第96話 救出劇
その時、脳内にナイアとは別の思念が流れてきた。
微かにざらついたその思念は私に語りかける。
『剣聖リゼン……聞こえるか』
「シアレスさんですかね」
『然り。なんとか思念を飛ばせたので汝に話しかけている。勇者はなぜか気絶しているようでな』
どこか非難する口ぶりなのは、私が原因であると気付いているからだろう。
確かに勇者が気を失っているのは私の責任である。
このまま追及されても困るので、とりあえず話題をずらすことにした。
「攫われたようですが、大丈夫なのですか?」
『今のところは平気だ。しかし事態は切迫している。魔導国は我を利用して魔神を復活させるつもりらしい』
シアレスが気になる単語を述べる。
私はすぐに復唱した。
「魔神ですか」
『会話が聞こえたのだ。我の中に残る瘴気を触媒に蘇らせる気なのだ。魔導国は、魔神を兵器運用して世界の覇権を握ろうとしている』
「なかなか壮大な計画ですね。とても成功するとは思いませんが」
『失敗した場合でも魔神が復活するかもしれない。だから絶対に食い止めねばならない』
シアレスの思念に緊張が滲んでいる。
それを隠せないほど追い詰められているようだった。
思念からは悔しさも感じられた。
(思ったより危機的な状況ですね)
ナイアの予想は概ね的中していたが、それよりも酷い。
魔導国は禁忌に手を染めようとしている。
聖剣が世界崩壊の鍵になるとは、なんとも皮肉な話であった。
『我は魔導国の首都の地下にいる。力を封じられているが、汝ならば辛うじて感知できるはずだ』
「そうですね。なんとか捕捉できました。気を抜くと見失いそうですが」
『もうあまり時間がない。助太刀を頼めるだろうか?』
「当然やらせていただきますよ。報酬はたっぷりと貰いましたからねぇ。すぐに救出しますのでもう少しお待ちください」
そこでシアレスの思念が途切れる。
力の限界が訪れたのだろう。
「聞いていましたか、ナイアさん」
『うむ。世話の焼ける奴じゃな。吾らが助けるしかなかろう』
「同感です。ついでに世界も救いましょうか」
私は悠々と言ってから地上を見下ろす。
砲撃が始まる気配はない。
今ならちょうどいいだろう。
「私は先行して道を切り開きます。勇者パーティーと共に後から来てください」
そう告げた私は飛行船から飛び降りた。