂しくないけど……気にするとこ、そこなんだ?」


 家事や食事などの問題を聞かれるのかと思っていたが、まさかの寂しいかどうかの質問に、ほたるは笑う。それが嬉しかったのか、(みこと)は浮ついた気持ちになる。


「だって、1人だよ?俺、弟たちがいるから、1人だと逆に落ち着かないかも。」

「へぇ、弟いるんだ。賑やかそうだね。」

「まぁね!」


 他愛もない話なんだろう。だが、尊にとってはそれでも楽しいのだ。まだ入学して1週間もたっていないのだが、初めて会ったときよりは、一昨日よりは、昨日よりは、ほたると話が続いていると、尊は実感していた。




「おーい、東雲兄弟、お前たちだけだぞ、部活届け出してないの。」


 担任教師に呼ばれ、双子は振り返る。


「センセー、俺たち迷ってんの。」

「サッカーとバスケ、どっちがいいと思う?」


 どうやら悩んでいたようで、双子は教師に問いかける。しかし適当にあしらわれ、遂には席の近いほたるにまで聞いてくる始末だ。


「ねぇ、どっちがいいかな?」


 どうでもいいと思いつつ返答に困っていると、尊が名案だと言わんばかりに答える。


「片方がサッカー、片方がバスケにすれば?」

「だってどっちもやりたいじゃん。」

「交換すりゃいいじゃん。双子なんだからバレないだろ。」

「そっか!頭いい!」


 などと騒いでいると、案の定、教師に呆れられ叱られる。

 ほたるは迷惑していた。見てわかるほどの問題児が近くの席で、絡まれることが多いからだ。尊がいれば、尊が相手をしてくれているが、常に一緒なわけではない。大人しくしていたいのにそうさせてくれないこの双子に、煩わしさを覚える。


(……そんなこと思ってるから、ダメなんだろうな。)


 あんな惨めな思いをしたくないと決意したばかりなのに、すぐ否定的な考えになってしまうのは、やはりトラウマのせいだろう。無理矢理明るく接したいが、どうやればいいのか、ほたるは忘れてしまっていた。


「東雲〜……えっと……弟の方〜いるか?」


 あまり訪問されることのない1年の教室に、他のクラスの生徒がやってきた。入学して日があまり経っていないのにもかかわらず呼び出しとは、やはりあまり関わりたくないと、ほたるは思った。


「はいは〜い。」


 何故呼ばれたのか気にしていないようで、陽気に教室を出ていく。秋輝(あきてる)は気にせず話を続けていた。


「気にならないの?」

「いつものことだし、気にしないよ。」


 そしてすぐに、秋嗣(あきつぐ)は戻ってきた。


「早っ。何、なんだったの?」

「何でもないよ。」


 顔は笑顔だが、これ以上聞くなと態度で示していた。




 尊は少し気になることがあった。ほたると話をしていても、目が合わないのだ。人と話すことが苦手なのだろうかと思っていた。身長も尊の頭1つ分小さいため、更に目が合いづらいのだが、こちらを見てくれれば上目遣いになってきっと可愛い……などと妄想していた。


(俺だけに心開いてくれないかなぁ。)


 笑顔の裏でそんなことを考えているとは知らず、ほたるは尊の話に付き合っている。


「あ、待って。」


 尊はほたるの顔に手を伸ばす。突然のことに、ほたるは目を瞑り、小さく肩を跳ねさせる。


「桜の花びらついてたから。」


 ほたるの髪になるべく触れないよう、そっと花びらを取る。


「……ごめん。」

「こっちも急だったから。」


 触られるのが好きではないのか、慣れていないのか、その反応に尊は少しショックを受ける。しかし、その反応がまるで野良猫のようだと、顔が緩むのだった。

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