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山に隠れた海は知らぬ

トットットットッ

何かが上へあがるような音


コンコンコンコン


BPM105ほどのリズムに合わせて音のない静かな広い廊下にハイヒールの音が響くーーーー




トンットンッ


「入りますよ」


扉の奥からそう言われた気がした。


ギギギィィーーーー


誰かが木製の扉をゆっくりと開け、ドアと壁を繋いでいる

丁番を金属が擦れる高い音を鳴らした。


「…………起きて、優里ちゃん」


誰かが、横を向いて寝ている自分の片肩を軽く揺らした。


「んん、……誰……?」


「リサだよリサ。早く起きて」


やはり自分を起こしに来たのはリサだった。


「ど、どうしたんですか、リサさん……」


「やっと起きた。今日から本格的にメイドとしてはた…………お手伝いするんでしょ?」


「あ、そうだ……そうだった……メイドになったんだった」

昨日の出来事を忘れていた私をリサが軽く笑った。


「初日から寝坊したらだめでしょ?だから………」

寝起きでフラフラしている私の胴体を支えるようにリサが両肩をがっしりと掴んだ。


「私が優里ちゃんを起こしに来たのさ。さっさっ早くカーテンを開いて太陽の光を浴びなさ〜い!」


彼女は私を急かすように言ってきた。

しかしなぜ私にカーテンを開けさせるのだろう。

良心で開けてくれても良いんじゃないかなと思いながら、軽くまぶたを閉じながらもカーテンを開いた。


目を開けると、そこには黄緑色の芝生が広がっており、

真ん中に大きな木が左右2本生えている。


左側は緑色の葉がみっしりと付いており、大きく赤い果実のようなものを実らせていた。りんごだろうか。


右側。つまり、私の部屋側の木ははが生い茂っておらず、

濃い茶色単色だった。枝は縦横無尽に広がるも葉は一枚もない。


この庭を見ると、何だか幻想的であり、神秘的でもあるが、どこか虚しい感じもする。




「つーかまーえた♪」


突然何者かに後ろから抱きつかれた。


「きゃ!!」


「ほほーー、かわいいねぇ〜」


振り向くとやっぱりリサだった。逆にリサじゃなければ誰だと言うのだ。


「どうしたんですか?……リサさん?」


彼女は不吉な笑顔をしながら私を離そうとしなかった。

彼女の手は腹の脇腹から胸の方へ近づいていきーーーー


トントン


「入るよ」


閉じている扉を誰かがノックしてドアを開けた。


そのとき、私に抱きつきて離れようとしなかったリサが、勢いよく離れた。


「ッ……どうしてリサがここにいる」


「優里を起こしに来ただけーーーー」


「そんなこと君には頼んでいない。いい加減にしろ」


部屋に入ってきたのはナシャさんだった。

ナシャさんは怒りをこらえるような声でリサを出て行かせた


リサはしゅんと、肩を落として部屋を後にした。


「…………ッ!大丈夫か?!何もされなかったか?!」


ナシャはリサがしっかりと部屋から出ていき、遠ざかるのを確認すると、心配するように私に近づいてきて聞いてきた。


「え、えっと……後ろから抱きつかれました……」


「チッ……あいつには気を付けて……」


「ど、どうしてーーーー」


「メイドたちは朝の7時からホールに集まって仕事をするのだが、7時までにホールに着けるように支度しておいてくれ」


彼女は私の質問を遮るようにこのあとの予定を言ってきた。


「ではこれで、失礼するよ」


そう言って彼女も出ていった。




どうしてリサに警戒しないといけないのだろう。

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