9日目
「悪役令嬢ものとかは感情移入がしやすいんじゃないだろうか?」
「先輩が悪役はともかく令嬢というのは無理があるんじゃないでしょうか?」
失礼だなとプンスカと怒る先輩を見ると、そのリアクションというか仕草がすでに令嬢じゃなくて幼女ですよね、と指摘すると、仕草がさらに悪化しましたね。ある程度高貴なと言いますか、上流階級でありますよという描写ができないと難しそうではあります。まあ、調べればそれっぽく描写ができそうではありますが。
「あれだろ、ふふーん、とか、ハハーンとか言わせればいいんだろ?」
「真剣に令嬢側へ謝罪が必要だと思いますよ?」
笑い方で身分の高さとかを表すやり口はまあ、ありそうではありますが、普通そのようにする方はいないと思うのですよ。まあ、スタイルといいますか、個性を出そうとして実際にやっている方が皆無かと言われると、意外にいそうではありますが、少なくとも実際の令嬢はそうは言わないと思います。
「ですわよ、とか語尾につければ良いのかな、ですわよ?」
「まさにとってつけていますね、実際にそう話す人いるのでしょうか?」
記号づけとしては便利ではありそうでありますね。語尾を統一すると誰が喋っているか判別つきやすいという利点はありそうではありますが、リアリティという観点から見ると、不自然さが目立ちませんかね。口調をキャラごとに変えてしまうやり方の延長といえば延長ではありますが。
「ざます、とかにしようか、ざます?」
「実際に喋っているのは演劇とかでしか聞いたことがないような?」
コミカルになりますよね、ざます。方言の一つであったような覚えがあるわけでございますが、ああ、そのままそうであったようですね、私もよく使う語尾の変形であるようでございます。つまりは、”ございます”が早口っぽくなりまして、”(ご)ざ(い)ます”となったようでございますね。
「なるほどあなたは”ざます”キャラなんだな」
「カテゴリ的にはそうなのでしょうかね?今度から語尾にいたしましょうか?」
なんか普通に怖い、とはどういう意味でしょうか?特定の語尾を執拗に使用すると妙なこだわりを感じて、狂気味が強調される?それはいつもの言動にも狂気的なものがあるという意味でしょうかね?ふーん?
「そのなんとも表現できない笑顔もやめてくれないか?」
「失礼な。無邪気な感情の発露ですよ?」
邪気しか感じない、むしろ邪というには闇がまだ足りないとは失礼な先輩ですね。ああでもこれを暗黒微笑とか書いてしまうと、感性が痛ましいということになるのでしょうね。大元は黒塗りの顔面に白く抜いた笑う口が描かれているような絵でしょうか?こんな感じで。
「漫画的表現では結構よく見るけど現実でそれをやれる人?は少ないよ!」
「科学の進歩とはすごいですね」
何か違う、とそれは絶対、科学とかじゃなくてオカルトの部類!とか叫んでいますが、光源とか言葉の選択とか、表情の作り方とかで錯覚させることは結構難しくないのですよ?演技のうちです。
「本質だと思う」
「……にっこり」
その先輩の悲鳴が心地よいという程度にはちょっとお茶目な性質だと、私自身も思うわけであります。