1日目
「100日で完結する物語を書こうと思う」
「のっけからパクリですか先輩、しかも微妙に時期を外しているような?」
とある地方都市の高校、放課後の空き教室、入り口の壁から垂直に伸びているプレートには、ひらひらとテープで止められて新春の風に舞う紙に、文芸同好会、結構達筆な筆使いで書かれているものが見えます。
カメラ、部室に移ります。一般的なパイプと鉄板を組み合わせた構造の骨組みな椅子と机、天板やら背もたれやらは、複合材、結構つやつやしているものの、ところどころに穴があったり、傷ついたりもしている歴戦の勇者感があります。
椅子の上に半ばあぐらをかくようにして座っている、メガネ女子。椅子の背もたれに身を預けて天井を、続編がしょうもなかったアニメ、その製作委員会を視線で殺すような目つきで睨みつけながら、淡々とはなった台詞が冒頭のものでございます。
私は、背中から日の光、暖房のない室内では貴重な自然熱源であります、を浴びながら、年末年始に買いためた小説、いわゆるライトノベルではあるもののむしろこれは文学作品ではないかなとか、つらつら思いつつ、読み進めていたところであり、その妄言を軽く流している。
彼女、”先輩”は常に妄言を放っている生き物であるという認識で私は過ごしている、これもいつものことではなかろうかなとか、綺麗にスルーするつもりで満載でありました。
「確かにすでに何番煎じかわからなくなってきている上に、もともとのものも興行成績が微妙なコンテンツではあるが、着目点というか、その参加しやすさ、オマージュのしやすさという点では、評価に値すると思うのだよ」
「誰目線ですが」
「ちなみに私は映画館にも足を運んだ」
「勇者か」
「虚無に立ち向かう勇気を持つものをそう呼ぶならば、私はそう呼ばれることもやぶさかではない」
ニヒルな笑いを浮かべているのであろうかな、と相変わらず天井を見上げている先輩を横目で見つつ、さて話題も尽きたであろうと、続きを読み進める私。
「まあ聴け、とあるつぶやきを最近見たのだが」
「先輩の情報ソースはだいたいそれですね」
「あれは、結構有益だぞ?まあ取捨選択が偏りすぎているきらいはあるが、まあ良い、聞け、それによると1日15分ほど何かに傾倒すれば、人生の1%をそれに費やすことになるらしい」
「……14分24秒では?」
「細かいことは気にするな」
つまるところ、1日15分程度執筆時間を取ることができれば、100日で長編小説を一遍完成させることができるのではなかろうかとか、連想したらしい。
「いつもの妄想ですね」
「時間で区切っていれば書かなすぎとか書きすぎということもなかろう」
「はあ、でどのようなお話にするのですか」
それはこれから決める、と、曰った先輩にいつもの胡乱げな視線をちらりと向け、手持ちの小説に没頭するのでありました。