第97話 自由落下
自由落下の中、四肢を広げて姿勢を維持する。
胃の浮くような感覚はあるものの、わざわざ気に掛けるほどではない。
速度を調節しながら地上の様子に意識を向けた。
発達した都市は過剰な防衛力を誇る。
多重構造の結界は並の魔術では傷一つ付けられない。
それでいて内側から砲撃を放てるのだから反則的だろう。
どこの国の主力部隊だろうと片手間に撃退できる。
魔導国は密かに研究開発と配備を進めていた。
こうして非常時に運用できるように極秘裏に備えていたに違いない。
元来の技術体系に加えて、砂漠の大陸で得た古代魔術の文明は相性が抜群だったらしい。
きっと彼らが想像する以上の速度で発展していったのだと思う。
間違いなく世界一の技術力を誇る国だった。
(それを平和利用してくれれば完璧だったのですがね)
残念ながら魔導国は、すべてを戦争利用に繋げている。
放置していれば、砂漠の大陸での研究をさらに進めて国力を増大させていた。
人体実験の経過を見るに、兵士一人ひとりが一騎当千の力を得た未来も遠くは無かっただろう。
その挙句に魔神を復活させて兵器化するつもりなのだ。
世界の覇権を握るどころか、下手をすると滅亡させてしまうのではないか。
まったく厄介な国である。
(私が早く気付けてよかったですね)
嘆息しながら高速で落下していく。
ナイアと勇者パーティーはいずれ追いかけてくる。
だから私の役目は魔導国の無力化だ。
此度の悪事に関わる者達を徹底的に斬る。
そうして出来上がった功績を彼らに押し付けるのだ。
今回は国際問題にもなるので、面倒事はすべて勇者パーティーに譲りたいところだった。
彼らも世界を救った英雄になれるのだから本望だと思う。
一応は解決の遠因となるので嘘にはならない。
今後の計画を練っていると、都市からの砲撃が再開した。
精密な射撃の連打は、私だけを狙って弾を撃ち込んでくる。
今回は物理的な砲弾と魔力の光線が混ざっていた。
防御を混乱にするための工夫だろう。
単純だが悪くない手段である。
(まあ、私には通用しませんけどね)
足を閉じて高速落下の体勢を取ると、迫る攻撃を残らず叩き斬っていく。
遥か頭上の飛行船に命中してはいけないので、特に念入りに破壊しておいた。
余裕ができてきたので砲撃を跳ね返すのも忘れない。
魔導国には、誰と戦っているのか憶えてもらわねばならなかった。
この程度でやられるほど軟弱ではない。