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3話 あなたは誰ですか?

見知らぬ異界で私に声をかけてきた男は、腕を組んでこちらを見下ろしていた。

黒い髪で片目が隠れていて表情がうまく読み取れないが、明らかな敵対心を感じる。

見慣れない人間に警戒しているんだろうか。

言葉を間違えれば斬り殺されるという覚悟で、私は事情を説明する。


「早く答えろ、貴様は何者だ?」

「実は、追っ手に追われて逃げ惑っていたところで大木を見つけ、触れようとしたらこの世界につながってしまったんです」


どうして追っ手に追われているのかなどは省略し、必要最低限の情報を話した。

不用意に嘘をつけば、自分の首を絞めるかもしれない。

かといって、敵か味方か分からない存在に全てを話して弱みにつけ込まれるのも面倒だから。


「…嘘はついていないようだ。うっかり迷い込んでしまったというのなら、今すぐに人間界に返してやろう」

「…っ!!ダメです!」


咄嗟に声を張り上げる。

今ここで元の世界に返されても、私は御者に連れられ逃げた罰として侯爵に酷い仕打ちを受けるだろう。

ここが安全とは言えないにしても、せめて数時間はなんとかやり過ごさなければならない。


「ほう?ここは魔界で、今貴様が喋っている我がこの魔界を統べる魔王だとしてもか?」

「え…?」


信じられない発言だったが、それだと赤黒い空や見たことのない生物にも説明がつく。

なにより、この男の威圧感と立派なツノが何よりの証拠だろう。

…だとしても、今帰らされるわけにはいかない。


「追っ手は私のすぐ近くまで来ていました。今ここで帰れば、私は酷い仕打ちを受け最悪な場合極刑に処されるでしょう。私はまだ…死にたくありません」


必死の訴えに、魔王は顎に手を当て考える。


「しかし、貴様は別の世界の"人間"だ。この場に留まれば命の危険に晒されることもあるだろう。それはどうするんだ?」

「それ、は……」


たしかに、ここは安全とは言えない。

この人に理性があり、言葉の通じる存在だったからこそ自分は無事なだけであって。

他の魔物に先に見つかっていれば、きっと私は死んでいただろう。


「はぁ…我には時間がないんだ。悠長にしていられない。もう我は城に戻るからな」


バサリと大きな音がして魔王の背中を見ると、他とは比べものにならないほどに立派な羽根を広げていた。


「まっ、待ってください!掃除でも洗濯でも、なんでも言うことを聞きます!だからどうか、少しの間匿ってもらえませんか!?」


無茶な願いだとは分かっている。

だけど、ここまで来たらもう引き返すことなどできなかった。

ドクドクと心臓が脈打つ。魔王の返答次第で、私の運命は変わる。


「…いいだろう。ただし、我の側から離れれば死ぬと思え」

「よかった…」


張り詰めた糸が切れたように、頬を一筋の涙が伝う。

それがぽとりと落ちた足が、みるみるうちに回復していった。

血まみれになっていた足は、見る影もなく綺麗に修復されている。


「これは……!?」


魔王はその様子を見て、驚きに目を見開いていた。

自分もまだ理解が追いついていない。

拾われた頃から、どこか達観していた自分は酷い扱いを受け続けても涙を流すことがなかった。

だから、自分にこんな能力があるなんて初めて知ったのだ。

しばらくの間、無言の時間が流れる。

そして、ようやく魔王は口を開けた。


「貴様は利用価値がある。予定変更だ。数時間と言わず、しばらくの間我が城で過ごしてもらおうじゃないか」


魔王は口角を上げ、まるで良い獲物を見つけた狩人のような眼をした。

これから自分はどうなってしまうんだろう。

有無を言わさず、魔王は傍に私を抱えて羽を羽ばたかせる。


「片腕で抱えるなんて、私落ちちゃいます!」

「貴様のような軽い女、我が落とすわけないだろう」


カカカッと笑う魔王に、少しドキリとしてしまう。

これはいわゆる吊り橋効果というやつだ。そうに違いない。


「まあ、不安なら我に捕まっておけ。全速力で飛ぶからな!」

「えっ!?」


--そして、魔王はその言葉通りひとっ飛びで山を3つ超えて行った。

果たして、私は馬車とは比べ物にならない程の危険運転に酔いに酔って倒れ込んだのだった。

ゼェゼェと切れる息を整えながら、気になっていたことを確認する。


「あなたの、お名前は、なんですか」

「我か?我の名は…ガルガインと呼べ」

「では…ガルガイン様。しばらくお世話になります」

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