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桜の木が枯れるまで  作者: 月岡
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それぞれの入学式

 桜が満開の季節。私立桜ヶ丘学園の敷地内や通学路には桜が植えられており、隠れた名所となっている。観光客に紛れて新入生がチラホラと保護者と共に歩いていて、その様子を背景の桜と共に写真に収めている。


 式始まるまでの時間、教室では新入生が待機していた。、小桜(こざくら) ほたるは欠伸を噛み殺していた。やっとあの地獄から解放されると安堵していた。

 生まれつき色素が薄く、目立つ容姿をしているため、それをからかわれていたのだが、段々エスカレートしていき、いじめに発展した。逃げるように県外のこの学園に入学したのだが、不安もあった。伝統的で比較的真面目な校風だが、この目立つ容姿だ。またいじめられるかもしれない。


(……髪も黒くしたいのに、痒くなっちゃうんだもんなぁ。)


 なるべく目立たないよう、静かにしよう。そう誓うのだった。



 蓮見 尊(はすみ みこと)は、とある生徒に目を奪われていた。茶色く光る髪、白い肌、薄い桃色の唇。これが恋かと、衝撃を受けた。告白は多くされてきた。断る理由もなく、何もわからぬまま付き合っていたこともあった。相手に合わせ笑顔を作る。でもそれは、所詮子供の恋愛ごっこであり、好きと言う感情もわからなかった。


(絶対同じクラスになりたいなぁ。)


 こんな自分でも、まともに人を好きになれるのだろうか。



 同じ顔が2つ。ただ、1人は少し目尻が下がっている。東雲 秋輝(しののめ あきてる)東雲 秋嗣(しののめ あきつぐ)は双子だ。髪を派手に染め、いかにもヤンチャそうな見た目だ。別に喧嘩が好きなのではない。周りが絡んで来るから相手をしていたら、『友達』が増えていった。だが、双子にとってそんなものはいらなかった。


(…………。)

(俺たち浮いてるなぁ。ウケる。)


 この狭い箱庭で、双子は何を得るのだろうか。



 桜の花びらが風に乗って舞う。ほたるの気持ちとは裏腹に、晴天が広がる。それぞれが期待や不安で湧く中、彼らはどう変化していくのだろうか。



 入学式は滞りなく終わり、新入生は再び教室へと戻って来る。自己紹介が始まり、手早く済ませる者が殆どで、何処の中学出身か、趣味は何かなど簡単なものだ。例に漏れず、ほたるも手短に済ます。


「小桜ほたるです。風京(ふうきょう)中学校出身。……よろしくお願いします。」


 生徒の視線が突き刺さる。自意識過剰かとも思うが、拍手に混ざりヒソヒソと声がするのが聞こえてしまう。それを無視し、何食わぬ顔で席につく。


 尊はほたるの名前を記憶した。残念ながら趣味については発言がなかったが、それでもよかった。これから知れる喜びのほうが強い。気持ちが対照的な2人だが、それに気付くはずもなく、尊は浮かれている。


 東雲兄弟の出番となれば、周囲のざわめきも大きいものとなる。見た目の派手さもそうだが、2人の存在を知っている生徒もいるようだ。軽く担任の教室に注意され、場は収まることとなる。



「俺、尊!蓮見尊!よろしく!」


 全ての行事が終わり、席を立った時だった。突然ほたるは話しかけられ、驚きを隠せずにいた。


「……よろしく。」

「外部生だよな、俺もなんだ。」


 ほたるの反応を見て、はしゃぎすぎたと反省し、尊は他愛無い会話を始める。自分の趣味について、家族について。昇降口まで歩きながら話をしたが、距離が短くあっという間に校門前まで来てしまった。


「LINE教えて!」

「え……うん。」


 尊はまた自分だけはしゃいでいたと思ったが、それよりもほたると話をできた事、携帯番号を交換したことが嬉しく、関係なかった。


「へへ……高校の初めての友達だな。」


 その笑顔に、ほたるは最初の気分など忘れ、つられて照れくさそうに笑うのだった。

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