第92話 勇者の力
その後も幾多もの砲撃が襲いかかってきた。
だんだんと苛烈になっていることから、魔導国の本気度合いがよく分かる。
私は先読みを駆使しながら迎撃する。
多種多様な砲撃が私を傷付けることはないものの、飛行船に損傷が重なっていく。
向こうの技術力は、一側面において私の剣術を凌駕しているのだった。
実に悔しいがそれを見せている暇もない。
ナイアが霧の身体を使って補完するおかげですぐさま墜落するようなことはない。
何度か危うい場面を迎えながらも、私達の移動は続く。
やがて遥か遠くの地上に都市が見えてきた。
天高い建物が居並ぶ発展した街並みは、膨大な魔力が循環しながら運営が為されているのが窺える。
雲の合間から覗くそれは魔導国の首都であった。
すなわち目的地だ。
私は地上からの砲撃を弾きながら微笑する。
「そろそろ到着ですね。無事に飛行できました」
『無事どころか、本当に紙一重じゃったがな。命がいくつあっても足りぬわ……』
「安心するのはまだ早いですよ。最後のひと踏ん張りです」
私がそう言った直後、首都で数千の光が瞬いた。
さらに砲弾の流星が飛行船を狙って一斉に昇ってくる。
感動しそうな絶景だが、実際には我々を消し飛ばすための攻撃だった。
ナイアが緊張した声音で私に問う。
『リゼン、あれはどうにかできそうか?』
「不可能ですね。損害を抑えることはできますが、どうやっても防ぎ切れません」
私が首を振ったその時、勇者が飛行船の上によじ登ってきた。
彼は風で吹き飛ばされないように気を付けながら言う。
「諦めんのが早いな。あんたらしくもない」
「そうですかね。私はいつも客観的な事実に基づいて意見を述べています」
「うるせぇ。さっさとやるぞ。俺とあんたで叩き潰す」
勇者が魔力を解放する。
同時に彼の着用する鎧が光を帯びて起動した。
無数の術式が効力を発揮して、勇者の力を飛躍的に高めていく。
(竜機鎧による瞬間強化ですか。完璧に使いこなしていますね)
機内で何をしているのかと思っていたが、これだったらしい。
どこかで自分の役割があると考えていたのだろう。
実に勇者らしい行動である。
「ここに、俺の能力を織り交ぜる……ッ!」
勇者の片腕が白い光に包まれた。
魔力だが性質が特殊だ。
それを察した私は指摘する。
「聖剣の力に似ていますね」
「シアレスから伝授されたから間違いじゃない。聖剣の力をほんの少しばかり借りて、それを体内で慣らしてきた。増幅された力は俺の一部になっている」
「つまり、肉体を疑似的な聖剣にしていると?」
「そういうことだ。何度も止められたが、俺は成功させたんだ。あんたを超えるためにな」
勇者が光り輝く片腕を掲げる。
その目は絶望的な砲撃を見据えていた。
「――疑似聖剣。この技で道を切り開く!」
吼える勇者が腕を振り下ろす。
聖なる光が空間を切り裂きながら放たれた。




