第93話 底力の先
勇者の片腕が脈動する。
その間隔に従って光の斬撃が持続的に放出された。
彼の斬撃は砲撃に炸裂してから拡散する。
単純に破壊するのではなく、砲弾の慣性を削いでいるようだった。
そうして奪った力を変換しつつ吸収し、竜機鎧の糧にしている。
半永久の仕組みを構築することで、破滅的な規模の砲撃に対抗していた。
(面白い技ですね。私では閃かない発想です)
私は奮闘する勇者を少なからず評価する。
竜機鎧や聖剣シアレスに頼らなければ成立しない技だが、二つの要素を存分に活かして結果に繋げている。
勇者は実力不足を知恵と工夫で補ったのだ。
その姿勢は素晴らしいものと言えよう。
ただし、些細な抵抗で抑えられるほど魔導国の砲撃も甘くない。
光の斬撃を浴びて勢いを落としながらも、じわじわと飛行船に迫りつつあった。
後方から追加の砲撃を当てることで無理やり押し込もうとしているようだ。
勇者は脂汗を垂らしながら歯を食い縛る。
「ぐ、この……っ!」
「大丈夫ですか。出力が足りないようですが」
「ちょっと、厳しいなクソ! 早く手伝いやがれェッ!」
「ふうむ。言葉遣いが悪いですね。王国で礼節を学ばなかったのですかね」
私がため息混じりにぼやくと、勇者が盛大に舌打ちした。
そして彼は畳みかけるように謝罪と懇願を口にする。
「分かった、分かったから! すまない! 手伝ってくれ! 俺だけじゃ無理なんだァッ!」
「承知しました。微力ながら支えましょう」
頷いた私は勇者の肩に手を当てた。
彼の魔力を感じ取りながら悠々と宣言する。
「せっかくですし、勇者殿の力を利用しましょうかね」
「俺は、どうすれば、いい……!?」
「全力で攻撃を放ち続けてください。加減すれば全滅しますよ」
「くそったれがああああぁぁァッ」
絶叫する勇者が片手を突き出して、光の斬撃をさらに飛ばす。
竜機鎧が軋みながら光を明滅させていた。
限界を超えた負荷に悲鳴を上げているのだ。
長くは持たないだろう。
そこまで把握した私は、勇者の体内の魔力に介入する。
(魔力の循環を良くしてみますか。出力を限界以上に上げてみましょう)
肩に当てた手から、激動する勇者の魔力を捉えて整えていく。
その上で無意識に制限された力をこじ開けた。
魔力を使ってその門を開きっぱなしに固定する。
呻く勇者が鼻血を噴き出した。
あまりの負荷に肉体が拒絶反応を示している。
「う、おごァッ」
「気合で耐えてください。ここで踏ん張るのが勇者ですよ」
「わがっ、でる……ッ!」
鼻血を垂れ流す勇者は、真剣な顔で力を放ち続ける。
その姿は英雄と評するに足るものであった。