第99話 襲撃者の剣
城内の適当な部屋に着地した私は動き出す。
悠長にしている暇はない。
城は刻一刻とずれて左右に割れようとしていた。
私がやったこととはいえ、この先に待つのは大惨事である。
幾枚もの結界が出現して崩壊を阻止しているが、時間稼ぎにかならないだろう。
階下からはたくさんの悲鳴や怒声が聞こえてくる。
兵士達も混乱しているようだった。
まさか問答無用で城を両断されるとは思わなかったらしい。
今頃は結界の操作に手間取って苦労しているに違いない。
「その間に聖剣を取り返しましょうかね」
私は傾いた階段を下りていく。
時折、壁や床や天井が崩れるので注意しなくてはいけない。
既に斬撃の通った箇所が開いて、城は派手な断面を晒しつつあった。
下を覗き込んでみると、断面を繋ぐ粘液や氷が確認できる。
魔術師が尽力して阻止しているのだ。
兵器に頼らない従来の術者もいるらしい。
私は彼らの努力を応援しながら階下をを目指す。
別に追撃を放つ気はない。
ここで畳みかければ速やかに崩落まで持ち込めるが、それは私の目的ではなかった。
あくまでも聖剣シアレスの奪取が優先である。
首謀者達は確実に葬るにしても、ただ従うだけの部下まで虐殺する必要性は薄い。
襲われれば対処するものの、いたずらに殺すほど私は狂っていなかった。
口笛を奏でながら下りていると十数人の兵士と鉢合わせになった。
垂れ流しにした私の魔力に反応したようだ。
なんとも律儀なことである。
命が惜しくはないのか。
実力差くらいは分かるだろうに。
呆れているうちに彼らが魔術兵器を使用した。
高度な術式を組み込まれた杖から一斉に光線を連射してくる。
対空の砲撃を小型化したものらしいそれを、私は剣で四方八方に跳ね返した。
光線が城を貫いて破損させた。
さらには崩落を食い止める結界を撃ち抜いてしまう。
「お仲間の邪魔はされない方がいいと思いますよ」
私は兵士達を注意しながら、彼らの知覚できない速度で接近して首を刎ねる。
きっと痛みは感じなかっただろう。
自分の死にすら気付いていないのかもしれない。
せめてもの情けだった。
私は死体から拝借した杖で光線を乱射しながら進む。
途中で何度か兵士と遭遇したが、特筆するような出来事は起きなかった。
まるで再現したかのように同じ展開が繰り返されるだけである。
そのうち地上階まで辿り着いた私は、地下へと続く道を発見する。
道の先から聖剣の力を感じ取り、躊躇せずに踏み込んだ。